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散文詩的な呟き

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日常の一コマを短い映像のように切り取っています。
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#日記

静寂

目の前が揺れて ぐにゃりと曲がる 横になれば身体が じんわりと沈む どこまでも深く 落ちていく 光が暗闇に飲み込まれて 何も見えなくなって 何も聞こえなくなって ようやく吐き気は止まった

クリームソーダ

シュワシュワと立ち上る泡、 キラキラと輝くグラスに注がれた透き通った青。 バニラのアイスクリームの横にちょこんと寄り添う、シロップにたっぷりと浸かった赤いサクランボ。 グラスに刺さったストローを動かすと、全てが少しだけゆらりと揺れる。 その可愛さに見惚れて、しばらくその青の向こうを眺めたが、ついに別れを告げるためにストローに近づいた。 一口飲んだそれは、 全てが支配されるくらい、ただひたすらに 甘い。

流れ落ちる時間

青いカーテンを通した朝の光で、部屋の中は青色に包まれる。 明るくて、薄暗い光に。 寝起きの頭はずんと重く、目蓋にも力がない。 ぼさぼさの長い髪は、毛先までぱさぱさとして、ずぼらな私が顔を出している。 薄く青い光に包まれた部屋に籠城し、重い頭を抱えて、椅子の上で体操座りをする。 垂れ差がる髪の毛の間から見える世界を、一心に見つめているようで、この目には何も映っていない。 昨日も、明日も、明後日も、この目には何一つ見えていない。 時間は淀むことなく滔々流れさっていくのに、私

時空跳躍列車

真夜中前のホーム 滑り込む上り電車と軋む車輪の音 ちかちかと光る終電前の電車は 時間を渡る 終着駅を目指して加速する車体 車窓を泳ぐ明かりが いくつも長い尾を引く 揺れるつり革 止まる空気 がたんガタン ごとん

廻廊

家を出る タン タン タン 太陽は憂鬱な朝を連れてくる 電車で走る ガタン ゴトン ガタン 無機質な箱は 感情を消す 口を開く カタカタカタ 決まり文句は 伸びて擦り切れた 疲れ切った電車に揺られ ガタン ゴトン ガタン 冷たい月は 足元を照らしてはくれない 安息の地は暗く 無の音がする 明日も明日とて 今日を繰り返す

永遠の片思い

「小説に、ずっと片思いをしている」 新海誠さんが描いた『言の葉の庭』のあとがきはこの一文で始まる。 この文を読んだとき私は気がついた。 「私は中学生のころからずっと、黄昏どきに片思いをしている」 特に秋の日の黄昏が一番で、悲しくて恋しくて鼻の奥がつんっとする。  携帯を握りしめて、あてもなく農道を歩く。私以外誰もいないと錯覚させる、田園風景が広がる世界。昇り始めた月は白銀に輝いて、振り返ると空が刻々と朱色から群青色に変わっている。その光によって浮かび上がる鉄塔が一段と美し

月と散歩

 夕方になって、たまたま外にでた。今まさに東の空に浮かび始めた月に目を奪われ、誘われるがまま散歩に赴いた。  田んぼ道を一人、とぼとぼと歩く。  意味もなくスキップしたり、   あぜ道を全力で走り抜けてみたり、  鉄塔の横を通り過ぎる動画を撮ってみたり。  西から飛んできたコウモリが頭上を通り過ぎた。黄金色に輝く月に向かって飛んでいくその姿は、漆黒の影を作り出し、月のコントラストに私は見惚れていた。  掘り返された田んぼの所々に、一昨日降った水が溜まっている。水に