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小説を書くはなし〜夏の新作発表会(即興)のこと〜


先日、NUT's編集部のツイキャス・通称なつキャスの企画で小説を書きました。その名も「夏の新作発表会(即興)」。今回はNUT's編集部メンバーの中山史花さん(以下・史花ちゃん)、獅子狩和音さん(以下・獅子狩ちゃん)とわたくし7235こと夏迫杏の3人で、お題を使って約24時間で1作以上書くという形式で行いました。とにかく楽しかったので記録をつけます。
(注:楽しかったのでめちゃくちゃ長いです。)


夏の新作発表会(即興)の概要

【スケジュール】
・2021年7月24日12:00 お題発表
・2021年7月24日12:30 執筆開始
・2021年7月25日11:45 提出締切
・2021年7月25日12:00 無記名で小説公開
・2021年7月25日20:00 ツイキャスで感想交換・作者発表

【ルール】
・お題は設定に使用してもよし、文中に盛りこんでもよし、とにかくなんでもよし。
・字数制限なし、ジャンル自由。
・1作以上執筆する、Googleドキュメントを使用して無記名で提出する。
・執筆するタイミングは各自自由。


2021年7月24日 12:00 お題発表

なつキャス内でツイッターの診断メーカーをまわしてお題を決めました。

「夜」と「魔女」まではよかったのに、「宇宙戦争」……出ちゃったか……という感想を抱きました。固有名詞感のつよい語は手ごわい印象です。なつキャス終了後、なんかやばいやつ出ちゃったね~というはなしを3人でしていました(笑)


2021年7月24日 13:30~22:30 1作めの執筆

13時ごろまで3人で通話をして、その後昼食をとってからすぐに執筆にとりかかりました。中学生のころにものかき交流同盟で30分お題小説をやっていたので時間めっちゃある・すごいとおもいつつ、当時よりも書く速度が遅くなっているし、執筆時間は油断をすると溶けて消えてしまうので即行動です(ふだんは体たらくなのでできないんだけれども……)。さいきん気に入っていてめちゃくちゃ聴いているSuspended 4thの「ストラトキャスター・シーサイド」を1曲リピートに設定して流してからWordをひらきます。

書きだしどうしよう・設定どうしよう・話の流れどうしようなどというアイディア出しやプロットの作成は一切せずに、聴いている曲が「ストラトキャスター・シーサイド」なので〈海辺にいるみたいだった〉ととりあえず書きつけました。そして、ついさっきの通話で獅子狩ちゃんが史花ちゃんのマイクのノイズのことを「海みたい」と言って、わたしが史花ちゃんに対して「あなたが海でした(笑)」と述べるやりとりがあったので、〈海辺にいるみたいだった〉の後はパソコンかなにかにマイクをつないで電話をするはなしなのだなと気がついて、そこからは一文書いてはじぶんがなにを書こうとしているのかを把握していくというやりかたで書き進めていきました。以下、書いているときの副音声つきの本文冒頭です。

