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アルコールディスペンサーを作った話

今や、どこを訪れてもアルコールディスペンサーが置いてあり、入退場時は誰しも必ず手の消毒を行っている。その様式は様々で、足踏み式もあれば、自動噴射式の製品もあったりする。

しかしこれだけアルコール消毒が、いわゆるニューノーマルとなっているにも関わらず、見栄えが少々寂しくはないだろうか?例えば、広告をつけるだけでも、かなりの日本ぽさが出るはず(笑)。広告収入も見込めて良い。

広告は冗談半分だが、今私が最も求めているのは「つい、アルコール消毒をしたくなるアイデア」である。ニューノーマルと良い響きでは言いつつも、正直なかなかの強制力を感じる。そこで、消毒のやらせれ感というものを、なんとかうまく払拭できないかと考えている。私が導き出したそのひとつの答えが「かわいさ」だ。

街に溢れているアルコールディスペンサーは、通常のスプレーボトルばかりで、お世辞にもかわいいとは言えない。SNSで皆が猫の写真にいいねするように、アルコールディスペンサーにかわいい肖像をあてがうことで、消毒という所作に愛着を持たせたいのだ。

ということで、自らかわいいアルコールディスペンサーを作り、試してみることにした。まずはプロトタイピングしてみることが大切だからね。

市場調査

作る前にベンチマークを兼ねて市場調査をしてみた。世の中、かわいいスプレーボトルは多く販売されているようだ。

せっかくなら、手をかざしたらアルコールが噴射される、オートディスペンサーの方が良い。ワンポイントのデカールが貼ってある製品が多い。

中華製品でこういうのもあった。ディスペンサーの形状そのものでキャラクター性を持たせており、とても面白い。

もう少し探してみると、このような記事を発見。

これはキングジムの「tette」という製品なのだが、目をつけるというアイデアだけでカモノハシみたいな愛らしさが加わる、とても素敵な事例だ。

こういった製品におけるかわいさ捻出のポイントは「機能や形状を如何にうまく応用するか」という点だと思う。キャラクター型コンセプトならば、そのキャラが口からアルコールを吐くという演出はかかせないだろう。

そして、もう一つ大事なことがある。コストだ。例えば、tetteはとても魅力的な製品だが5,000円弱する。オートディスペンサーは、やはり中華製品が台頭していて、Amazonで検索しても3,000円台がほとんど。たとえ「かわいさ」を付与したとしてもそこは譲れないところである。

開発手法

コロナ禍ということもあり、やはりオートディスペンサーづくりにチャレンジした学生や企業、Makerはとても多い。いくつか紹介しよう。

Arduino等のマイコンボードとサーボを組み合わせ、各々の創意工夫でものづくりに励んでいてとても素晴らしい。マスク作りも同様だが、こういったコロナ禍の課題を自身のものづくりの力で解決していく、いわゆるシビックテック的な流れが、より強固になっているのはとても良い事である。

今回、私も彼らと似たようなことを考えたのだが、これらの課題は製作工程が標準化しにくい点にある。学校や会社に置く1点ものなら良いのだが、冒頭で問題提起した「街に溢れているアルコールディスペンサーをかわいくする」には、かわいさの量産をしたいのだよね。つまり今回、ある程度の標準作業化が実は必須なのである。

この課題に対する私の答えは「既製品ハック」だ。既製品のセンサや基板を流用することで、大きく開発コストを下げ、標準化効率を上げるのが狙い。

市場調査において、アルコールディスペンサーの種類は豊富だと分かった。今回、2,000円程度の中華製品を分解、リメイクすることにより、より安価かつ誰でも簡単に自作できるような製品を作り上げる。中身は既製品、外装は3Dプリンタで造形していくことで、作り方の標準化も図っていく。

仕様

原則、分解もととなるベース製品に準ずる。カタログを確認したところ、360ml容量で、手をかざすとアルコールが噴出される。

ここで、最も悩んだのが「バッテリを内蔵するか?」という点だ。これは、効率的な電池取り換え手段の考案残量表示の明確化が課題となってくるところにある。面倒だよね。ほとんどのオートディスペンサーは単三電池4個内蔵式になっており、そしてほとんどの場合は製品に付属されていない(笑)。加えて電池搭載分、外装が肥大化してしまう。

この悩みに対する私の結論は「外部給電式」。単三電池4個ということは、約6V駆動なので、5VのACアダプタ、あるいはモバイルバッテリでもって電源を賄えるはず。今の世の中、ほとんどの人はスマホ、携帯電話を持っていて、その充電ケーブルもあるという条件を前提とした場合、メーカーが「消費者に単三電池は別で買わせる」同様、私は「消費者の充電ケーブルを代用させる」手段をとるわけだ。

次にデザイン。tetteのカモノハシはとても魅力的だった。それに倣う要素を色々考えた結果「アルコールボトルも意匠にうまく活用できないか?」という着想を経て、ペンギン型に決定した。

アルコールカバー2

分解

製作にあたり、まずは流用可能部品の把握が必須なので分解してみた。

分解手順

構造はとてもシンプルだった為、数分で分解可能だ。締結は全て十字ネジで、なめないように注意が必要。考えた結果、流用部品は下図の5点とした。モータ、ボトル、基板、口、センサキャップ。

