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「シーンとシーンを繋ぐ」ための技術と手法

Q. 書きたいシーンが短すぎて、書きたいシーン同士を繋げるのがうまくいきません。どうしたらいいでしょうか。

A.ショートショートじゃダメなんでしょうか?

当記事をお読みになられているゴリラの方であれば、プロットが何故必要なのかという記事には既に目を通して頂けているかと思う。その話において「書きたいもの」があり、書きたいものという目的のために必要なシーン、つまり武器のパーツを揃えて書き出してあるのなら、別に「書きたいシーン」にこだわる必要はない。そのパーツが武器にとって不必要なものであれば、バッサリ没にしてまったく別の短編などにリファインすれば良いのだ。
小説初心者の内は、妄想をしようとしてもあまり鮮明に妄想が働かず、思い浮かべられるシーンが他のシーンとの連続性を持たないということもあるだろう。これは妄想筋を鍛えればやがて改善していくことなので、是非筋トレを続けて頂きたい。なお、妄想筋の鍛え方についてはこちらの外部記事で初心者向けのレッスンを公開している。少しでも参考になれば幸いだ。

ゴリラ's ワークシート~誰でも出来る妄想筋トレ~

落書きだって構わない、趣味だもの

小説を書き始めたばかりのニューフェイスゴリラであれば、最初から長い話を書こうとする必要はない。まずは「書きたいシーン」だけをただ書き殴ったショートショートでも一向に構わないのだ。絵師さんで言うなら「落書きですが……」とラフ画を載せるようなものである。貴方はまだジャングルに来たばかりの新ゴリラ、いきなり超大作を書き上げて投稿サイトのランキングトップになりブクマはウハウハで感想もモリモリ、などという夢のようなことはまず起こってくれないので安心してほしい。最初は小さなものからでも良い。本当に「書きたいもの」が出てくれば、苦手でも長い話を書かざるを得ない時がくることだろう。
勿論初心者ではなく中堅やベテランゴリラでも、没にしたネタや小さな妄想をショートショートで公開するというのは普通におこなっていることだ。短い話の中に書きたいシーンと起伏を盛り込むのは小説の練習にもなるので、多くのゴリラが実践していることである。

もし貴方がまだジャングルに足を踏み入れたことのない初心者で、「書きたいシーンと書きたいシーンを繋げていけばおはなしになる」と思っているのなら、それは残念ながらいつか覆されることになる、と言わざるを得ない。勿論そういう手法もある。書きたいシーンをただ羅列しただけのものを、筋の通った話として仕立てる技術というものも存在する。しかしそれは「書きたいもの(シーンではない)」を自分に問い掛け、書きたいもののためにパーツを選び構築した話に比べれば、やはり殺傷力の劣るものになってしまうことは否めない。いつまでもそれだけで続けていけるやり方ではない。小説を書き続けていれば、いつか貴方自身がその話に満足出来なくなる日が来てしまうからだ。
ゴリラがここで書いている記事は、序文で申し上げた通り「ある程度小説を書いてきたが、この先に一人では進めない」という方向けの記事だ。もしもまだその段階ではないという方なら、貴方はゴリラ語よりも、ちゃんとした小説HOWTO本やマシュマロちゃんの初心者向け記事をご覧になるべきである。あちらは趣味で活動しているゴリラとは違い、きちんとしたビジネスで小説のノウハウを公開してくださっている記事だ。こんなジャングルの片隅に住んでいるだけのゴリラの言葉よりも余程参考になる部分が多いことは間違いない。

ショートショートをストックする

緩い連続性を持ったショートショートを、SNSなどで連載していくという手法もある。これならば書きたいシーンの断片であっても躊躇なく書き出せることだろう。キャプションで「前の話と同じ時空の話です」などと一言添えておけばいいだけである。
別にSNSに載せる必要すらなく、自分でそういうものを書き溜めておいて、いつかそこに連続性やテーマを見出せたら改めて長編として仕上げる、という方法もある。これなら時間はかかるが、他人からは「いきなり長編を書いた」ように見えることだろう。
こうしたストックの中から新しいネタを発見することもあるし、別の話を書こうとした時に急に活きてくるということもある。ストックしたまま自分でも忘れ去ってしまうこともままあるが、ジャングルでは当たり前のことなので落ち込む必要はない。