 海辺にいるみたいだった。(このひとが電話してる相手って誰なんやろう?)斉藤(そうか斉藤というのか、おんなのこかな?)のマイクが拾っている静寂の中に、(中に、ということは斉藤の居住地の環境音が聞こえる、そういえば史花ちゃんと国道のはなししたことあったな)国道をゆく車の走行音が引いては押し寄せる。(じゃあこのひとが住んでるのは差をつけて)見渡せば田畑ばかりの田舎(わたしの地元みたいなところやな)に住んでいるおれからすると家のすぐ傍に道路があるなんて車の音がうるさくて夜(ファーストミッション・クリア)は眠れないんじゃないかとおもってしまうけれど(田舎は田舎で蛙がいっぱい鳴いててうるさいけどもまあそのはなしは置いておこうな)、斉藤にしてみれば交通量もそれほど多くなくすごく静かで過ごしやすい場所だという。
(さて斉藤さん、このひとのことを呼んでください)
『やみくん』
(やみくんと書いてみたはいいけどいったいどんな名前を省略したんこれ……「やみ 苗字」で検索かけて……お、ハヤミ、ハヤミか! ハヤミの漢字は……速水がいいかな、後で出てくるかわからんけど速水にしとこう。ほんでなんでハを省略するのかというと)
 斉藤は、は、の発音が弱いからおれは呼ばれるたびに闇だった。(よっしゃ繋がった、そしてこれは史花ちゃんが書きそうな一文かもしれない、やったぜ!)
「なに?」
(ほんでやみくんと斉藤の関係やけども……ああ、史花ちゃん古典の勉強しなおしたいって言ってたな、つまり古典か、勉強しながら通話する関係……恋人、ではないな、ともだちどまりやろうな、ほんでやみくんが勉強教えてるけどやみくんのほうが学校行けてないひとなんかもしれん……さて古典なにがいいかな、あんま難しいのぱっと書けへんし『竹取物語』あたりで手を打ちたいところですが……お、「なめり」……序盤すぎるけど「なめり」は解説に値する……たしか「ん」を省略してるんよな……)
『な……』(「なめり」だけやと「なめり?」って訊き返すよなあ、わたくし会話文を無駄に長く書きすぎる癖があるから省略したいところ)斉藤の町を走るバイクの音がことばを遮る。『ってなに?』(というわけで環境音が邪魔をする)
「ごめん、外うるさくて聞こえなかった。なんて?」
『〈子になり給ふべき人なめり〉のなめりってなに?』
(さてここで解説……やみくん意味じゃなくて成り立ちのはなししそうやな……ということは……そうかやみくん先生なのか、学校行けてへん先生か、まじか、なるほど、じゃあ斉藤はやみくんの様子見がてら電話で勉強教わってるのか、繋がってきたなあ)
「ああ、断定のなりと推定のめりがくっついてて、なるめり、なんめり、なめりって変化していったんだよ」

息をするように史花ちゃん偽装に取り組んでいました。いちおう、無記名で公開して誰がどの作品を書いたのか当てっこをしようということになっていたので、誰が書いたのかわからない状況のほうが人狼みたいで面白そうだなとおもってそうしていました。なので1作めのほうはそこまでめちゃくちゃに偽装したわけではないのですが、いつも書く文章よりも漢字を多いめにして、これを書いたら史花ちゃんが書いたと勘違いするかたがいらっしゃるかな? という要素を入れこみつつ書いてみました。

斉藤が古典の勉強を終えたあたりで「宇宙戦争」の使い道をそろそろ決めないとなあと考えはじめました。冒頭はプロットなしでとにかく書き進めていくという方法をとっていたのですが、1000字くらい書くとやみくんや斉藤が何者でどういう状況にあるのか把握できてきているので、「宇宙戦争」はやみくんが学校に行かなくなった理由のあたりで、世界大戦とか宇宙戦争とかよりも恐ろしい、みたいな使いかたをしようと決めました。へらへらしていなかった。

「宇宙戦争」の使いかたを考えたあと、そういえば「魔女」を忘れていたぞと気がつきました。ちょうど斉藤の通話アプリのIDを考えていたところだったのでIDに「Majo」を入れて、後にやみくんがIDの意味を訊くという流れにすることにしました(その後斉藤の「魔女っぽいってよく言われるから」発言にめっちゃ苦しみました……)。

〈「ほう、魔法使えるの?」『使えたらどうする?』〉あたりまで書いて夕食をとりました。牛肉と大根のキムチ煮込みをつくりました。休憩後は魔法が使えたらやみくんと斉藤はどうするのかというところで悩んでしまって執筆速度が一気に落ちましたが、物語の落としどころを見つけてなんとか脱稿しました。タイトルは「シーサイド」+「作中に出てくることばや要素」にしようとおもっていたのですがなかなかいいものがおもいつかず(「シーサイド」は「ストラトキャスター・シーサイド」からとりました)、30分くらい考えてもなにもおもいつかなかったのでとりあえず「シーサイドの魔法」とつけてGoogleドライブにアップロードしにいきました。誰か完走しているかなあとおもいつつドライブをひらくと一番乗りでした。わーい!

