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散文詩的な呟き

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日常の一コマを短い映像のように切り取っています。
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#エッセイ

流れ落ちる時間

青いカーテンを通した朝の光で、部屋の中は青色に包まれる。 明るくて、薄暗い光に。 寝起きの頭はずんと重く、目蓋にも力がない。 ぼさぼさの長い髪は、毛先までぱさぱさとして、ずぼらな私が顔を出している。 薄く青い光に包まれた部屋に籠城し、重い頭を抱えて、椅子の上で体操座りをする。 垂れ差がる髪の毛の間から見える世界を、一心に見つめているようで、この目には何も映っていない。 昨日も、明日も、明後日も、この目には何一つ見えていない。 時間は淀むことなく滔々流れさっていくのに、私

廻廊

家を出る タン タン タン 太陽は憂鬱な朝を連れてくる 電車で走る ガタン ゴトン ガタン 無機質な箱は 感情を消す 口を開く カタカタカタ 決まり文句は 伸びて擦り切れた 疲れ切った電車に揺られ ガタン ゴトン ガタン 冷たい月は 足元を照らしてはくれない 安息の地は暗く 無の音がする 明日も明日とて 今日を繰り返す

雨の話し声

降り注ぐ水滴を 受けとめる。 ぽん さー ぴちょん 葉っぱが受けとめて、 ぽん 屋根が受けとめて、 さー 水が受けとめて、 ぴちょん あちらこちらでヒソヒソと、 みんなが雨とお話するので、 雨の日はさみしくない。 ひとりで居るのも、さみしくない。 みんなの声に隠れて、 わたしも雨とないしょ話。 傘を通してないしょ話。

永遠の片思い

「小説に、ずっと片思いをしている」 新海誠さんが描いた『言の葉の庭』のあとがきはこの一文で始まる。 この文を読んだとき私は気がついた。 「私は中学生のころからずっと、黄昏どきに片思いをしている」 特に秋の日の黄昏が一番で、悲しくて恋しくて鼻の奥がつんっとする。  携帯を握りしめて、あてもなく農道を歩く。私以外誰もいないと錯覚させる、田園風景が広がる世界。昇り始めた月は白銀に輝いて、振り返ると空が刻々と朱色から群青色に変わっている。その光によって浮かび上がる鉄塔が一段と美し

マスカラが落ちるとき

右の手でポンプを三回押す。 両手を擦り合わせじっくりと温める。 とろっとしたオイルが掌全体に広がり、顔に優しく触れる。 擦らず、傷つけないように。 霞んだ空気が水滴に濡れる鏡に映った。 重ねたマスカラが下まぶたに太めの線を落として、 目尻にアイシャドウが滲む。 首筋から滴るお湯が鎖骨まで滑り落ちて止まった。 まっすぐと見据える君の目線が、堪らない。 (そんな写真を撮ってみたいと思いました)

月と散歩

 夕方になって、たまたま外にでた。今まさに東の空に浮かび始めた月に目を奪われ、誘われるがまま散歩に赴いた。  田んぼ道を一人、とぼとぼと歩く。  意味もなくスキップしたり、   あぜ道を全力で走り抜けてみたり、  鉄塔の横を通り過ぎる動画を撮ってみたり。  西から飛んできたコウモリが頭上を通り過ぎた。黄金色に輝く月に向かって飛んでいくその姿は、漆黒の影を作り出し、月のコントラストに私は見惚れていた。  掘り返された田んぼの所々に、一昨日降った水が溜まっている。水に