「場面転換」とは

さて、「書きたいシーン」ではなく「書きたいもの」のためにどうしても必要なパーツを組み上げる時に、繋ぎのシーンで困るということはあるだろう。これをシナリオ用語では「場面転換」といい、どんな話も違う場面に繋げる際には必ず場面転換が必要になる。劇やドラマであれば暗転、照明変更などを用いる。ノベルゲ、ソシャゲならば「○○時間後、××にて」などの文字が表示されることもある。小説でそのような場面転換をおこなう際に、どうもしっくりこない、ということはあるだろう。これはプロットの段階で整合性や連続性をよく吟味することでかなり避けられるが、それでも「ここが上手く繋がらない」ということは起こり得る。

ではそのような時にどうすれば良いか、ゴリラなりに説明していこう。

会話で繋げる

キャラクターの会話によって話を誘導する、というやり方がある。たとえば二人の人物が、食事について話しているとしよう。以下に会話の例文を示そう。

「これ美味しいよね!」
「めっちゃうまい! やっぱこの店のタルト最高だよな」
「新しく出たシフォンケーキも気になるんだ、この抹茶シフォンってやつ」
「あーこっちもうまそう、ヤバイ。でもさすがにそろそろお腹いっぱいだなー」

この後のシーンで二人は洋服を買いに行く、ということが決まっているとしよう。自然にそのシーンに持っていくために、二人にはファッションの話題を出してほしい。では食事とファッションという異なる話題を、どのようにすればスムーズにスライド出来るだろうか。上の会話文を少し変形させて、後の展開への「伏線」を作ってみよう。

「これ美味しいよね! しかもいちごの色が可愛いし、見た目も素敵!」
「この店のタルトやっぱ最高だよな! ○○って赤好きなの?」
「赤ってなんかいいよね、元気なイメージ。つい赤い小物買っちゃったりする。××は何色が好き?」
「俺は緑色が好きだなー。今日もほら、靴が緑」
「ほんとだ。緑色っていえば、新しく出たシフォンケーキも気になるんだ。この抹茶シフォンってやつ」
「あーこっちもうまそう、ヤバイ。でもさすがにそろそろお腹いっぱいだなー」
「ふふ、そうだね。じゃあ食べ終わったら腹ごなしにショッピング行かない? ××に似合う緑の服、探そうよ!」
「おっ、いいね。じゃあ俺○○に似合うの探すよ」

これで二人が「洋服を買いに行く」という、必要なシーンへの導線が確保されたことになる。会話に盛り込むのであれば、「全然関係ないけど」「そういえば」などの強引な話題変えも、時には使うことが出来るだろう。キャラクターと話の流れによって不自然にならないように調整しつつ、会話でシーンを誘導していこう。

しりとり式

前のシーンの最後の描写と、次のシーンの最初の描写に連続性を持たせるという手法がある。これは群像劇などでも使われる手法で、あまり関係のない二つのシーンを繋ぎ合わせることが出来るやり方だ。

たとえばAというキャラが、街で喧嘩をしているシーンを書いたとしよう。この後まったくAのことを知らないBというキャラが同じ街の中で、別の所にいるシーンを書かなくてはならない。そんな時に「しりとり」を使えば、読者にはなんとなく話が連続しているように見えるはずだ。以下に例文を示してみよう。

「ふざけんなよテメェ!」
Aは叫びながら拳を振り上げた。相手の頬に拳が当たると、鈍い音と共に悲鳴が上がる。
「何、ケンカ?」
「うわっ、やばくない?」
通行人がひそひそと囁く声。しかしその声は、頭に血が昇っているAの耳には届かない。
「やんのかコラ、上等だ!」
相手も殴られて火がついたのか、起き上がるとA目掛けて突進してきた。二人は揉み合い、歩道に転がる。
「これ警察呼んだ方がよくないか。すぐそこに交番あるだろ」
「誰か、お巡りさん呼んできて!」

***

「お巡りさん、きょうもおつかれさま!」
小さな子どもがそう言って交番の前を駆けていくのを、Bはぼんやりと公園のベンチに座ったまま眺めていた。穏やかな天気の昼下がり、公園にはひなたぼっこをしている老人と、餌を探している鳩、そしてBしかいない。

このように最後の台詞や描写を次のシーンの冒頭に使うことで、いわばシーンのバトンタッチをさせる方法だ。まったく違うシーンだが「同じ街の中で起きた」ことのため、この後AとBが出会うというシーンや、実はAとBは友達で、騒ぎを聞き付けたBが喧嘩をしているAを止めに来る、などというシーンも書ける。繋ぎやすいようにモチーフを選んでみたり、シーンを少しアレンジしていこう。

