鋼のメンタルと、私。
中学の頃、私は友人たちに「鋼のメンタルの持ち主だ」と言われていた。
人前に立って喋るのに全然緊張しないから、というのが理由で。
それは今も余り変わらない。
転職する時の面接でも、新しい職場への初出勤でも、特に緊張することなく過ごしてきた。
だから私はいつの間にか、自分の精神はすごく強いのだと思うようになっていたのだ。
実際、多分そこそこに強い。
自分の機嫌は自分で取るをモットーに、日々をそれなりに乗り越えてきた。
二度の転職もその度の引越しも、なんとかなった。
だからきっと、これから先も頑張れば何事も乗り越えていけると思っていたのだ。
実は数ヶ月前から、背中の中心の少し下あたりに謎の痛みがあった。
ピリピリとひりつくような痛み。
何度鏡で見ても何もなっておらず、外的な物では無さそうだなぁと思いながら過ごしていたが、痛みは全く引かなかった。
少しバタついていた私生活が落ち着いた頃、かかりつけの病院で診てもらった。
外傷は無い、骨にも異常は無い。
そこで言われたのが「断言は出来ないけど、ストレス性の神経痛かもしれないね」。
一瞬、よく分からなかった。
まさか自分に「ストレス性」なんていう診断がされるなんて思ってもなかったから。
「一度行ってみるといいよ」と言われて渡されたのが、行政の心の相談窓口の案内。
ちょうど翌日に役所へ出向く用事があったので、ついでにと寄ってみることにした。
事前の予約で簡単なwebでのカウンセリングを受けたら、ストレス度が5/10と出て。
ストレスの原因として思い当たることを入力してくださいという文字を見て、私の手は自然と動いていた。
つらつらと、いくつもの事柄を入力していく自分の手をどこか他人事のように見ながら「ああ、私、ちゃんとストレス溜まってたんだ」と気付く。
鋼のメンタルは、どうやら自分を過大評価し過ぎていたようで、鋼の内側がダメになっていることに気づけていなかったのだ。
予定通り、行政の窓口に行って話をした。
息子も居たので長居は出来ずに30分程度。
匿名で顔も隠して受けられたカウンセリング。
「そうなんですね」
「〜だったんですね」
「そうですよね」
「〜と感じるんですね」
カウンセラーの方はしっかりと寄り添ってくれたし、同意同調してくれた。
きっとそれはマニュアル通りの素晴らしい対応だったんだと思う。
けど、私が欲しかったのは同意でも同調でも無く、具体的な解決策だった。
結局なんの解決策も得られずに帰宅。
他人に話すことで心が軽くなる人もたくさん居るんだろうが、私は逆に、自分が抱えている問題を明確にされたにも関わらず、解決策ゼロで終わったことに対してモヤモヤが増しただけだった。
気になりだしたらもうダメで。
今まで無意識に我慢していたことに対してもイライラしてストレスを感じるようになる。
知人ゼロ、土地勘ゼロのこの土地に引っ越してきて1年半。
初めて私は「一旦一人になりたい」と思った。
周りに知り合いがいなくて孤独だと思っていたはずなのに、それでも「一人になりたい」と思った。
そしてそう思ってしまう自分が、母親としてダメなのでは無いかと思い自己嫌悪に陥った。
何もかもを投げ出したいと思い、目の前で安心しきって眠る息子を見て罪悪感を抱き、働いていないことへの劣等感を覚え、それなのにストレスの発散で金銭を使ってしまう矛盾。
泥のように眠りたいのに、目が冴えて眠れず。
夜中に何度も目を覚ましては、込み上げる感情を必死に押し殺して。
ああ、もう、なんかダメかも、なんて。
限界を感じそうになった時にふと思い出したのが「限界まで我慢しちゃダメだよ」という心友の言葉。
彼女は2児の母で、今は遠く離れた場所に住んでいる。
私の「鋼のメンタル」を間近で見ていた友人だ。
長い長いLINEを送った。
きっと家事と育児で忙しいであろう彼女に、こんなのは負担になるだろうと思いながらも。
彼女は、何日もかけて私の長ったらしいLINEに付き合ってくれた。
そしてそれは同意や同調だけでなく、解決策や提案やの、私が行政窓口に求めたけれど貰えなかったそれらを返してくれた。
LINEが一段落した日の夜、私は、夫が夜勤でいない部屋で、久しぶりに泣いた。
何の涙かは分からなかった。
次から次へと勝手に流れ、止め方が分からなかった。
多分それは、鋼のメンタルの内側で粉々に砕けていた何かだったんだと思う。
一通り泣いたらスッキリして、久々に朝まで通して眠れて、気付けば背中の痛みも無くなっていた。
今日も、私は知らない土地で専業主婦をしている。
越してきた頃に比べたら随分と土地勘は出てきたけれど、まだまだ知らないことが多い。
知人は、居ないこともない。
夫の親族と、支援センターでよく会う人たち。
〇〇ちゃんのママ、〇〇くんのママ、というのは分かるけど本人の名前は知らない。
どうやら待機児童が多く、息子を保育園に預けるのは難しいらしいので、まだしばらくは専業主婦で居なければいけないかもしれない。
抱えている問題が何か一つでも解決したのかと言われるとそうでは無いんだけれど。
一つずつ向き合って解決するしかない。
という前向きな気持ちになり始めた。
私は鋼のメンタルなので、大丈夫。
大丈夫だけど、大丈夫じゃない時もあるらしい。
なので、これからは「自分が思ってるより鋼は頑丈ではない」ということを忘れずに過ごそうと思う。
そしてそれを忘れない為に、ここにこうして記しておく。
・また背中が痛み出した時
・何を食べても胃もたれする時
・そもそも食欲が無くなった時
・何度も夜中に目が覚める時
・毎日のように眠れない時
・結婚や出産を後悔してしまった時
・理由なく涙が出た時
・外に出るのが億劫になった時
・家事が何一つ手につかなくなった時
これらは鋼のメンタル損傷の合図。
一旦どこかに吐き出すこと。
自分の機嫌は自分で取る。
同様に、自分の心は自分で守る。
これを私の新たなモットーとする。
以上、備忘録まで。
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