順番なんて、どうでもいい

完全に順番を間違えてる、私たち。
いや、私。

隣にいる彼の寝顔を見てそう思った。









できることならやり直したい。
やり直させて。
でもどこからやり直せばいい?
もうそれすらも分からない。

「……ん、おはよ」

『……おはよ』

「んー・・・、仕事行きたくねぇー」

頭を掻きながら起き上がる彼。

「〇〇は?今日仕事?」

『休みだけど』

「いいよな、土日休みのOLって」

そう言ってベットから下りてボクサーパンツを穿く後ろ姿。










そりゃ、あなたに比べたら私の仕事なんて……
でも私は私なりに頑張ってるし、OLだって大変なんだからっ!

メディアに出ない日はないくらい忙しい彼の、疲れたような顔を見て言葉を飲み込んだ。

「マネージャーが迎えに来るから自分とこ帰るわ」

着替えを済ますとキャップをかぶってマスクを付けた。

『ご飯は?』と言いそうになってまた言葉を飲みこんだ。
私は彼の恋人じゃない。

『うん』

【またね】も、次の約束もない。

『今度はいつ会える?』

いつも喉元まで出かかっているセリフはあの時から言えなくなってしまった。







「ほんと、お前は男運ないよな」

1年付き合った彼氏に裏切られて私は忙しい彼を呼び出して、飲んでいた。

『私だって好き好んでこんなんになってるわけじゃないよ』

どうしてなのか、いつも最後は振られて終わる恋愛。
必ず言われることは、

「〇〇って、俺がいなくても平気だよな」

って。
平気じゃないよ。
でも会えなくて寂しいとか、甘え方が分からないだけ。

『…………私だって甘えたいっての』

小さく呟いてグラスに口を付けた。









「俺が甘やかせてやろうか?(笑)」

『は?何言ってんの(笑)無理無理』

「こうやって男と別れるたびにいっそがしい俺を呼び出すなんて、甘えてるってことだろ?(笑)」

毎回こうやって呼び出すのは申し訳ないとは思ってるんだけどさ、この歳になると愚痴る相手いないんだよ。
仲良かった友だちには家庭もあって、子育てとかさ…

「だから俺が甘やかせてやるって言ってんの」

『だから無理だってば』

そう拒否ったのに、何故かその翌朝には同じベッドにいた。

そこから始まった歪な関係。









体の関係を持ってから、私は気づいてしまった。
ずっと前から彼を好きだったんだと。

別れた恋人に言われた言葉も、今なら合点がいく。
甘え方が分からないというのはきっとただの言い訳。
恋人と別れたなんて、忙しい彼を呼び出す都合のいい口実だったんだ。

最初から自分の気持ちに気付いていたら、こんなまどろっこしいことになってなかったかもしれない。
そして自分の気持ちを彼に伝えていたら……

いや、そしたらきっとこんな関係になっていない。

彼は私を憐れんでいるだけ。

いつも恋人に捨てられる私を慰めてくれているだけだ。








「いつまでそんな関係続けるの?辛くなるのは〇〇だよ?」

と、親友に諭される。

分かってる。
もう______辛いから。

その時に私たちの関係を何も知らない共通の友だちから聞いてしまった。

「臣ってさ、彼女できたんだろ?」

『え?そう……なの?』

「なんか、ずっと好きだった子といい感じだって聞いたけど?」

そんなこと彼の口から聞いたことない。
好きな子がいたことも、全然知らなかった。

それならあんな関係、やめなきゃ。








「今夜行く」

と彼から連絡があったのはその夜。

私の部屋に来た彼はすぐに私を組み敷いた。
でも私はその胸を押し返した。

「なんだよ」

『…………もうやめよ?』

「は?」

『もう私は大丈夫だから』

「大丈夫ってなんだよ」

『私のこと、慰めてくれなくていいよ』

ずっと好きだった彼女のことを大事にしてあげて。
私のことなんか、もう放っておいてくれていいから。










「なんだよ、それ」

眉間に皺を寄せて私を睨みつける顔。
そんな表情さえも愛しいなんて、重症だ。

「新しい男、できたわけ?」

『……うん』

そんな人なんているわけないけど…

「なんだよっ、…………なんだよ!」

肩を掴まれて背中をソファーに押し付けられる。
そして、首元に顔を押し付けてきた。
私がその肩を押すと、

「なんでだよ。俺がこんなにっ!くそっ!」

起き上がってクッションを床に投げつけた。









臣が怒っている意味が分からない。

私がいなくなった方がいいでしょ?
そしたら心置き無く彼女と幸せになれるじゃん。

『臣にはね、本当に感謝してる』

「………………」

『忙しいのにいつも私が恋人に振られたって連絡したら来てくれたし、慰めてくれて……でも、』

方法が間違ってたよね、私たち。

『だからね、臣はもう私のことはもう放っといてくれたらいいから』

「………………」

臣から離れるのはすごく辛いけど、

『臣は彼女のこと、大事にしてあげて?』









「…………は?お前、何言ってんの?」

また眉間に皺が寄った。

「彼女ってなんだよ」

『隠さなくていいって』

「隠すとかなんなわけ?」

『私、聞いたから。臣、ずっと好きな子がいたんでしょ?』

私の言葉に口を噤んだ。
それは事実だという事だよね?

『その子といい感じだって……だから私の事よりもその彼女のこと優先して?』

そして、自分のことも優先して?









「…………確かに好きな女がずっといたのは本当だけど」

ほら、そうじゃない。

「その好きな女ってお前も知ってるやつだし」

え、私も知ってる!?
誰?

「こいよ、会わせてやる」

私の腕を掴んでソファーから立ち上がらせ、そのままリビングを出た。

どこ連れていかれるの?
やだよ、臣の好きな女の子になんて会いたくないよ。

『ちょっと、臣。私、会わせてなんて言ってない』

抵抗するも、

「いいから来い」

とグイッと腕を引っ張られた。









廊下を通って玄関に向かうと思っていた臣の足が止まり、廊下の脇のドアを開け、その中に入れられた。

「ほら、こいつ」

その言葉に顔を上げると、目の前は鏡で写っているのは臣と、私だけ。

『え?』

臣の言っている意味が分からなくて。

『何を言ってるの?』

「だから俺の好きなやつだろ?教えてやるよ、こいつ」

そう言って私の肩を掴んで鏡の中で目を合わせた。










「俺、好きでもない女を抱く趣味ないし、お前だって好きでもない男に抱かれるやつじゃないだろ?」

臣が鏡越しに私を見つめて言った。
そして、

「だから観念して俺の女になれよ」

と微笑んだ。




もう順番なんてどうでもいい。
ずっと臣と居られるのなら……







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