構成

もう少し細かく解説すると、モータはこのような仕組みになっている。回転することでチューブを圧し潰し空気の流れを作り、アルコールを押し出している。良くできてるね。

モータ

基板は赤外線の測距センサとモータドライバ、制御ICなどで構成されている模様。印字をもとに部品詳細を調べるとほとんど中華製。昔は日本製の部品が主だったけど、最近は少なくなってきたね。中華だと情報少なくて、データシートを探すのに苦労した(笑)。

基板

一応、メーカーを変えて似たような製品を購入、同じように分解もしてみたのだけれど、やはり型を使いまわしているようす。外装の形状が微妙に異なるだけで中身はほぼ同じだった。

設計

まずは流用部品のモデルを作る。ノギスなどで寸法計測しながらリバースエンジニアリング。そしてデザインスケッチをもとに、ペンギンを想起させるような個所に配置していく。

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地道にモデリングしていく。寸法を膨らませ過ぎないように気を付けなければならない。無駄にサイズが肥大化すると、3Dプリントできない可能性がある為だ。私が所有しているAdventurer3では、150mm四方に収める必要がある。大きすぎる場合はモデルを分割する。

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あっという間にペンギンのモデルが完成!難しかったのはくちばしの部分。基板突き出し量、センサの反応角度を検証するのが少々手間だった。また外部給電の為、尻尾にはUSB microコネクタを設けてある。

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レンダリングするとこんな感じ。かわいー(笑)。

レンダリング

造形/組立

ボディと白目、黒目でフィラメントの色を分けて造形した。フィラメントはFLASHFORGEオンラインストアで多種多様取り扱っている。せっかくなのでピンクや黒など、いろんな色で造形してみた。そのうち輝く黄金モデルも作る予定である。

組立そのものはとても簡単で、ボルト数本の締結で済む。チューブの取り回しが少々気遣い作業になるかもしれない。工程も10前後ではなかろうか。

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あっという間に完成した!機能概略は以下の通り。

システム

ベースとなったアルコールディスペンサーと並べて寸法を比較してみた。電池を内蔵していないこともあり、なかなか小さく収まってくれたのではないだろうか。材料費もベースの2,000円+ボルトやフィラメント含め1,000円程度なので、トータル3,000円強といったところだ。

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改善

実は、初品の製作には最大のミスがあった。それは造形時間である。1台作るのに、3Dプリンタの造形時間が24時間を超えてしまった(なんとボディだけで17時間超え)。製作工数・リードタイムの観点から、これは由々しき事態である。

原因は単純で、サポート材の付き方にある。無駄にサポート材がついてしまう形状でモデリングしてしまったが悪手だった。やはり、下面は平面の方がベター。対策として、部品の分割ライン以下のように変更した。また、強度の問題もなさそうなので、充填率も低めに設定した。これにより、ボディは7時間、トータルでも12時間程度で造形可能となり、造形時間の半減に成功した(最初から考えて設計しろという話だけどね。未熟)。

3Dプリント

加えて、尻尾もボディと一体造形するようにしたり、様々な形状を斜め方向にすることでサポート材がつかないように工夫している。

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改善は今なお継続中で、可能な限り造形時間を削りつつも、より一層精度を上げる方法を模索しているところだ。

実証評価

とあるオンサイトイベント会場においてトライしたところ、なかなか好評だった。やはり子供受けがなかなか良かったと思う。

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ちなみに、1台はさらに改造してお喋りするようにもしてみたのだけれど、これもなかなか良かった。アルコール噴出時に「えらい、えらい」と喋ったりする。使い方も含め、動画にまとめてみたので見てほしい。

もしかしたら初見だと、アルコールディスペンサーだと気づかれにくいかもしれない。「口元に手をかざして」みたいな、フォローが必要な気もする。もう少し評価して、もっとユーザーの声を聞きたいところだ。

まとめ

冒頭に述べた「かわいさ」で「つい、アルコール消毒をしたくなるアイデア」は達成できたかのように思う。置いてあれば気になるし、嫌な感じは全くしない。設計していく中で、ペンギンの目が離れすぎていることに違和感があったのだが、なんだかボケてる感が醸し出されて逆に良かった気がする。あとはかわいさの量産かな。

今回は既製品ハックという手法を取ったが、中華メーカーを探せば部品調達はできそうな気もする。分解せずに組立でき、より安価なデバイスを作り上げることが可能だ。

とはいうものの、本作品は野生のプロトタイピング要素が強い為、既製品ハックのままの方が面白そうである。より細かな分解・組立手順や3Dモデルを公開し、ぜひMaker自身の手でオリジナルの製品を作ってもらいたいものだ(イワトビペンギンぽくしてみたり、あるいはポケモンのコダックみたいにしてみたり)。近いうちに公開するので少々お待ちいただきたい。

また、私個人の生産能力でも、現在4台手元に完成品があり、10台くらいなら趣味での個人生産範囲にも思われる。コストも材料費に限ると3,000円×10台 = 3万円程度だし、なんとか許容できそうな雰囲気。今後オンサイトイベント開催に携わる予定の方、是非私へお声掛けいただきたい…(笑)。

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