続ける!毎日掌編小説。17回目『遠い幸せの地』
毎年の金がかかることだけを思わせる冬だ。
「×△○××」
僕は体の中に溜まる憎悪を吐き出して、すっきりした。恐ろしい言葉だ。
君は泣き出しそうな顔をしていた。ざまぁみろ、そう本気で思った。
どうせ本当に死ぬわけじゃない。明日謝れば終わりだ。
みんな僕の前から消えた。
すぐに謝れば良かった。そんな後悔が今さら現れる。もう謝る君はいないのに。
「リア充どもめ、消えろよ」
自分の失敗から逃げて、相手の成功を妬む。外に出ればこれの繰り返し。
こんな世界消えて仕舞えばいい。本気でそう思った。
「ごめんね、もうあなたを養っていく力はないわ」
家族からも縁を切られた。隠しきれていない失望の目が見えた。
もっと大切にするべきだったのかもしれない。でも、もう何もかも遅い。
お金は小銭だけ。仕送りももうない。でもこう思うことにした。「辛いのはいいこと」
今日無理をするから、今辛くてもきっといいことが今後来るんだ。幸せは常に平等なのだから。
と、本気で思った。不利な時だけその言い訳を使い、自分のためにならない奴らをコケにした。
幸せは待っていても来ないと言うのに。
辛いのは大っ嫌いだ。辛いことが人を成長させるというが、そんなのは嘘に決まってる。こんなのは耐えるもんじゃない。
挑戦もしたことがないのに、辛いことを嫌った。
「君のことが好きだった」
今そう言われた。病室の中、管が何本も彼女に刺さっていていた。唇は枯れ果てていて、目の下に濁った色のクマがあった。
中学校の頃に、“一葉“は学校一の美人だと謳われていた。でも今は見る影もなかった。
そして、今やっとこの人の名前を思い出すほど僕にとって大した存在ではない。
5年ぶりにメールが来た。この時、一葉が先月事故で重傷を負っていたことを知る。美人であったし、クラスが同じだったからか、結局会いに来たのだ。
でもがっかりした。すぐだった。
「今も好きです」
彼女の声も、瞳も、今にも消えてしまいそうなほど空ろで、優しい目だった。
後悔したくなかったらしく僕を呼んだらしい。もう長くないから。
「今まで会いに行けなくてごめんなさい」
そう彼女が苦しそうに謝罪した後、すぐ隣にいた一葉のお母さんが説明した。
「この子は、とても恥ずかしがり屋で、何回もあなたに声をかけようとしたけど、何回か目が合うだけで逃げ出してしまったそうよ。良かったら最後に、一葉の手を握ってやってくれないかしら」
僕は彼女の手を握ってやろうと思った。でも、こんな汚い手じゃ触れられない。触れられるわけがない。きっと僕の本性を知ったらがっかりして、気持ち悪がって、好きじゃなくなるはずだ。だから触れなかった。
そのまま家に帰った。
深夜3時ぐらいだった。一葉は行ってしまった。
その瞬間、大粒の涙が溢れだす。最低だ。
「もう後悔したくない!」
「幸せをこれ以上失いたくない」
泣いて、泣いて、泣き続けた。
「私、花が好きなんだー。紫色の花」
その頃はどうでも良かった。
残りの金で花を買った。紫色の花だ。家族に、友人に渡そうと思う。次がもしあったら、その時こそ人の手を触れられるようになっていて欲しいから。
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最後まで読んでくれてありがとう!
まだまだ、小説が未熟極まりないですが、一日一日を大切に努力していきます!
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