続ける!プロの小説家を目指して毎日掌編小説を書く。 『アイどんとライクみー』

ここ、世界が誇る、セントラルメインカンパニー株式会社の社員は決して変わらない。
週に一度の今日は、リセットがある日だ。
リセットはどんなに疲れていても元気をくれる機械だ。
実は体を蝕む副作用がある。でも私は家族のために身を粉にしてでも仕事に取り組まなければいけない。
そう、この会社はいわゆるブラック。私は会社にとって扱いやすい家畜。私の人生は面白みのないスノードームのようだった。

この日までは……。
「俺はハル!たこ焼きが好きや!」
派手なオレンジ色の髪に黄色い瞳、職場にそぐわない服装に関西弁。その男は突然このブラック企業にやってきた。
「ハルって呼んでなぁー!入社理由は彼女を作るためですー」
この人どうやって面接受かったの?私はしばらく危なっかしくてハルから目を離せなかった。
すると、ハルが近づいてきた。
「さっきからどうしたんや?俺のことジロジロ見て」
とても顔が近い。
「え……あ、その」
全然言葉が出てこない、一体私どうしたの?!
「……おーい、大丈夫か?」
ハルは私の目の前で手を振る。
結局何も言えず、彼は私の「あわあわ」を笑いながら去っていった。顔の表面がとても暑い。
その後も私は一歳仕事に集中する事ができなかった。それも、ハルが急に隣でたこ焼きを焼き始めたり、誕生日会を開いたりと壮絶だったからだ。
「あ、あなた一体どういうつもり?ここは会社よ?遊ぶ場所ではないわ!」
イレギュラーに順応し始めているのか、私はついに言えた。するとハルは若々しい声で言った。
「……先輩面白いナァ。それホンマに言ってん?会社という場だからこそ楽しまなー、じゃないと頭腐って行く一方やで、そやろ?俺はもうそんな生活嫌なんや。そや、お前が本音を言えたら俺がお前のこと好きになったるわ」
「は?!ど、どういう意味よ?!」
「じゃあな、この後パーティー開くねん。そうや、お前も一緒に行くか?」
「い、行くわけないでしょ?」
私はそういうと、彼は話した時とは逆にそっけなく去って行った。

……私のバカ、本当は誰かが私を変えてくれるその日を、待ち望んでいたのに。でもいざその時が来ても、私は元に戻ることを願ってる。自分でもわからない。一体どうすることが正解なの?
目線の先にリセットを使おうとするハルの姿があった。
私はハルの言葉を思い出していた。「お前が本音を言えたら……」そんなの、言えたらどれほど楽か。でも出来ない。こんな行動に意味なんか、意味なんか……。
こんな自分が嫌いだ。何も変化できない自分が嫌いで嫌いで。ちゃんと自分のためにしたいことがあるのに。本当は大切にしたいのに。一番は、こんな自分を嫌う自分が嫌いだった。
足がすくんで椅子に飲み込まれて、立ち上がることさえ鉛のように重たく感じるけど、変わらないと絶対に後悔すると思う。私は、私を貫き通す!
「ハル!リセットから離れて!」
だから一歩を歩む。私が私を好きになるために。

おわり

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