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日記

おともだちからお便りがきた。彼女が書きたいときに送られてくる葉書の文字はいつもこにょこにょしていて、画数の多いうちの住所が奇跡のように器用に記されている。平成が終わっちゃうね、さびしいね。令和は薄紅の色のまま初夏をつれてくる。会いたいって言ってもらうまで会いたいよって言えないのは、彼女に近づきすぎることがゆるされるのかどうかわからないからなのだろう。すきなものが・興味をもつものが・やりたいことが・書きたいことが似通ってくるごとに、わたしはいつか彼女を飲みこんで苦しめてしまいそうな気がする。葉書は岡上淑子さんのコラージュで、わたしがいっとうすきなアーティストを彼女に教えたことがあったのだったかは記憶にない。けれど、とてもとても嬉しい。ひとりで東京に行き、なにをしていたのか語る間もなく過ぎ去ってしまった三月、岡上淑子さんの展示でコピーではない本物の「彷徨」を見たときに涙が浮かぶほど強烈な感動をおぼえたことをおもいだした。
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「どうしようもない言葉のために」メモ
ぐりとぐら(買いわすれたな、ねぎとにら)遊星抓ってようこそ世界!
さびしいのびしの尖りを飲みこんで死にたいよりもいわない言葉
キスを待つ顔ができればお姫さまになれたのかしら花冷えの昼
むすんだらひらいてを推奨するというから捺印できないでいた
三割引縦長キャベツかわいさが欲情に近づく夜を思う
作り置きできたらいいな感情も「温めますか?」にこっくり頷く
孤独という星の名前があればいい夜空がきみを解き放つから
雨は雨のなかで降りだす呼吸までも雨の速度にすり替えながら
宝くじ、破魔矢 真冬の気まぐれが生活になる 躑躅見にゆく
結婚をこんと略してこんこんと口遊む日々こんこんしよう
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コーマック・マッカーシーの小説を持って帰ってくるのを忘れたので、読みさしのままになっていたエマ・クラインの『ザ・ガールズ』を読むことにした。おんなのこがおんなのこにむける観察の目や過剰な自意識の、みり、とこころを軋ませる感覚がすこし怖いのだけれども面白い。点在する比喩表現がすき、なんて書きつらねてしまうと読み終わったときに書くことがなくなるのできょうはここまで。津村記久子さんの『君は永遠にそいつらより若い』を再読したせいか、ここがホリガイに似てるよなあという読みかたをしていて、というか、ホリガイが人間すぎるのだとおもう。どんな人間のなかにもホリガイの成分がすこしでも入っているような気がする。じぶんのなかの表にはださないじぶんを垣間見て、だから、大学一回生のころのわたしたちにひどく刺さったのかもしれなかった。
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「なんかすきなたべものある?」
「うーん、ハンバーグ?」
(えらいベタやな)
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職場のインドネシアの拠点からのメールに「4/19 Good Friday」と書かれていて、おお、ほかの国には良き金曜日があるのだなとおもって検索してみたら聖金曜日のことだった。イエス・キリストの受難と死を記念する日、らしい。
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お気に入りの写真をアップロードして、お気に入りの日の日記をつけるインスタグラムのアカウントをもっているのだけれど、そのお気に入りの写真を整理する時間がなかなかとれない。おかげでスマートフォンの写真フォルダがごちゃごちゃになってしまっているし、お気に入りの日の記憶も消えていってしまう。
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「ハンバーグすきらしいからつぎはハンバーグつくるわ」
「ふうん。ハンバーグ、は練習したほうがいいんとちゃう」
「せやな」
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きょうやることはすべて平成最後になる、その快楽の慄きが愛しい。元号が変わること、が、あるひとつの死という薄暗い時代の移り変わりではなく、新しい時代がやってくる、光に満ちる瞬間になった世のなかでほんとうによかった。きょうとあしたがほんとうに繋がっているのかはわからないし、実生活が変化することもないけれど、社会人になってから得にくくなった新しい日々へのしゃきっとするきもちが、いまはとても嬉しい。

#日記 #nikki

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