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きみのためなら踊れる

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 高校二年生の夏休みがはじまってすぐのこと、放送部の全国大会で東京にいるあいだに配役決めはなされていて、わたしは妖精役になっていた。
 母校の文化祭は学年ごとに出し物のジャンルが決まっていて、二年生は中庭で約十分間のダンスパフォーマンスをすることになっている。わたしのクラスはロボットが少女との出会いからこころを手に入れるといったストーリーに肉付けをするように振り付けや衣装や台詞を考えていったのだけれど、もしクラスにダンス部のおんなのこがいなければ踊りはおろか使用する楽曲すら決まらなかったのではないかと戦慄してしまう。わたしからしてみるとダンスにぴったりな音楽なんてぱっとおもいつかないから。
 彼女が提案したのはAquaの「Cartoon Heroes」やThe Bugglesの「Video Killed The Radio Star」、Kylie Minogueの「I Should Be So Lucky」などで、どんな生活をすれば洋楽を知る機会を得られるのだろうか、ダンスに取り組んでいるひとだから知っているのだろうか、なんて不思議におもっていたものだ。けれど、わたしがいろいろな小説や映画や音楽に触れてきた経緯ときっと変わりはない。あのときの曲の数々は彼女がそれまでに生きてきた道程で、これからも彼女を守っていくのだろう。

30-DAY SONG CHALLENGE EX ver.

DAY6 なんだか踊れそうな気がする曲

おど・る【踊る・躍る・跳る】
①手・足をあげなどしてはねる。飛び上がる。はねあがる。
②はげしく動揺する。
③《踊》踊りを演じる。舞踏する。
④驚き・喜び・発憤などで動悸が激しくなる。わくわくする。
⑤踊り歩(ぶ)となる。高利貸などの貸金で利息が二重になる。
⑥《踊》人の意のままに行動する。
⑦(活字や書いた文字などが)乱れる。
(『広辞苑 第六版』岩波書店・二〇〇八年)

彷徨い酔い温度/ずっと真夜中でいいのに。

 ずっと真夜中でいいのに。の音楽といえば「秒針を噛む」や「脳内上のクラッカー」のようなキャッチーでありながらことばになりきらないものをそのまま訴えかけるようなメロディーが特徴だけれど、2ndミニアルバム『今は今で誓いは笑みで』収録の「彷徨い酔い温度」はまさに音頭で一味違った楽曲となっている。二番サビの後の〈さまよってよいよい/よいよいのよいよい〉のコーラスを聴いていると盆踊りのようなものが踊れるんじゃないかと妙な高揚感に見舞われて、森見登美彦の『太陽の塔』という小説に出てくるええじゃないか騒動を起こせそうな気さえしてくる。聴いているこちらがわも感情がめちゃくちゃになってくる、というのだろうか。歌詞のなかの「僕」は夢と現実の狭間のようなところでよれよれになりながら誰かのことを考えていて、恥ずかしいという感情に責め立てられて、病み/闇に酔い痴れながらふらふらと立ちあがろうとするその姿は踊っているように感じられる。
 ドドンガドンのお馴染みのリズムによく聴くとスクラッチ音のような効果音が被さっていてなかなかに格好良い。アレンジに集中して聴くのもおすすめです。

レモンパイ/マカロニえんぴつ

 こういった音楽を聴いたらあたまを揺らせとプログラムでもされているのかとおもってしまうくらいに、マカロニえんぴつの「レモンパイ」を聴くと楽しい気分になってついリズムに乗りたくなる。この曲に限らず似たようなコード進行や跳ねるリズムを聴くとおなじ症状が出るので、わたしはこういった音楽を愉快と感じていて、すきなのだろうなとおもう。
 軽やかなリズムに乗せて、歌詞のなかの「僕」が「君」と楽しく過ごしてきたことが歌われていく。そしてふとした瞬間にこれは恋かもしれないと一度気がついてしまうと、しっとりと聴かせるメロディーラインをとっているサビで〈君に触りたい/揺れながら少し悲しいキスをしたい〉と欲望がふつふつと湧き起こってくる。かとおもえば二番はじぶんを罵倒するラップではじまって、〈(こんな事いつまでやってんだって話)〉とじぶん自身に呆れて呟いてみたり、「君」もおなじようにじぶんのことを想ってくれているだろうかと想像してみたり、友達のままでもいいんじゃないかと悩んでみたり、恋をしているひとの葛藤をポップな一曲を通して清々しく表現している。

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