こちらが書きあがった小説そのいちです(タイトルは翌朝おもいついたので変更しました)。


2021年7月24日 22:30~27:30 2作めの執筆(人狼)

みんなの近況が知りたいけどこれは誰もSkypeに来やんやつや、とおもったのでNUT's編集部のSkypeのタイトルを「集中力のごみ箱はこちらです。」に変更した写真をフリートに載せ、まずはいつもなにかとツイッターを見ている史花ちゃんの招集に成功。通話を開始してみると獅子狩ちゃんも電話に出てくれたので3人でさぎょいぷをすることになりました。ここで「お、ドライブに1作あがってる!」と白々しいことを言ってみるなどし、ふたりが「まだ書いてます」と言うので「(じゃあ)わたしも書いてます」と言っておきました。人狼のはじまりです。

これは夏の新作発表会(即興)の執筆のあいまに別の作業をやっているようにみせかけて、実は執筆を終えたので別の作業に移った場面です。作品だけでなく生活ごと人狼をしているわたしでした。

いや、わたしが勝手にはじめていただけですね(笑) 深夜1時にシメージの更新を終えてGoogleドライブを確認し、ふたりともまだ書いているようだったのでわたしも書いているふりをするのに2作めを書きはじめました(ふりだけでよかったのに!)。今回、NUT's編集部メンバーの雨上そらさん(以下・雨上ちゃん)が急用で参加できなくなったので、2作めは「もし雨上ちゃんが参加していたら」をテーマに、1作めとは毛色の違うもの、「宇宙戦争」(宇宙)の要素を全面に出すようなものを書いてみることにしました。そしてこちらもこれといったプロットはつくらずにとにかく書きだして勢いで書き進めました。以下、書いているときの副音声つきの本文冒頭です。

 (まず、とりあえず航路の名前を書けば宇宙っぽいのでは?)航路(航路の名前は)UNNS28.25(うじょう・なつさこ・なかやま・ししかりの平均年齢は28.25歳、ふざけた航路やな……)(獅子狩ちゃん、情景描写からはじまる小説すきって言ってたな)湿った匂いがする。(なんで湿ってるかというと)それはかつて人類の唯一の棲み処であった地球(アース)(ルビ振っとけばファンタジーっぽいかな!)(地球ないほうがなんか面白そう)爆発によりそこいらに海水(よし湿ったぞ)を撒き散らした地域に該当するからだ。(ここで主人公登場、獅子狩ちゃんは人物名の色の名前を入れるから赤系の色の名前を検索して……)アザレア・(ラストネームはわりかしふつうの響きのもので)キャンドルライトは散り散りとなって今もなお透明に漂い続ける海洋成分を採取したボトルをクーラーボックスに入れ、居住用衛星(うーん、衛星、月、ユエさん)ユエズを目的地とした自動操縦プログラム(という語をこのあいだコナンの映画で聞いたので書いてみよう)を時折確認しつつ(桜、桜咲く、らさく)クラサク号の窓外に広がる永遠の夜(ファーストミッション・クリア)を眺めた。(地球ないけどアザレアは地球知ってるほうがなんか面白そう)地球から星だと思って見上げていたものがすぐ手の届くところにあり、ただの岩やゴミや気体であることが未だに不思議でならなかった。
 地球の爆発――アース・スライド(ダッシュつけて英語に直しといたらファンタジーっぽいかな!)は十五年前の(わたしが書いた痕跡を残しておこう)二三五七年(並び替えると7235です)(ほんで地球がなくなったら地球外生命体とのお付き合いがはじまるのでは?)地球外で暮らす最高位の知的生命体である(『スローターハウス5』のトラルファマドール星人みたいなんおもいつきたいけどおもいつかん……テトリス……ぷよぷよ……)テトロスポロンデート星人が(地球なくなるまえから交流ができている技術の進歩よ)二百年も前から危機を予言していたにも関わらず(でも地球は爆発するんやろうな、愚かめ)人類の努力の甲斐なくその時を迎えた。(技術は進歩しているので)人類の星間移動は完了しており死者は出なかったが、(帰る場所がなくなるって淋しいよね)人々はこれまで愛してきた星や国や土地が跡形もなく消えてしまったことに悲しみに暮れた。(つまり地球もっかいつくろうってなるんでは?)そうして始まったのが地球復興計画である(よっしゃばらばらになった地球の成分集めるみたいなはなしにしよう)。こよなく憧れてきた宇宙での生活や、ユエズやそれ以外の居住用衛星の住み心地は大いに良しとされているが、人々はもう一度、(獅子狩ちゃんが書きそうな色要素が足りてなかった、足しとこう)碧い海が、青い空が見たいのだった。テトロスポロンデート星人をはじめ、(マリオオデッセイ……ルイージ……)マリデセイールイ星人、(ゼルダの伝説……リンク……ガノン……)ゼンデツリガノンク星人などの知能指数の高い異星人達は皆馬鹿にしたが、母星の消滅後に産まれた子どもらも含め人類は地球が青かった(なんか人類ずっと言ってそうよなこれ)ということを忘れはしなかったのである。

