熟女の熱と『ボヘミアン・ラプソディ』

成人映画のようなタイトルで恐縮だが、つまるところ絶賛公開中の映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観てきた。

QUEENについては、何曲かの超有名曲と、フレディがすでに他界していることぐらいしか知らなかった。「ブライアン・メイ」という名詞はなぜか小林克也の声でしか再生されない。その程度の知識しかなく、QUEEN自体に対する思い入れも申し訳ないけどちっとも強くない。

そんな私が思わず劇場に足を運んだのは、周囲の熱狂に押されてのことだ。
この場合の"周囲"というのは、一部の近しい友人知人、もっと限定して言えば、私と同世代か少し上の世代の40代以上の女性たち、要するに、敬愛する"熟女センパイ"の皆さんのことだ。

車飛ばして観に行くぜヒャッハー!!!
パンフだってGETしたぜヒャッハー!!!
何年ぶりかわかんねえレイトショーだぜヒャッハー!!!
え?昨日も観たけど?明日も観るけど?QUEEN最高かよヒャッハー!!!
間違いなく歌っちまうから逆に観に行くの我慢してるぜヒャッハー!!!

などなど。ほかにもたくさんいるだろうけれど、なんかもうこぞって、熟女センパイがたがヒャッハーしていて熱いのだ。キラキラしてるのだ。

彼女たちをここまで熱くさせる『ボヘミアン・ラプソディ』とは!?
QUEENとは!?
フレディ・マーキュリーとは!!??!?

興味を抑えられず、私以上にQUEENを知らない夫とともに、映画館にカチ込んだ。金曜の夜、満員御礼だった。

映画の内容は割愛するが、まあそれはそれは楽しんだ。帰り道はもちろんドン・ドン・パン!だし、鼻歌は♪ガリレオ~~~だし、youtubeの履歴はすっかりQUEENだし、ネコかわええ。ヒゲの印象しかなかったフレディの前歯の存在感を知れたこともよかった。はやく応援上映やってください立川シネマシティさん。




そしてわかった。
熱狂する熟女センパイがたから私が感じたメッセージは、

「推しのいる人生って素晴らしい!!!」

この一点に尽きるのだ、と。


私の知る限り、熟女センパイたちはとても忙しい。

仕事に、家庭に、子育てに、介護に、日々忙殺されている。
私が出会ったとき、彼女たちはすでに主婦であり、母親であり、なんらかの職業人であった。それ以外の顔を私は深く知る機会はなかった。

そんな彼女たちが、『ボヘミアン・ラプソディ』を機に、QUEENに熱を上げていたころの顔に戻ったのだ。母親でもない、仕事も肩書きも関係ない。あのころの熱狂の渦に、まだ何者でもないひとりの女の子だった頃に。
私の青春! フレディ! ブライアン! ロジャー! あと誰だっけ!

いつも黙々と家事をこなしている母ちゃんが。
日々仕事のプレッシャーに耐えている上司が。
パートさんが、先生が、取引先の担当が、店長が。

途端に花が咲いたように目を輝かせて、余裕がなくて長年心の隅に追いやっていたQUEEN愛を、微塵もためらうことなくぶちまけている。
ああ、なんて素敵なことだろう。

30年前にはこんな言葉はなかっただろうが、彼女たちにとってQUEENは、今で言うところの"推し"だったのだろう。間違いなく。

そして、私が胸を打たれるのが、その想いが決して単なる懐古趣味ではなく、今もなお彼女たちの中に息づく現役の愛情であるという事実だ。いや事実かどうか知らんけど、見てたらわかるもん。過去を振り返って懐かしんでるだけならあんなにキラキラするわけないもん。知らんけど。多分そう。

QUEENの楽曲だけでなく、QUEENを愛していた当時の自分まるごとが、今の自分を支えている。あのころ、本気で好きだったから、夢中だったから、今を生きていたから、そのまっすぐだった想いは疑いようもないから。だから胸を張って「QUEEN最高!」って言える。昔も今も、これからも。

推しへの想いを取り戻した熟女センパイたちは、まぶしい。

私には若いころ、そこまで夢中になれる存在がなかったから、素直に彼女たちがうらやましい。やはり人生において推しの存在は不可欠なのだ。それを教えてくれたセンパイたちに、QUEENに、心からありがとうと言いたい。

私なんぞから礼を言われても、「知らんがな、お前はお前の推しのことだけ考えとけ」ってなもんだろう。まったくそのとおりである。よし、夢中で生きていこう。


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