見出し画像

日記

むかしの写真、という書きかたは変だ、写真は過去にしかなりえないのだから。でも、むかしの写真を探していた。生まれたばかりのときの写真、お宮参りのときの写真、真新しいランドセルを見せるのに横をむいている兄とおなじように横をむいている写真、おとこのこにツノをされている小学生のころの写真(おとこのこというのは現在の夫だ)、中学校の卒業アルバムの写真、高校の文化祭や部活動の写真、どれもいまのわたしとは違うようでありながらすべてわたしであるということが、あたりまえなのに不思議におもえてならない。時は連続している、けれどおもいでは、記憶は連続していない。カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』についてアルバムをめくるような小説だと感じたことを、唐突にみえてきちんと引き金が用意された状態でふっとおもいだす。アルバムのなかにはもう死んでしまったひとや猫たちがうつっていて、あのときの、あの一瞬のなかではみんなまだ生きている。生きつづけている。いまは死という好ましくない状態に陥っているだけで、振り返れば、ほんとうは。
----------
小学校からの旧友がわたしたちの家に遊びにきた。わたしは所属する環境によって性格や振る舞いをもぞもぞと変えて、いつまでも人格を形成しつづけているような気がするのに、旧友はちっとも変わっていない。——さん、おかあさんに似てきたね? へえ、そうなんや、わたし父親似やで。ほう、お父さんは覚えてないなあ。まあ、そらな。二人一組でやったなにかの発表かスピーチで急にことばが出なくなって、あなたみたいな賢いひとがそんなミスをするとはおもわなかったと担任に言われたとき、成績とこれは関係ありません、差別にあたるので謝ってくださいと怒ってくれた旧友は、いまでも駄目なことは駄目だと誰に対しても臆さずに言ってのける。そうして小学生のころになにも告げずにいなくなったお姉さんとおなじように無言で家を出て、母親との縁を切った。じぶんのともだちの悪口を、もう何年も会っていないのにずっと言いつづけるのはおかしいといらつきながら。うち、親の離婚がやっと成立したんだよね。ああ、やっと? うん。やっと。だからあの家、いまは無人だよ。おかあさんと最後に会おうかともおもったんだけど、会ったら戻ってくるのかなって期待するでしょ? 戻ってきてほしいっておもってるだろうし。でも戻らないじゃん? だから期待させたらわるいしさ。じゃあもうどこ行かはったかわからへんの? うん。旧友は晴れやかというよりも背負いつづけていた重たいものから解き放たれて身軽になった、安心感をたたえた顔をした。旧友にお願いしたいことを伝えて、打ち合わせをして、お昼のカレーを焼きカレーにアレンジしたものを夕飯にたべて、雨のなかいま住んでいるアパートまで帰っていった。
----------
Q.好きな言葉を教えてください。
「え、どうしよ。あるっちゃあるけど短歌・俳句・小説の一節になってしまうなあ。なんかある?」
「えー。おれもあるっちゃあるけど考えかたとか理論やしなあ」
「ううん、とりあえず短歌書いとけ」

駆けてくる髪の速度を受けとめてわが胸青き地平をなせり(永田和宏)

「ううん、ううん、こういうことじゃない気がするけど」
「これどういう短歌なん?」
「あなたとわたしで、ふたりで世界っていう。えっと、女のひとが走ってくるのを抱きとめて、ここの、ここ、女のひとが空でじぶんが陸で地平線ができる、世界、ってわたしはおもってる」
----------
冬期休暇がおわって無職生活がはじまった。専業主婦、というのかもしれないけれど、また仕事をするつもりなのでいまの状態のことは、無職、と呼んでいる。職場は大丈夫だろうか、引き継ぎはうまくいっていただろうか、と心配していたわりに、前職のことを考える時間はほとんどない。もうすっかり忘れてしまっている。そんなことよりもすきなことをやる時間がふんだんにあることが喜ばしいのだった。ずっと気になっていた場所を掃除する、ハーバリウムをつくる、りんごジャムをつくる、やりたいことはたくさんおもいつくし、しばらくはゆっくりと過ごすことにする。
----------
「人妻にきみと話しかけるコンロ」
(ひとづまに きみとはなしか けるこんろ)
「俳句!? トゥンク……」
「使ってくれていいで」
「ううんと……あ、コンロは季語じゃないのね」
----------
プリンシプルプログラミングのメモ

5.4 エゴレスプログラミング
## エゴを捨てよ
「うぬぼれ」「プライド」を捨て仲間に協力を求める
自分が書いたコードを積極的に他人に見せて、改善点を指摘してもらう
純粋に「よりよいものを作る」ということに価値を置くべき

##エゴレスプログラミング十戒
*自分自身も間違いを犯すということを理解し、受け入れます
*書いたコードは、自分自身ではありません
*どれほど極めたと思っても、上には上がいます
*相談なしに、コードを書き直しません
*自分よりもスキルが劣る人にも尊敬と敬意と忍耐を持って接します
*世界で唯一変わらないことは、変わるということです
*本当の権威は、地位ではなく、知識から生じます
*信じるもののために戦います。ただし、負けは潔く認めます
*部屋に籠りきりはいけません
*「人に優しく、コードに厳しく」して、人ではなくコードを批評します

「ちょ、なにを撮ってるんや」
「んー、なんとなく」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?