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散文詩的な呟き

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日常の一コマを短い映像のように切り取っています。
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#夜

紙月ーしげつ

元来私は、下を向いて歩く人間だ。 石畳の境目を避けて歩き、横断歩道の白いところだけを踏む。 すれ違う人も、俯いた視界に相手の靴が映り込むまで気づかない。 20時の暗闇を、足下を確かめながらぽてぽてと歩く。 汚れた靴の先に、昼間の出来事を思い出す。 等間隔に並ぶ街灯の間を、泳ぐように渡って家路を行きながら、 ふと、今日は満月だったかと、上を向く。 見上げた先には明かりの灯るマンションの窓が溢れている。 それぞれの生活が真冬の夜に漏れ出して、しばし夜空を漂って消える。

夜に沈む

冬の夜に落ちた。 躓いた足先に、記憶がずっしりと纏わりつく。 息をはく音が冷え切った耳に酷く響いて、 青鈍色に染まっていた視界は白く霞んだ。 見上げた先で漂う寒月に、鼻先がつんと痛む。 くっきりと地面に映し出されたはずの影は、 暗闇と混じりあって溶け込んで、 境目が無くなっていく。 ああ、この夜に落ちたのはいつのことだったか。 昨日なのか、 ほんの数日前なのか、 それとも遠い昔のことなのか。 暁は未だ来ず、それぞれの真夜中を泳く人の息遣いを微かに感じるている。 いず

真夜中

どこか宙を漂っているかのように、ふわふわと浮く。 それでいて、頭には鈍く響き渡る鈴がつく。 軽いはずの身体が、ずんと引っ張られている。 重い夜を海月のように漂って、 重力など気づかないふりをして、 どこまでもどこまでも、落ちて行く。