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私の体は子供たちのかけらでできている。 私たちの心はガラスでできていて、脆く。繊細だ。 比喩なんかじゃない。心だけでなく、体、毛先まで全てがガラスでできている。でも傷ついた体は溶かして伸ばせば治る。祐逸本来のガラスと違うところは、大人になると体が硬くなって、溶かせなくなるということだ。 驚かれてしまうだろうが、言うね。私が今ハマっているのは大人のようなまだ硬くなってい子供を粉々にして、世界にばら撒くことなんだ。特に、子供を割った時に命が消えて固まっていく表情は
のっぺらぼう。のっぺらぼう。やつは必ずやってくる。のっぺらぼうは人の顔を奪いにやってくる。 僕は手を合わせたんだ。その日は霧の濃い夜だった。 真っ暗な高速道路に一筋の光が猛スピードで進んでいた。一台の車体が走っている。車の左ドアが開くと、中から誰かが出てきた。それは丸っとしたスーツ姿の男だった。男は車体の屋根にまで這い上がり、トンネルを越える、と立った。 彼の顔は無い。無いのだ。しかし口の辺りの肌がへこんでいて、ニヤリと笑っているようにも見える。 僕はタクシ
死体は浮遊した状態で見つかった。 浮いているのだ。寝室で。彼はベッドの上、眠っているところを何かで上から吸い寄せられたように見える。彼の腰に見えないロープが巻いてあって吊るされているのだろうか。いや、手をかざして通り過ぎてもそれにぶつかることはない。 完全に浮遊している。彼は天国に行ったのだろうか。しかし、こんな天国の生き方、あまりにも物理的で何かおかしい。これは、人から魂を抜くときに、魂があまりにも体への執着が強く、体も少しだけついてきてしまったことによる世界のバ
月光がフローリングなどに冷たいを与えている。 デジタル時計はひたすらに3を示していた。4では無かったことにほっとしたが、私には少なくとも一握りの恐怖を感じさせた。 「まだ3時か」 せめて4時44分であればよかった。1秒をひたすらに数えて、学校に行く時間まであと4時間27分だと絶望する。 さっきからずっと約30秒ごとに時計と窓を交互に見ている。しかしついに私は痺れを切らして、部屋を抜け出す。 それぐらい重たい頭を抱える。鐘の低い音がする。階段を降りて、踊り場
キッチン。それは自分を映し出すまた一つの鏡のようなものだ。 「それ取ってもらえる?」 「あー違う違う!そうそれ!ありがとう!」 街中にあるまだ小さいレストランは今日も賑わっていた。毎日100組が来店するほどだ。厨房の中も大忙しであったが、料理人たちの笑顔は絶えない。 しかし、ある日のこと。料理人の一人が多額の借金をレストランに持ち込んだ。 「……本当にごめんなさい!」 料理人は深々と頭を下げ、嘆くように言った。 「謝るんじゃない……俺たち料理人は一心同体だ
彼女は絶体絶命少女である。 「私にはある病気がある。それは唐突に笑いが止まらなくなる、失笑恐怖症という病だ。何もおかしくないのに笑いが止まらなくなる私は悪魔のような最悪な人間よね」 学校で授業中、先生が真面目に話しているときに笑いがこみ上げてくる。必死に抑えようとしても、止まらず、同級生たちの視線が彼女に集中する。 「その視線の重さに耐えられず、さらに笑ってしまう。教室中が私の笑い声に包まれる。やめて、聞いていないで、見ていないで、助けてよ」 「ハハ、ごめんね」
好きと言う気持ちが僕にはわからない。 あーでもないこーでもないと模索し続ける日々、考えすぎてしまう。嫌われるのが怖い、独りになりたい。でも、独りはとても寂しい。 何もわからない。何が正解で何が不正解で、今僕がどうするべきなのかすらわからなくなってきて、独りになった時、僕はもういいやって思ってしまった。 君と君と君のためにモバイル充電器を持っていく。 「大好き」「大好き」「かわいい」「一緒に行こう」「ずっと一緒にいよう」 一度でも言ってみたかった。言われてみたかっ
