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春の色と霞 #12

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想像よりも三月の北海道は暖かいらしい。
車のFMラジオからは甲本ヒロトの誕生日特集。ハイロウズやブルーハーツが流れる。なんとも私好みのドライブソング。

車を走らせると広大な大地が広がる。
生えかけの牧草はみどりいろ、耕したてほやほやの土はちゃいろ、溶け残りの雪は少し灰がかったしろいろ、遠くに見えるオホーツク海はまっさお。ぜーんぶ今だけの春の色。都会の何百倍、何万倍もだだっ広いキャンバスに私の大好きな自然の色が所狭しと埋め尽くす。冗談抜きで角を曲がるごとに、わーきゃーと歓声を上げていた。

昼ごはんは牧場レストランのジンギスカン。昭和が漂う佇まいの店内からは深い色をした海が見える。熊と鹿の剥製、声は大きいけど聞き取れないおじいちゃん店長、ガスボンベを直接接続するタイプの焼肉コンロ、トイレの鏡の下には会社名と電話番号があった。昼時なのに客は私たちだけ。心配なような貸切で嬉しいような。味は最高だったのでたまたま人がいなくてラッキーだったいうことにしておこう。

夜ごはんはホテルから歩いて三分ほどの定食屋兼居酒屋。ふたりで刺身定食と白子ポン酢、ホッケの開き、餃子、枝豆、もちろんビール(流氷ドラウトという名前の青いクラフトビールだった)を食べた。北海道の幸を満喫。うーん、贅沢!

そしてそして、今日から知床で二日間泊まる宿にはなんと四種類のサウナがある。この旅行で楽しみにしていたことのひとつである。

女風呂にはドームのような小さいドームのサウナと真っ黒の部屋のサウナ。明日は男風呂と入れ替わるらしい、それも楽しみ。しっかりとふたつ、3セット。大満足のサ活だった。

外気浴をしている時、ふと上を見た。自分から大量の湯気が漆黒の空へと立ち昇る。空に向かって深呼吸をするとその真っ白の呼気も上へ昇っていく。どこまでこの湯気は続くのだろう。

さらに露天風呂に入ると表面が立ち昇る湯気に覆われている。その湯気たちはなぜか自分の方へと迫ってくる。その光景はもののけ姫の森の世界を感じさせた。周りの湯気と闇も相まってまるで違う世界に迷い込んでしまったみたいに。朝の霧で湿ったキノコと苔の森の中。頭の中では遠くに鹿の群れと兎、それらを狙って手前には息を潜めている狼の気配を感じる。それを私も息を潜めて見守る。できることならもっと空想の世界に浸りたいけれど、のぼせてきてしまったので今日はこのくらいで勘弁するとしよう。

明日歩く知床の森もこんな感じなのか?とっても楽しみである。


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