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『虫ケラ変身』続ける!毎日掌編小説23回

 耳を劈く悲鳴が聞こえる。「僕の出番だ!」

 エンジンがかかり、ガレージのメカニカルな扉が開く。チカっと日の光が反射して、ゴーグルが光った。真っ白の歯が弧を描く。その表情は自信に満ちていた。

 ハンドルに力を込めて、アクセルを思いっきり踏み込んだ。

 車体は弓で射た矢の如く、車道を縫って進む。鮮やかな赤に染っているボディーは長い白線を映した。

 現場に到着し、車を勢いよくおりた。そして僕は力強く言った。

「変身!」
 
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 時は数ヶ月間にまで遡る。このお話は、僕がヒーローを始めるまでに至ったきっかけについてだ。

 昔の僕は今とは正反対、街一番の弱虫だった。

「変身?」全ての始まりだ。

 超天才サイエンティストで有名な博士に、たまたま目をつけられてしまい、数ヶ月後に来る最悪と、僕に変身して立ち向かってくれないかと頼まれたのだ。

 あまりにも荷が重かった。僕にヒーローが務まるのか、不安でたまらなかった。失敗が怖い。こんな僕をどうして選んだのかまるでわからない。ただ、交差点を通っただけなのに、突如声をかけられたのだ。

 結局は、変身するために必要なベルトを強引に押し付けられ、持って帰って来てしまった。僕の家は交差点に面していて、昼間なんかはもう本当にうるさかたった。しかも近くには銀行、博士の研究所、公園があるから、いろんな音が聞こえてきた。

 刹那的に突然、小さく僕の頭が揺れた。鼻の奥を焼くような臭いがした。静かだ。しんとしている。

「火事だ!消防を呼べ!」声は不気味なほど静かになっていた交差点の中から聞こえた。急いで窓から体をのり出した。交差点を3階から眺めた。「銀行だ!銀行が燃えてる!」

 僕の足は気がつくと動き始めていた。ベルトが視界に入る。2秒ほど沈黙した。

 行ってどうする?僕に何ができる?消防や警察に任せればいいだろう。ベルトへ伸びた手は収められた。

「強盗です!誰か助けて!人質に取られている人がいるんです!」

 僕の毛は逆立った。心がキュウっと小さくなるようだった。みんなの期待に応えられるかわからない。失敗してしまうかもしれない。誰も救えないかもしれない。でも、こんな自分から変わりたい。好きなことを好きなようにできている自分が大好きだ。なのに、今は怖くて、足がすくんでできない。あの時、交差点を渡るときはたまたまだったんだ。気がついたらおばあさんを抱えてて、車が勢いよく通り過ぎた。偶然だったんだ。

「……クソッ、動けよ、俺の足動けよ!」変われない自分が大っ嫌いだ。

「博士が中にいるんです!」また声が聞こえた。

 博士が……博士はこんな僕を信じてベルトを託したんだよな。僕は博士に未来を託されたんだ。助けないと、変身しないと。博士に応えたい。変わりたい。強くなりたい。恐怖は忘れろ!じゃないと絶対に後悔する!

 僕は颯爽と玄関を飛び出し、ベルトを手に、博士の元へ走った。
 

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Thank you for reading !

あとがき
今作を執筆していて、思ったことがあります。それは。
睡眠は大事だということです。大事なことなのでもう一度。
睡眠は大事だということです。
毎日、作品の完成が23:30とかがほとんどで、体や執筆の捗りでも好調とは言えませんでした。しかし今日は13時前後で最低15分、最高30分まで寝ると全然違うと聞いたので、15分だけ寝てみました。
すると驚くほど効果があって、びっくりしました。
もうすでにご存知の方もおられると思いますが、ぜひ騙されたと思って実際にやってみてください!世界が変わります!

最後まで読んでくれてありがとう!🙏

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