毎度彼女と会うたびに私へかけてくれる言葉は私への純粋な優しさなんだと信じてやまなかった。 でもその言葉は私の喉を締め付け、さらに思料の暗い底へと落っことした。矛盾しているんだ。君は私のなんなの?親友?家族?姉妹? 私と君の関係は誰もが認める仲のいい仲だった。 でも、今のキミは私にとってただの友達で、ごめんだけど親友ではない。親友であった頃が懐かしい。 そしてとても寂しく感じてしまう。よく一緒に冒険に出かけたよね、たくさん一緒に笑ったよね。立ち入り禁止の道を何度も
かしましい。僕の声が大きすぎて。 いつからこんなにも外の世界は静かになってしまったのだろう。夜遊びに行くのをやめたから?人と会うことを諦めたから? 僕は電車が毎朝早朝から通る高架下に住んでいた。 スマホを開く、待ち受けには彼女が写っている。 管理人、まだかな。今日は珍しく遅れてるじゃないか。とその時だった。 「大変お待たせいたしました。では参りましょう」 その掛け声と共に、僕がやってきたのは高層ビルの屋上。仕事はいつも危険と隣り合わせで、その仕事中はいつも独りであ
朝起きたら、足が痛かった。 なぜ足が痛いのか調べるために私は病院へと向かう。 バスはいつも乗るが、いまだに心の浮遊感は消えない。 バスを降りて、痛い右足をひきづりながら歩く。その時だった。 大きな影が私を一口で飲み込んだ。 なぜか今日は空を見上げた。下を向いている日々では、なんて大きな雲だろうと思っていたのだが、見上げてみればそこには何もない。青い空が永遠に広がっているだけだ。 この芳しい匂い、どこかで覚えている。 * * * * * * 「あ、あれ……なに
僕には嫌いな人がいる。それは自分だ。 バスの通勤に覗くインスタグラムのストーリー。約30秒経つと切り替わり左端をタップしてもう一度見る。 周りの人たちはみんな自分を着飾っている。誰と行った場所?仲の良い友達?美味しいご飯を食べた?それっていいよね。素敵で綺麗で、例え偽りだったとしても素敵さは変わらない。 画面越しの白い君はいつも笑っている。自分にはそんな輝きがない。誇れることも、仲のいい友達もできない。もし美味しいご飯を食べたとして、僕は誰かに伝えることもできない。
プロローグ 六問室――それは6つの問題を一度も間違えずに解かなければ、一生出られなくなる部屋だ。この部屋が存在する街は、長らく呪われていた。 だが、呪いは次第に薄れていった。その噂はかつてこの街を蝕んでいたが、年月が途方もなく過ぎ去り、人々の記憶からも消えかけていた。 では、今、その部屋はどうなっているのだろうか。現在も残っているのだろうか?ああ、そうとも。今なお、その呪いは生き続けている。しかも、長い間身を潜め、膨大な力を蓄えていたのだ。 その部屋があるのは、現在は
プロローグ 地雷系。それは、逆鱗に近しいものであるが、いつ何時に怒りが爆発するのか全くわからないという違いがある。 性格、感性、趣味に至ってまで、一般人と比べれば変人と言えるだろう。しかし、その吐出した魅力的な個性が多くの目を惹くこととなる。地雷系が得意とする共依存テクニックは一度心を奪われた人を決して離さなかった。 これがまた厄介で、地雷系が忌み嫌われる理由である。当然だ。なぜなら、周りに迷惑をかけることになんの躊躇がなく、その場でもし地雷系が悲しいと感じ
「どうしてそれができないんだ」この言葉を最後に、私は現実から飛び出した。 忘れていたいことなら無限に出てくるのに、幸せだったものはすぐに消えていく。 あなたに今の私を教えてあげないと、うん、手紙が一番いいな。 私は鉛筆と青の折り紙を取り出した。 1枚目の手紙 私の居場所はここだけ。手を汚したわ。ごめんなさい、やっぱり抑えられなかった。 したくもない仕事だった。だからやめて清々したよ。 私に合った仕事はないかと探す努力はしたし、今まで無理もしてきた。