場面転換のフォロー

どんな手法を使うにしても、場面転換というのは読者にとっては「頭に負荷をかける」ということを忘れてはならない。それまで読んできたシーン、舞台、人物などが切り替わるので、一旦頭の中をリセットする必要があるからである。そこで場面転換をする際にはほんの少しでもフォローを入れておくことで、読者が新しいシーンに入りやすくなり、全体的に読みやすくなることだろう。ゴリラは人類よりも力が強いので、優しさを忘れてはならない。以下に例文を示そう。

「明日は晴れるといいな」
細かい雨粒が降り注ぐ灰色の空を見上げて、○○は呟いた。季節の変わり目は雨の多いこの街だが、もうじき冬がやってくる。○○は冬のこの街が好きだった。きんと冷たい風と、高い青空。澄んだ空気に響く電車の音。吐き出した息が白い綿のように昇っていく朝。この街へ来たばかりの日、大切な人に出会った時のことを思い出して○○はそっと微笑んだ。
カーテンを閉じてベッドに横になる。どうか明日は晴れてくれますように。心の中で祈りながら、○○は目を閉じた。

翌朝、雨は止んでいた。
「やった!」
目覚まし時計が鳴るよりも前に起きたのは久しぶりだ。○○は窓を開け、深呼吸する。今日は約束したデートの日だ。今週の天気予報では雨が続くと言っていたが、毎日寝る前に祈っていたのが届いたのだろうか。良い天気になって嬉しい。ベッドから降りると、○○は弾むような足取りで鏡台の前へ向かった。

この例文だけでも「降っていた雨が翌朝には止んでいた」ということは伝わる。しかし、少しフォローしておくことで読者にとって読みやすい、おはなしとしても読み応えのある「小説らしい」文章にすることが出来る。このような場面転換に必要なフォローとは「場面が切り替わった後の情景描写」である。それまで読んできたシーンとはまったく違う景色が広がっているということを、はっきり理解しているのは作者だけだ。その「作者に見えている景色」を読者と共有するための文章が「情景描写」なのである。

「明日は晴れるといいな」
細かい雨粒が降り注ぐ灰色の空を見上げて、○○は呟いた。季節の変わり目は雨の多いこの街だが、もうじき冬がやってくる。○○は冬のこの街が好きだった。きんと冷たい風と、高い青空。澄んだ空気に響く電車の音。吐き出した息が白い綿のように昇っていく朝。この街へ来たばかりの日、大切な人に出会った時のことを思い出して○○はそっと微笑んだ。
カーテンを閉じてベッドに横になると、窓際に吊るしたてるてる坊主が視界に映る。このてるてる坊主に込めた願いが、どうか空に届きますように。心の中で祈りながら、○○は目を閉じた。

「やった!」
カーテンを開けると、窓の外には真っ青な空が広がっていた。目覚まし時計が鳴るよりも前に起きたのは久しぶりだ。○○は寝癖のついた髪を抑えながら窓を開け、ひんやりとした空気を胸いっぱいに吸い込む。冬の気配のする空気はぱりっと乾いていて気持ちが良い。今日は約束したデートの日だ。今週の天気予報では雨が続くと言っていたが、毎日寝る前に祈っていたのが届いたのだろうか。それともてるてる坊主が効果を発揮したのだろうか。とにかく良い天気になって嬉しい。
「ありがとう」
○○は吊るされたてるてる坊主に礼を言い、ベッドから降りると、弾むような足取りで鏡台の前へ向かった。

情景描写によって、前日の湿った空気とは打って変わった「快晴の初冬の朝」を書くことで読者にもその変化が伝わりやすくなり、「大切なデートの日」という特別感も強くなる。場面転換をした後のシーンに情景描写を加えることは、時に大きな効果を生んでくれる手法だ。
なおここでは「てるてる坊主」というアイテムを使用することでシーンの連続性もプラスしている。

終わりに

「書きたいシーン」の羅列では長編にはならない。「書きたいもの」を持って、「必要なシーン」を組み立てることが物語を一貫性のあるものにするコツだとゴリラは思う。しかしどんな組み立て方であっても、場面転換にはやはり悩む時もある。この記事が、場面転換に悩むゴリラの皆さんにとって何かの参考になれば幸いである。


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