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モーツァルト・「魔笛」序曲、パミーナのアリア

2004年に書いた解説原稿をweb用に加筆修正してみました。ピアノチクルスでちょうどモーツァルトの晩年の曲やるし、自分の頭の体操にちょうどいい

レクチャー原稿も補強できるし...


日本で12月といえば「第九」というイメージが定着していますが、ヨーロッパの12月といえば、やはりオペラでは「魔笛」、バレエでは「くるみ割り人形」でしょう。

この2つの作品は、クリスマスから年末にかけての子供たちの定番です。「魔笛」は子供向けに、より楽しく、わかりやすくアレンジして上演されることも多く、子供たちはうれしそうに鑑賞し、付き添いの親たちも、とても楽しそうです。怪物や魔女も出てくるし、いくらでも子供向けに楽しく演出できる。こういう公演が盛んなのはヨーロッパのいいところです。

ベルンとウィーンの子供用の魔笛の公演をちょっとご覧下さい。超楽しい!いいなあ

この上質なメルヘン「魔笛」には、実は裏の顔があります。

以前からこの作品のストーリーの支離滅裂さはよく指摘されてきました。王子タミーノは、ザラストロに囚われた夜の女王の娘・パミーナを救出に向かいます。しかし救出に行ってみると実はザラストロは善人で、夜の女王こそが悪人だということが判明します。いよいよおもしろくなるぞ、と観客は期待するわけですが、物語はここから突然趣きを変えてしまいます。おもしろくもない禅問答が繰り返され、厳しい修行が始まってしまうので、観客は当惑してしまうのです。何らかの事情で物語が変になってしまったのではないか、などいろいろな説が囁かれてきましたが、これは当初から予定されていた筋立てであることがわかっています。

モーツァルトはウィーン時代には理想的社会建設をモットーとする秘密結社「フリーメイソン」に属していました。秘密結社と言っても犯罪的カルト集団みたいなのとは全く違います。ロータリークラブやライオンズクラブに近い感じでしょう。革命の年・1791年に完成した「魔笛」にはフリーメイソンの理念や思想が強く投影されていたのです。フランス革命をリードした人たちの中にはフリーメイソンの会員も多数含まれていました。フリーメイソンの信条である“自由・博愛・平等”は、そのままフランス革命のモットーになっています。“自由・博愛・平等”の三位一体ですから、このオペラは徹底して「3」にこだわります。3人の侍女、3人の童子、3人の神官、冒頭の3つの和音...フリーメイソン的で、同時に極めて政治的です。

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フリーメイソンなメルヘン劇を目指して、フリーメイソンの理念やその儀式までも一気に盛り込んだので、ちょっと物語が変てこになってしまったのでしょう。「魔笛」は、無知なタミーノがフリーメイソンと出会い、数々の試練を受けながら成長していくという、フリーメイソン版ビルドゥングス・ロマン(教養小説=青年の自己形成物語)でもあったのです。
 まず序曲を聴いてみて下さい。コリン・デイヴィス指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団の堂々たる演奏。この英国ロイヤルオペラの2003年の「魔笛」は何と言ってもディアナ・ダムラウの最上の夜の女王(彼女は当代最高の夜の女王です)が聴き物です。キーンリーサイド のパパゲーノ、レシュマンのパミーナとキャストが揃ってます。ぼくはキーンリーサイドが演じるルンペンみたいなのにどこか品のあるパパゲーノは結構好きです。(イギリス的ってことでしょうか...チャップリンのルンペン紳士の伝統)

第2幕のパミーナのアリア"Ach, ich fühl’s, es ist verschwunden"を聴いてみましょう。パミーナが

『ああ、わたしにはわかる。幸福が永遠に去ってしまったことが!あなたは二度とわたしの心には戻ってこない』

と、切々と悲しみを歌い上げるこのアリアは、非常に有名なものです。胸を打つ音楽です。この動画も2003年のロイヤルオペラのドロテア・レシュマンです。

レシュマンも素敵ですが、実はぼくが一番好きな歌唱はバーバラ・ボニーのものです...

コリン・デイヴィス指揮のモーツァルトはとにかく風格があります。ピリオドブームの以降のスタイルではなく伝統的なスタイルの演奏ですが、堂々たる恰幅の良さと生き生きとした表現が両立した素晴らしいものです。バイエルン放送響とのポストホルンセレナードグランパルティータの素晴らしい動画をぜひご覧下さい。

ぼくはコリン・デイヴィスのモーツァルトでは特にレクイエムの演奏(1984録音)が凄いと思ってます。2004年の演奏も名演ですが、ぼくは1984年の凄まじい気迫のこもった演奏にとても愛着があります。Youtubeに全曲の動画があればいいのですが...今はソフトも手に入るかどうか…

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