息をするように獅子狩ちゃん偽装に取り組んでいました。獅子狩ちゃんがよく使っている色やカタカナの名前の登場人物という要素を取り入れ、文体はかっちりめにしたかったので漢字が多いめのだ・である体で整えました。そして雨上ちゃんの要素はこのあと出てくるミレイとアザレアのどたばた劇で表現してみることにしました。2作めは宇宙ものだったので「夜」と「宇宙戦争」の回収はすぐにできたのですが「魔女」でかなり悩み、苦しまぎれで〈まるで魔女の魔法だ〉の一文を入れることにしました。
そうしてさぎょいぷから史花ちゃんが抜け、わたしも夫が就寝したのでSkypeを切って静かに書きつづけ、午前3時半ごろに2作めが完成しました。タイトルは獅子狩ちゃんが書く小説のタイトルに色の名前が必ず入るので「花紺青の夜明け」としました。ドライブをひらくとまさかの二番乗り。まじか、とおもった。

こちらが書きあがった小説そのにです(タイトルは翌朝おもいついたので変更しました)。

すみません終わってから寝ました(偽装でした)。


2021年7月25日 9:00~11:45 暇をもてあます

この日の朝は夫とモーニングに行くという約束をあらかじめしていたので、夏の新作発表会(即興)の作品はぜったいに夜のうちに仕上げると決めていました。

甘いものをとりつつ1作めのタイトルがいまいちなんよなあと考えなおしてみて、シーサイド(海辺)は電話のノイズのことを指しているのだから素直に「シーサイドノイズ」にすればいいのではないかとおもいつきました。帰宅後に1作めのタイトルを変更して本文にもすこし修正を加え、2作めも雨上ちゃんっぽいタイトルも混ぜようとおもいついて「Blank in Soap Bubbles~花紺青の採集記録~」に変更しました。「Blank in Soap Bubbles」は「シャボン玉の中の空白」という意味で、雨上ちゃんが小説アンソロジー誌『NUT's 』の01と02で書いていたシリーズのタイトル「Eating donut, Leaving hole.」(ドーナツの穴を食べる)を踏襲してみたつもりです。韻も踏めておらず下手っぴでごめんよとおもいつつ……。

本文の修正も加えて11時、いよいよ嘘をつく以外なにもすることがなくなってしまいました。

これはあたかもじぶんが締切ぎりぎりにアップロードしたかのように振る舞うわたしです。

これはじぶんが2作書いたくせにおかしいと言い張っているわたしです。
そうして締切時間となり、いよいよ作品公開の時間を迎えます!

2021年7月25日 12:00 小説公開

わたし視点やともう誰がどれを書いたのか丸わかりやなとおもいつつみんなの作品を読みます。これは反省なのですが、Googleドキュメントのレイアウトで読むと目がめちゃくちゃ滑るようで、作品がぜんぜん読みこめておらず頓珍漢なことをたくさん言ってしまいました。次回からはちゃんと印刷しようとおもいました、申し訳なかったです……。

2021年7月25日 15:30 作者予想

あとはなつキャスの時間を待つのみとなり、ツイッターで作者予想を発表しました。ここで作者は3人ではなく4人いるのではないか・実は雨上ちゃんが飛び入り参加しているのではないかとにおわせてみます。

そして人狼情報も投下してみます。


2021年7月25日 19:45 なつキャス待機ちゅうのこと

3人で通話をはじめたタイミングで「Blank誰が書いたんかまじでわからんねんけど」と言ってみます。もはや作品ではなく言動で騙そうとしているわるいおねえさんでした。雨上ちゃんか夏の幽霊がいるかもしれないという前提をつくったところでいざなつキャス本番へ。


2021年7月25日 20:00 なつキャス開始!

