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孤独の単位

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 人間が経験するほんとうの孤独は産まれてくるまでの約十か月なのだろうけれど、胎内で過ごした日々のことは憶えていないから実感が湧かないし、実際に孤独感に襲われるのは他者の存在を認知し、孤独という概念を手にするようになってからだろう。ひとはひとりでは孤独になることができない、それはある意味で幸せなことだ。孤独とは、好意や嫌悪も含めて誰かと出会ったということなのだから。
 時代、というと主語が大きすぎるかもしれないとおもいつつ、いま時代を呑みこもうとしているひととひとが触れあえない距離感のせいで知らない誰かに寄り添えなくなるかもしれない、たとえば道端で困っているひとに手を差し伸べられなくなるかもしれないということをよく考える。でも、わたしはそもそも見知らぬひとが困っていそうだとおもっても親切に振る舞えた試しがないから、世界の優しさが減るだとかそういったことに、たぶん影響されないのだろう。

30-DAY SONG CHALLENGE EX ver.

DAY3 風をイメージする曲

かぜ【風】
①空気の流れ。気流。特に、肌で感じるもの。
②なりゆき。形勢。風向き。
③ならわし。風習。しきたり。流儀。
④(接尾語的に)そのようなそぶり。様子。
⑤㋐風の病。
 ㋑(「風邪」と書く)感冒。
(『広辞苑 第六版』岩波書店・二〇〇八年)

羊皮紙の上の銀河/OSTER project feat.そらこ

 DAY1で紹介した「愛、遠く」と同じく、OSTER project feat.そらこの「羊皮紙の上の銀河」はKONAMIのリズムゲーム・ノスタルジアに収録されていて、わたしがよくプレイしている曲のひとつだ。ウォークマンのシャッフル再生で音楽を聴いているときにこの曲が流れると、右、とおもう。最初のほうのノーツが右がわに寄っているのだ。
 ピアノの高音とウィンドチャイムが使われている音楽はきらきらとしていて、星や宇宙をおもわせる音の要素が盛りこまれている。けれど、この曲はその広大さというよりも、ボーカルのおだやかな声質やコーラス、音楽のスピード感によってここに風が吹いている・ここから風になっていくという印象を抱かせているようにおもう。爽やかな、新しい世界に触れてはっとしたときに湧き起こる風だ。
 いままで歌詞をあまり気にしたことがなかったのだけれど、調べてみるとサビでは〈140億 孤独の果てでも色褪せない〉とうたっているらしい。おそらく宇宙のこと。宇宙の孤独。人間には孤独という感覚があるから、孤独にならないという選択肢もある。だとすると、なにかを生み出すだけの空間としての宇宙は永遠にひとつきりで、産まれるまえの人間くらいに孤独なのかもしれなかった。

あいくるしい/THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS

 「あいくるしい」はリズムゲーム・アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージがきっかけで知った。もともとは佐久間まゆ(CV.牧野由依)と小早川紗枝(CV.立花理花)のユニットソングなのだけれど、ゲーム内イベントの開催にあわせて水本ゆかり(CV.藤田茜)、三村かな子(CV.大坪由佳)、速水奏(CV.飯田友子)の三人を加えた五人歌唱バージョンが誕生した。
 先述の「羊皮紙の上の銀河」が爽やかな風なら、「あいくるしい」は暖かい風だ。AメロとBメロで流れていた草のにおいのする変ロ長調の風のハーモニーが、サビでト長調に転調することによって一気に吹き渡り、ファのシャープによって暖かさに包まれる。
 ゆったりとした綺麗な曲だなとおもいながら指を動かしていて、セーカイノカゼ、ということばが気になって歌詞を確認した。

急になんか正解の風に流されたような

  世界の風だろうかとおもったら正解の風で、すごい一文だ、とどきどきした。「急に」は黄色、「なんか」は限りなく白に近い灰色、「風に」は水色のつよいミントグリーン、「流されたような」は水色、とわたしがことばから感じとった色が晴れ空のしたに広がる春の野原のような配色になっていて、それらを「正解」という水のように透明なことばがまるごと肯定する、すごく眩しくて、けれどすぐに過ぎ去ってしまう儚いものということばの手触りが美しくおもえた。
 歌詞の「私」は「あなた」をすきだけれど、「あなた」は「私」のことを友達だとおもっている。そのことを「私」は受け入れていて、じぶんの感情を隠して「あなた」の傍にいようとする。大事なひとのすぐ隣にいても孤独に陥ってしまうことは多々あって、でも、じゃあ出会わなければよかったのかといわれるとそうではないはずだ。孤独だって大事な感情だ。

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