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「一億年間ずっとあなたの妹でした。忘れてね」

___第一章 失ったもの___

 昼夜問わず、町中光が溢れ、永遠と思えるほどずっと車が視界を走る。車はカラフルな光の線のように見える。エンジンの音はしない。聞こえるのは、風を切る音だけ。

 そんな高速道路の下。朝ですら光が届かない暗い民家に俺たちは住んでいた。サイボーグになった奴らはみんな頭がおかしくなっちまった。人を簡単に殺す。生身の人間をいたぶることを好んでる。そんな奴らだから、絶対に俺たちをサイボーグにしてはくれない。

 機械と融合すれば、病気や怪我、老化の心配がなくなる。無限の命が手に入るんだ。俺はそれが欲しくてたまらなかった。最悪が訪れるまでは。

 今は、タイムマシーンも開発されてて、世界でトップの金持ちがそれを持ってる。もし俺が使えたら、こんな世界変えてしまうのに。

 サイボーグたちに何度も襲われるから、こちらは金に困る。毎日まともな食事もできない。

 俺には優しい妹がいる。名はマイという。マイは俺にとって最後の家族だ。絶対に失うわけにはいかない。「俺が絶対に守る」

 ある日の冷たい夜。屋根に穴が空いた家に奴らがまたやってきた。サイボーグだ。生身の人間は誰も、サイボーグには勝てない。ただやられるだけだ。殺されはしない、半殺しにされるのだ。あまりにも酷く、痛めつけ終わったら有り余った金を置いて去っていく。これは意味がわからないが、合法化されている。一体誰が考えたんだ。まるで人の心だとは思えない。

 しかし、それがサイボーグなのだ。金を渡せばチャラだと思っているような奴らなのだ。その非道な行為は遂に一線を越える。

 マイは、いつも殴られるのを庇っている俺をすぐ横で今まで見つづけてきた。それがきっかけだったのだろう。一瞬のことだった。俺の視線はマイの踵が上がったのを瞬時に捉えた。次の瞬間、サイボーグが図太い腕を振り上げた。マイは俺を庇って暴力をもろに受けてしまった。

 マイは吹っ飛んでいった。3回ほど地面をバウンドして静止した。頭の中は白の一色に染まった。悲しいとか、憎いとか、もうごちゃごちゃになっていた。マイの元に急いで向かって、抱き上げた。何度も声をかけた。すると、薄く目を開いてマイは言った。

「アタシだって、役にたてるもん……」

 フッとマイの体が軽くなった。声をかける。しかし反応はない。

 そんな何もできない無力な自分に反吐が出た。サイボーグのやつも放心してて、口が開きっぱなしだった。あのサイボーグでさえも驚いているようだった。

「わ、悪い。でも、嬢ちゃんが飛び出してきたんだ。俺ぁ、悪く、ねぇよな?」

 サイボーグは言った。最後には声が裏返っていた。
「どうしてそうなんだ!」俺は吹っ切れて言った。「おまれらだって元々は人間だったはずだ!なのに!」

 俺はそこまで言うと、言葉を飲み込んだ。俺が言えたことではなかったからだ。妹一人守れなかったのは俺の方だ。兄貴失格だな。俺がマイを殺しちまったんだ。

 マイは俺の腕の中で少しずつ冷たくなっていく。マイを救う手立ては俺にはない。

 今では、生身の人間が一番もろく、いつかは消える蝋燭のように儚い。

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最後まで読んでくれてありがとう!

To be continued..?

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