せずにはいられないこと
勤めていた外資IT企業を退職したとき、皆が口を揃えて言ったのは「もったいない」だった。
そうかもしれない。
誰もが知ってる大企業。25歳で年収は約800万円、残業は月に20時間以内。
麻布の綺麗なオフィスには飲み物やお菓子が山ほどあり、朝ごはんやランチは日替わりで提供される。
優秀な同僚とエスプレッソマシンでコーヒーを入れ、雑談するのはとても良い時間だった。
そしてわたしはこれにしがみついていた。
その状態に疑問を持ったのは、皮肉にも会社の経営陣のスピーチがきっかけで、そのことを以下のnoteに書いている。
スピーチ内で見た映像の中で、泥だらけの作業着に身を包んだ男性は幸せそうに笑っている。好きなことを仕事にするというのはこういうことなのかと思うと同時に、美しいオフィスの中でひとりぼっちになったような感覚に襲われた。
この仕事を愛していないと悟ったものの、やりがいや楽しさを感じる瞬間はある。
同僚と話しながら、わたしと彼らの喜びが少し違うと気づいた。
優秀なセールスの誰もが、売上に繋がる事象を生み出したときに喜びを感じていた。
行動量を達成できたとき、アポが取れたとき、受注をしたとき...
セールスであれば嬉しいに決まっていて、健全であると思う。
一方でわたしは一生忘れられないほどの喜びを感じた瞬間が別にあった。
熊本の介護施設の採用に携わったときのことだ。
介護施設には運営するにあたり、必要な在籍資格者数がある。
その資格者数を割りそうで、このままでは運営ができなくなる。今すぐに採用をしなくては潰れてしまうとご相談をいただいた。
介護施設の採用は難しい。業務がハードな割に給料は安いので、慢性的な人手不足だ。しかも資格者はどの施設も求めている。
わたしはすぐにヒアリングをしペルソナをたて、その施設のアットホームな魅力が伝わるような求人票を作成し、最短で求人掲載をした。広告掲載中も細かくデータをとり、改善を繰り返した。
翌月、人柄も経験も申し分がない人が採用できたとご連絡をいただいた。
そしてその2ヶ月後には、採用担当者の方がわたしの会社まで会いにきてくれた。
直接お礼を言いたかった、不安で仕方なかったが任せてよかったと言ってくださった。
何よりその時に聞いた、採用できた方のお話が忘れられない。
その方は介護の仕事がとても好きだったが、以前働いていた施設では利用者さんへ酷く当たる風潮があり気を病んでしまい、介護の仕事をやめしばらくは工場で勤務していたそうだ。しかし介護の仕事への思いが強く、利用者第一のあたたかい雰囲気の施設を探していたところで求人票に目が止まったとのことだった。そしていまはとても楽しく仕事をしていると聞いた。
採用担当の方の施設を守りたい思いと、入社した方の人生に携われたとわかった瞬間、泣いてしまいそうになった。
わたしが感銘を受けた、スピーチの中の作業着姿の彼と同じような人を、ひとり増やせたのではないかと思った。
そんな気持ちでデスクに戻ると、同僚たちは商談がどうだったか聞いてくる。
商談ではなく御礼に来てくださったことを説明すると、落胆した様子で早くまた掲載してくれるといいねと言われた。
包み隠さずに言うと、無駄な時間だとも言われた。
無駄だろうか。
確かにわたしたちのミッションは予算達成だ。予算達成だけが評価指標でもある。ただお礼に来てくださった方と話すより、新規営業に時間をかけた方が直近の売上は上がるかもしれない。
でも、この思いに触れたことは本当に無駄だったのだろうか。
わたしたちの仕事の向こう側に何があるのか、それこそがコミットするべきものなのではないだろうか。
後々のことだがこの採用担当の方は独立されて、その際の採用をわたしに任せてくださることになる。
誰かの思いを守りながら、売上をあげる。それこそ、本来するべきことだろうと思った。
このときわたしの喜びは誰かの思いを守ったり、誰かの人生を豊かにすることだと気がついた。
キャリアに悩んでいる人はぜひこの動画を見てほしいのだが、
(絶対に絶対に絶対に見た方がいいです)
いろいろと名言や指南があるのは一旦置いておいて、このビデオでは最後にこのように問われる。
What is the work you can`t not do?
(せずにはいられない仕事は何か)
わたしにとっては、誰かの人生を豊かにすること。
わたしはかつて自分の人生を思い、「わたしの人生は生まれ持ったものや外的要因に左右されない」と、“自分”に証明したいと思っていた。
そしてこの思いこそが、わたしを安定や収入に縛り付けていた。
いまはこう思う
「誰の人生も生まれ持ったものや外的要因に左右されない」と“社会”に証明したい。
そしてこのnoteを見ているあなたにも聞きたい。
What is the work you can`t not do?
(せずにはいられない仕事は何か)
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