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繋星家 end?

後日、ある開発都市が一夜にして更地になったと、ニュースがやっていた。
もちろん記録は一切残っておらず、ネット上では夜中に地震があったという意見が多く、地震による自然災害では無いか?などと憶測が飛び交っていた。

一部の過激派として、ここまで大きな陥没を作るのは、エイリアンの仕業だとか、ミステリーサークルだなどの意見もあった。

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「やっぱこの家以外で力使っちゃ駄目だね…はいコーヒー」

そう言ってコーヒーのカップを渡し、隣に座ったのは長女の雨音(あまね)だった。

「…そもそも雨音が行ってたらこんなことにはなってなかったよ」

呟いて、僕はコーヒーをひと口すする。

「そりゃ、私だったらこんなやんちゃはさせないけどね」
「けどもし斬弥が暴走したら、止められるのはアンタだけだし、結果オーライよ」

呑気にそう言って笑う雨音は、歳は僕の一つ下だが、精神年齢はずっと上だった。

「この家でしか使えないなら、僕らの力って一体何のためにあるんだろうね」

コーヒーのカップを置いて、僕はリビングのカーテンを閉めた。

「さあ…本当は堂々と人助けとか出来たらいいんだろうけどねぇ」

「それって、ヒーローになるってこと?」

座りながらそう聞く僕に、雨音は大きな口で笑った。

「ヒーローいいね!いっそスーパーヒーロー一家にでもなれたらいいなぁ!」

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僕が生まれて間もない頃、父が自ら作ったこの家では、何故か力による傷がすぐに直る。
僕が床を割って地面から岩の塊を出しても、床はすぐに元通り。
雷莉が泣きじゃくって家中の電気機器を破壊しても、すぐに電気は普及する。
斬弥がいくら家に傷をつけても、物を断裂させても、父がいた頃からある物に限らず、この家にある全てのものが、数時間もしないうちに元に戻る。
だから我が家では、「この家以外での力の使用は禁止」というルールになっている。

ただし、雨音の力は例外で、雨音が手から出した水で濡れた家の中の部分は乾くが、外の天気までは制御出来ない。
小さい頃、雨音が怒られて泣くと、涙の量は常人の何十倍で、その度に家が少し浸水したが、家の中はすぐに乾いた。
しかし泣くだけでは足らず、雨音自身が怒って外で雨が降ったあとは、地面は自然とおなじくらいの乾くスピードだった。

これには父親も仕方が無い、とだけ言って、特に何かしようとはしなかった。

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僕らは、力があっても隠すことが義務だと母親に教えられてきた。
けれど父親からは、「その力は天からの贈り物で、使うべき時は必ず来る」と言われてきた。

斬弥が海を割るほどの力だと分かってからは、その力を恐れたのか、あまり言わなくなったけど、僕と雨音は、ずっと父からの言葉を信じてきた。

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「…"使うべき時"って、いつ来るのかな」

僕が呟くと、屋根にぽつりと雨が降った。
それは段々と大きな音になって、外はすっかり大雨になった。
ふと雨音が立ち上がって、カーテンを少しだけ開けた。

「…雨音?」

雨音は急に静かになって、ただ外を眺めていた。
ニュースの音がどんどん聞こえなくなって、天井から1滴雨粒がたれてきた。

「雨音!」

僕が呼ぶと、雨音はハッとして、雨粒は蒸発した。
外の雨も段々とやんでいって、薄暗い世界に曇り空だけが残った。

「……父さんの話は、しないで?」

悲しそうに笑うと、雨音は部屋を出ていってしまった。

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――ふと、目が覚めた。

また夢か。
そう気付いて、怠い身体を起こす。


僕の頬は、冷たい雨粒で濡れていた。

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