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掌編小説『冷たい』22回目

 冬のひりついた空気を肌身で感じる。日は次第に短くなって、仕事場へ向かう道はもうすでに暗い。やっぱり風も冷たくて隙間を通って首筋をスウっと、通った。
 
「バイト、憂鬱だなー」と僕は心の中でボヤついた。僕は店に入ると、店長と挨拶を交わし、早速仕事に取り掛かった。

 僕の仕事はというと主に接客だ。

 今日はお店に、一人もお客さんが来てなくて、僕は無意識につま先と踵が交互に上下してた。いつにも増して暇だった。

「ほんまあいつアホやわー」首筋に水滴が落ちたようにヒヤッとした。「なんであーなんやろ、私いっつも言っているのになーあんたもそう思わへん?」
 と、店長がもう一人のバイトの子と話をしていた。
「そうですよねーわかりますわかりますー」上部だけの表情を浮かべているようだった。

 まただ、そう思った。

 店長がたまにするバイト仲間の愚痴。この話になると店長もそうだけど、うまく同調しているあの子もどうかと僕は思ってしまう。同調していれば印象が良くなるからだ。店長からの印象が悪くならない。何か言っておくことで、私も味方ですよ・・・・・・・を見事に演じることができる。

 この空間は僕にとって冷たすぎる。人はこれほどまでに冷たくなれるのだ。

 関わらないでおこう。

 そんな僕も愚痴を言われたくないという、僕の恐怖で動こうとしない。僕も人の血が通っていないんだ。どこかで、その人を妬む気持ちが芽生えてしまっているんだ。それは何よりも冷たくて冷酷だ。

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最後まで読んでくれてありがとう!

この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

日々、毎日小説を書いていると、やはり自分の成長を感じ取ることができて、とても楽しいです!

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