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拝啓

きみと別れて、どのくらい経ったんだっけ?いろいろなことがあったから、もうよく思い出せないや。あたしがあの家を出てからは、3か月が経ったね。きみがまだあの街で生きているということを今日知りました(別にそんな方法で知らせてくれなくてもよかったのに)。それでなんだか手紙を書きたくなりました。でも連絡手段がないので(本音を言えば、別にこれから書くことをきみに伝えたいわけではありません)、ここに書くことにします。

きみにはたくさん心配をかけてしまったけれど、今あたしは元気に生きています。きちんと朝に起きて夜に眠れています(眠剤は必須だけれど)。食事もしっかり摂れています、退院してから体重がかなり増えました。なので今はダイエット中です。頑張ります。心理士さんには、この前のカウンセリングで「回復が早くて、本当にびっくりしている」と言われました。次のカウンセリングが最後になります。薬の量も、昔に比べたら減りました。朝の陽の光が好きになりました。夜に泣くことがなくなりました。手首を切ることも、薬を飲みすぎることも、なくなりました。死にたいと思うことも、なくなりました。大袈裟かもしれないけれど、やっと普通の人間に戻れたような気がしています。

今月から仕事を始めました。始めは覚えることが多くて大変だし、体力も落ちていたから疲れるけれど、仕事をすることで得られる充実感もあるのだと思い出しました。職場の人たちはみんな優しくて温かいです。あたしは本当に人に恵まれているなとつくづく思います。人混みの中にいると具合が悪くなるあたしだったけれど、今は通勤ラッシュもなんとか乗り切れています。仕事をしていなかった頃はずっと水の底に沈んでいるみたいな、空の上をふわふわと浮いているような感じで、ずっと心が不安定だったけれど、社会に出ることで、" 生きてる " ということを実感できているような気がします。あたしまだ全然、東京が好きだし、これからも東京で生きていきたいです。

恋人ができました。実は、きみもよく知っている人です(でも、あたしとその人が付き合っているということは、一生知らなくていいです)。その人は、6歳年上で、包容力があって、いつもあたしを優しく包み込んでくれて、ぽかぽかに温めてくれる陽だまりのような人です。でも、無邪気で、子供っぽいところもあって、とても可愛い人です。きみと違って料理が好きで、きみと違って子供が好きで、きみみたいに束縛しないし、喧嘩は一度もしたことがないし、嘘をつけない、正直な人です。あたしにはもったいないくらいの人です。あたしは、彼と付き合って、久しぶりに心の底から、なにも怖がらずに笑うことができるようになりました。彼は、あたしの笑顔が大好きだと言ってくれました。あたしが鬱だったことも、腕に傷がいっぱいあることも、未遂をして入院していたことも、全部知っていて、あたしのすべてを、肯定してくれます。きみみたいに、あたしの好きなものを否定するなんてこと、絶対にしない人です。あたしが大切にしているものを、あたしと同じくらい、大切にしてくれます。この前、彼に、「るるちゃんは本当に優しいね」と、言われました。あたしは自分が優しい人間だなんて、思ったことは一度もありません。でも、人を愛するということは、よくわかっているつもりです。何故なら、きみがあたしのことを全力で愛してくれたから。人を愛するということを、あたしはきみに教えてもらいました。そのことに関しては、きみには感謝しています。ありがとう。きっときみと付き合っていなかったら、あたしは今ほど彼のことを大切にできていなかったと思うのです。あたしはきみがそうしてくれたように、彼を全力で愛したいと思っています。

惚気みたいになってしまって、ごめんね。こんなの、聞きたくないかもしれないね。でも、実はあたし、今でもきみの夢をたまに見ます。内容はいつもすぐに忘れてしまうのだけれど、夢から覚めたとき、いつも少しだけ、ほんの少しだけ切ない気持ちになります。きみと過ごした日々を思い出すことはもうほとんどないけれど、完全に忘れたわけではないのです。きみがあたしにしてくれたことって本当にいっぱいあって、それらひとつひとつが今のあたしを構成する一部になっているはずだと思っています。あたしはきみにはなにもしてあげられなかったから、きみのほうはわからないけれど。きみも誰かの隣で心から笑えていたらいいなって、心から願っています。もうじゅうぶん伝わっていると思うけれど、あたしは今、幸せです。だからもう、なにも心配しなくていいよ。なにもくれなくていい、なにも思い出さなくていい、もう忘れてくれていいからね。どうか、お元気で。

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