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『わたしはかきたい』

わたしはかきたい

わたしはかきたい
月夜に照らされた あなたをかきたい
わたしはかきたい
暗く小さな部屋の あなたをかきたい
わたしはかきたい
あきらめたその先の あなたをかきたい

わたしはかきたい
燃える右手で なにをかかきたい
わたしはかきたい
微笑の中の 願いをかきたい
わたしはかきたい
憎悪の先の あなたをかきたい

完成された朝
それは夜にはくずれてゆく

わたしはそれをみつめる

みつめることで
わたしはみつめられる

計算された 配置の中の 見えない流れを
縦糸をおろす 横糸を伸ばす 結び目をつくる
奏でる色は 自然からの借り物
幾重にも重ねる
塗り潰してゆく
造形をなしてゆく
血がながれだす
心拍が聞こえる
わたしの耳にもはっきりと

闇さえも飲み込む

わたしはかきたい
平面な生ならば わたしはかかない

あなたはかく
目の前の完璧な配置を
華奢な糸の黄金のねじれの束を
もつれ合う金糸 強度を増してゆく
色があなたを覆う 自然が 差し出してくる

あなたはかく
要らぬ造形を破壊し
再生の密度をあげながら
心拍が鳴り止まない
あなたの鼓動 あなたの孤独
もはやちぎれそうなその腕は……

あなたはかく

人はそれを線という
人はそれを円という
人はそれを文という

あなたはかく

わたしはかきたい

あなたはかく


作/直治

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