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[連載短編小説]「ドァーター」 第二章

第二章 貝殻

※この小説は第二章です。第一章からご一読されますと、よりこの作品を楽しむことができます。ぜひお読みください!
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_________本編_________

 今朝、彼女から再び連絡があった。
 務所から解放されたのは三日前のことだ。それっきり一葉から連絡はなかった。僕は牢獄で初めて会った一葉から、娘の存在を知った。一葉は僕の遠い親戚だと言った。確かに名前だけは聞き覚えがある。しかし、こいつと話しているとどうも調子が狂う。まるで血のつながりを感じない。
 スマホの陽気なbgmで気がつき、ポケットから手とスマホを出した。
「今いいかしら?」その一言から始まった。液晶画面に耳を当て、スピーカーから柔らかい声が聞こえた。一緒に電車のような雑音がする。
「一葉、やっと電話をかけてきたな」
 僕は少し焦っていた。未だ、こんなにも簡単に釈放が認められたことが腑に落ちないのだ。
 一葉は一握りのため息をついた後、話を続けた。「2人の娘の準備が整ったわ」
 少々呆れている様子だった。
 連絡を待て、と言われてから3日。娘の護衛が始まった。牢獄から解放するための条件である。期限は100日、この間二人の娘を国の連中からなんとしても守らなければいけない。
「もし、守り切ることができなければ、二十二にそじにこの世で最も恐ろしい刑罰が下される。どの世であってもあなたは生きることを許されなくなる」一葉は真剣に言った。「お願いだから、そんなことにはならないようにしてね」僕の心臓はドキンと強く打った。しかし、今は娘さえ無事でいてくれればどんな刑罰であろうと受け入れる思いだ。僕にはそれだけの罰が必要だ。

 僕は指定された住所まで、電車を使って向かっていた。次の駅で到着する。到着してしまう。人気の少ない車内、僕は俯いて目を瞑っていた。
 よくよく考えてみると、娘たちは父である僕と、生まれ初めて会うことになる。彼女たちは僕を気持ち悪いと思うだろうか。僕は彼女たちをちゃんと愛せるのだろうか。妻の大切な娘だ、良い父であらなければいけない。なんにせよ不安でたまらなかった。そんなことがひたすら頭の中で駆け回った。100日間、娘たちにとって良い父であれるだろうか。血の気が引いていくようだった。
 
 自宅の前まで到着した。自分でも驚くほど、足がびくともしない。だからこの時、自分を奮い立たせるためにあることを思い出した。
 国は死刑囚である僕の釈放を認めた。これだけ聞けば、国はただのバカにおもえるかもしれないが、その裏には僕を「どれだけ苦しめて殺そうか」と考えている。逆を言えば、僕はそれだけ、罪が重いことをしたのだ。
 妻はかなりいいとこのお嬢さんだったから、そんな妻を守れなかった、最低な僕を国は許せないのだ。
 妻を守れなかったんだ。思い出した。それだけでも心が砕けるほど痛む。だから僕に拒否権はない。そして、今逃げるなんてもってのほかなのだ。

 妻を守れなかった僕は娘たちを守れるのだろうか。
 僕は唾を飲み込んで、そっとインターホンを押した。複数の足音が近づいてきている。きっと、警戒しているのだろう。
 僕は、また守れず、失うのだろうか。失うのが怖い。もう過ちを繰り返したくない。あの、妻を失った時に感じた、ぽっかりと何かが無くなったような感覚をまた味わうのはもう嫌だ。
 そしてドアの隙間がゆっくりと空いた。隙間からポカポカとした木の目のあるフローリングが見えた。
 一瞬笑顔の練習をして、瞬時に口を縛った。その時だった。とんでもない勢いで扉が開く。何事かと思った、そして僕の予想を遥かに裏切った。
「パパ、おかえり!ずっと、待ってたよ!」
 君の声は太陽のようだった。そして僕を優しく包み込んだ。その笑顔は、僕をまるで呪縛のように、罪の鎖のように縛って離さない。
 どうしてそんなに笑顔なのか。

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毎日続ける掌編小説。29/360

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