わたしのコンプレックスの1つに髪がある。顔や体型や歯並びにそこまで意識が届かなかったのは、おそらく髪に対するコンプレックスがよほど根深かったからだと思う。

 毛の量が多く剛毛で癖毛。典型的な苦労髪。見事な三十苦だ これは両親(特に父)が癖毛のせいであろう。癖毛×癖毛の交配では癖毛しか生まれない マイナスとマイナスをかけてもプラスにはならないのだ。幼い頃から縮毛矯正がやめられなかった。でもストレートヘアも似合わなかった。というのも、髪質が原因で前髪が作れなかったから 自分の考えうる理想にはなれなかったからだ。
今考えれば「髪さえストレートにすれば可愛くなれる」と盲目的に思い込んでいた自分が悪かったのと(つまりは理想と現実のギャップを受け入れられなかった) 化粧も何もしてなかったから似合わないと感じただけなのだが

 髪が薄くて、ストレートで、前髪のある女の子に憧れていた そういうのが"可愛い"と思っていた 可愛いと思った女の子はみんなそんな髪型だった。この日本社会ではそれが"可愛い女の子"の条件だと思っていた。仮にそんな風潮が無いとしてもみんな同じヘアスタイルだった。いわゆる量産型。可愛くなれなくても良いから「みんなと同じ」になりたかった。わたしも量産型になりたかった 可愛いとされる髪型にして、仮初めの安心感を得て、普通の女の子フリをしたかった こんなのは呪いだ みんなと同じじゃないことが怖かった 

でも私は それにすらなれない 私はスタート地点にも立てないのか 遺伝子を呪った。何の苦労をしないでもいい人間がいる一方で 何もしていないのに下位を強いられるこの理不尽が

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 大学に入ってからは服も髪も(ここでは書けないくらいに)色々迷走した が、やはり縮毛矯正かそのままでいいだろうと結論付けた。長年の検証によると縮毛してコテ、もしくは癖毛を生かす方がいいらしい。というかそれしかない。今まで色々試行錯誤したが、どうやらストレートヘアや前髪への憧れはもう諦めるしかなかった

コテもアイロンも嫌いだった 何もしないでも「みんなと同じ」で「可愛いのアイコン」を持ってる人間がいるのに わたしはわざわざ手間暇かけて 髪を痛めつけなきゃまともにもなれないのかと その理不尽に耐えられずすぐに諦めた しばらく適当な格好しかしてなかった

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 この間数年ぶりのヘアカラーをした。2年前に初めてやってから伸ばしっぱなしなのでほぼ地毛、ほぼ黒髪。前々からやりたいと思っていたけれど「バイト先が………」「まだ学校があるから………」という理由で先伸ばしにしていた。恥ずかしながら「髪を染めればマシなるはず」という思考。残念なことに髪さえどうにかすれば垢抜けるなんてことはなく、こういうのは髪とメイクと服全体のバランスなのであるが

 髪を少し明るくしたところでどうなる…とあまり期待してなかったけれど 染めた髪は思っていた以上によかった 自分で言うのもアレだが今までで一番似合っていると思った ちゃんと化粧をしてたってのもあるけれど。かつてスナップで憧れていたような色が鏡に写っている。その後美容師さんが髪を巻いてくれたけれど ストレートの時よりよかった。初めて自分の髪をいいと思えた

帰ってから身内に褒められた 色も似合ってるし髪も良いって ずっとそのままでいなよって。その言葉を素直に受け止められた 

いまはかつてのヘアスタイルに対する憧れはほぼ消えている 別にみんなと同じじゃなくても 世間一般の"可愛い"になれなくてもいいんだって そんなんで世間から迫害されるわけでもない 自分が納得できるのが一番だ