27.母のうっかり伝説

 聞いてください。

 僕の母は、マジで認知症を疑うレベルでうっかりしている。例えば自転車で出かけて自転車を置いて帰ったり、買い物をして袋に詰めたら横に置いた財布を忘れて帰ったり、といった事が一度や二度じゃきかないほどだ。

 二十年ほど経った今でも僕が引き合いに出すうっかりがある。

 今ぐらいの季節だったか、晩ご飯の支度をしていたときだったと思う。長ネギがないことに気付いた母が、当時徒歩二分の場所にあったスーパーに買いに行ったときの話だ。なんやかんやと細々した物をついでに買って来た母は、肝心の長ネギを買い忘れていた。

 馬鹿過ぎない????

 これを未だにいう僕も僕だが。母がうっかりする度に、「流石長ネギ買いに行って長ネギ忘れて帰って来る人だよね」といっている。しつこい。

 一番最近のうっかりがある。火曜日に、「月曜日にジャンプを買ったがどうも店に忘れて来たようだ」と母はいった。「今日は店が休みだから、明日仕事の休憩時間に電話してみる」ともいった。結果をいうと、店にはないようで、仕方ないから買い直そうということになった。母は水曜日も木曜日も仕事だったので、木曜日、つまり今日仕事が休みの兄に頼んだ(僕は水曜日に出かけたが母の休憩時間の都合で確認が僕の帰宅後だった)。

 ところがである。兄が今朝になっていうのだ。「ジャンプ俺の部屋にあるよ」と。

 ????

 ジャンプは僕が読むために買っているのだが、実はかなり積読があり、最近の物は兄の部屋に置かせてもらっている。だから兄は、月曜日に、ジャンプを見付けて回収していたのだ。

 そう、つまり、母は店に忘れてなんかいなかったのである。

 何故持って帰って来たことを覚えていないのか。

 またこんなうっかりもある。財布を忘れた話だが、複合型スーパーに僕と母で行った際、まず百均に行き、それぞれ買い物をして、合流後生鮮品などを買いに移動した。その際母は「トイレに行って来る」というので、僕は生鮮食品売り場の近くで菓子を眺めて待っていた。

 すると何分も経たない内に、呼び出しの放送がかかった。呼び出されたのは母だった。

 !?

 びっくりしていると母がトイレから戻って来て、「今の放送私だよね? どこに来いっていってた?」というので「服屋だよ。宝くじ取り扱ってるとこ」といって二人で急ぐと、「百均の商品を詰めるための台にお忘れでした」と財布を渡された。

 もう、アボカドバナナかと。

 お前は買い物が終わったら台に財布を置かずすぐさま鞄に入れなさい。と僕は強く思った。

 母のうっかりはまだまだある。

 一ヶ月くらい前だろうか。僕は母がご飯支度をしているのを見て、ふと「ご飯炊き忘れるなよ」といった。実際母は年に一度は米を炊き忘れるという前科があった。

 そのときは母、「必要なのに忘れないよ~」とどの口が、という感じの事をいっていた。その二時間後くらいである。ご飯支度ももう佳境、といったときに僕はふと炊飯器を見た。空だった。

「……ご飯は?」

 恐る恐る訊いてみた。炊飯器を見る母。暫しの沈黙。

「……忘れてた!」

 もう、お前はToDoリストを作って台所の窓に貼っておけ!

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