わたしのマイクがうまく入らないお決まりの展開をやりつつ(ほんとうに毎回ごめんなさい……)、なつキャスがはじまりました。なつキャスではお酒を飲むのですが、今回はハイネケンを選びました。書きかけの小説の登場人物に飲んでほしかったのでじぶんも飲んで味を知っておきたかったのでした。前回のなつキャスで飲んでいた水曜日のネコよりも後味に苦みがあったのですが、それを含めても飲みやすかったです。あい・らぶ・びあーかもしれない。
酒のはなしはともかく、小説の感想を話しあったりしれっと嘘をついたりしているなつキャスはアーカーイブを公開しておりますので、よろしければご覧くださいませ!

そしてついに作者発表! 参加人数が3人だったのでさすがに片方ずつは当てられていたのだけど、「Blank~」と「シーサイド~」の組みあわせでわたしを吊ろうとしたひとはいなかったのでぶじに生還いたしました。


夏の新作発表会(即興)を終えて・文体偽装のはなし

こうして夏の新作発表会(即興)の全日程を終え、めちゃくちゃに疲れましたがそれ以上に楽しく有意義な時間を過ごすことができました。お付き合いくださったみなさま、なつキャスで実作の企画がやりたいと無茶苦茶なことを言いだしたわたしといっしょに書いてくれた史花ちゃん、獅子狩ちゃん、ありがとうございました。
今回、わたしはこのひとの文体を意識して書いてみよう・このひとが書きそうな設定を入れてみようというふうにじぶんがふだん書く文章ではないものを意識して書いたのですが、ふたりからしてみるととてもびっくりするようなことだったそうです。なんでも文体の偽装はふつうやらないし、やろうとしてもできないとのこと(雨上ちゃんはどうなんだろう、あのひとは偽装できそうな気がするけれど……)。なつキャス後の通話で獅子狩ちゃんが「わたしにはフォントがMS明朝しか入っていないからほかのフォントで出力できない、みたいなものです」と譬えて話していたのが印象的で、なるほどなあとおもいつつ、逆にわたしにはない感覚だと気がつきました。
わたしのふだんの文体は、言いたいことと漢字の意味や見た目が合致しないときはことばをひらがなにひらくタイプのひらがなの多さで、なるべくやわらかくみえるように書いているのですが、実はこれがそもそも偽装している文体で、本来は漢字も小難しいことばもたくさん使うだ・である体の文体をでものを書きます。大学1回生のころに授業で文章をたくさん書いて、世に出回っている小説や同期の文章をたくさん読んで、じぶんの素の文体でないものほうが素敵におもったのでそちらに寄せて書くようになったのでした。のちに2018年に刊行された『早稲田文学』の金井美恵子さんの特集を読んで、金井さんみたいに書けるようになったらいいなとおこがましくも夢をみるようになって、物事を正しく細やかに描く文体を意識するようになり、現在にいたります。谷崎由依さんの『鏡のなかのアジア』と出会ってからは、文章の精密さや美しさといったものはわたしの目指したいところだとますますおもうようになってさらに精進している次第です。だから文体の偽装、というより、読んで見知ったものを参考にしてじぶんが書くものに取り入れることに慣れているのかもしれません。また、今回の企画に限らずふだん書いている小説でも作品ごとに文体をすこし変える(いつもひらがなで書いているものを漢字にとじる・描写の量を調節する)ことがあるのですが、これはわたしがすきなものを書くというより小説が損をしないように書いていきたいというきもちがあるので文体を操作しています。
こんなことを書いているとあたかもじぶんが文体偽装が上手みたいに聞こえるかもしれないのですが決してそういうわけではなくって、史花ちゃんみたいに書こうとしても「23時の魔法使い」に出てくるようなほわほわとした会話や清潔な感じはやっぱり書けなくて、獅子狩ちゃんの「太陽系レモン号航空日誌」を読んで設定・人物・情景描写の細やかさ、そしてカタカナで名前をつけていくセンスには感服していて、雨上ちゃんみたいにキャラクターが生き生きとした小説を書こうとしても魅力的な部分が全然書けていなかったなと反省する箇所がたくさんありました。書いてみないとわからない苦労、のようなものがあって、おそらくわたしはその苦労もすきで文体を装ってみることがあるのだとおもいます。そういえば初のなつキャスがすきな小説の文体のはなしだったのだけれど、NUT's編集部メンバーが書く小説の文体のはなしもしてみたいな、なんておもいました。またしようね。

というわけで、大変長くなりましたが夏の新作発表会(即興)がめっちゃ楽しかったですというおはなしでした。おやすみなさい。

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