追いかける攻めの話/ひのもとうみ作品

商業BL小説家・ひのもとうみ先生の話です。
「遠くの人」が良くて、そういえば以前読んだ別の作品も面白かったなと思い出して、そこから一気買い。
雑誌、同人誌までは手を出していないのですが、とりあえず商業本は全部読んだ。

なにがいいかって、受けからの好意(恋情)にあぐらをかいていた攻めが、いざ自分にその視線が向かなくなると焦り出して、やがて自分の気持ち(恋情)に気づき、そして今度は攻めのほうから受けを追いかけるという話がすごくいい!!!(オタク特有の早口)

攻めはだいたい社交的で程よくモテるので、人の気持ちや好意には敏感で。だからこそ、あえてしているそのあぐらのかきっぷりに「受け、そいつはやめたほうがいいよ。当て馬のほうがいい男だと思うし、幸せにしてもらえるよ」と私が受けの友達だったら口を出したいと思う。
でも恋ってそうじゃないんだよな〜。攻めから好意のお返しがなくても、受けは好きの気持ちを捨てられないんだなあというのが、読んでいて伝わるので「しかたないよね。幸せにしてもらいたいって思ってるわけじゃないもんね」と私の心の中にいた受けの友達──もといお節介おばさんはそっと帰っていった。
でも、とりあえず攻めには心底反省して改心してほしい。

友人や同僚先輩として持つなら、いい人な攻め。でも受けに対しては一度頭丸めて反省しても足りないんじゃないか?と思うくらいな攻め。受けじゃなかったらとっくに捨てられていたと思うぞ!と思いながら、ランキングにしてみた。順位が高いほど反省して欲しい度が高まります。

※以降ネタバレあります!(+敬称略)


8位「君は明るい星みたいに」(イラスト:梨とりこ/新書館ディアプラス文庫)

堅物朴念仁な年上攻め×体育会系な仔犬受け

大卒と専門卒なので、攻め受けは会社の同期だけど、攻めのほうが年上。
仕事でへこむ受けを励ましてくれる(ごはんも作ってくれる)攻め。受けも攻めの窮地を助けてあげたり。手に手を取って支え合うカップル。もしかしたら、ここぞというときの肝の座りかたは受けのほうが男前かも。
この攻めは、自分から告白するし、手順もまあまあちゃんと踏むので反省してほしい攻めランキングの番外編と言ってもいいかもしれない。ディアプラスっぽいお仕事絡みの恋愛ストーリーです。付き合ってから受けのお家(兼業農家)へ田植えに行く話もいい。


7位「エターナル・サマーレイン」(イラスト:Ciel/心交社ショコラ文庫)

ハイスペック執着年上攻め×健気受け

これは反省してほしい攻めではなく執着ストーカー攻めです。ということでランキングは低め。2021年2月時点でひのもとうみ先生最新作です。
とあるやんごとなきご身分(攻め国の国王の隠し子)の受けを守るために、恋人になった夏以降一切の連絡が取れなくなった攻め。受けは彼を忘れようとして、でも何人の男と付き合おうとも攻めを忘れられないんですが、攻めは部下を派遣して受けを見守っている(最大限優しい言い方)という。
社会人の受けを強引に攻め国へさらって、休職させるとか、ほぼ監禁状態にするとか、なかなかの行動もする攻め。とはいえ、両視点で話が進むため、攻めの受けに対する執着愛が読者には見えるのもあって、まあ許してやらんこともないと思えてくる。
身体を壊した受け祖母のため、受けが攻めの国に行けなくなってしまった……と思いきや、力技で攻めのほうが日本に来るのでハッピーエンドです。これからの蜜月は約束されている。


6位「ソネット」(イラスト:金ひかる/心交社ショコラ文庫)

飄々としたゼミの先輩年上攻め×詩人の卵の受け

わりと早い段階でふたりはくっつくのですが、そこからの受けの身の持ち崩しかたが凄い。強気受けかと思われた序盤から一気に崩れる。才能があると思われていた詩にも身が入らず書けなくなるし、攻めとの恋に自分の全て、人生までも捧げようとしてしまう。
この描写が本当に心に刺さるというか、恋を才能を伸ばすことに昇華できないこともそりゃあるよねと。いやでもここの流れが本当に凄い。読んでほしい。
攻めは言葉が足りないので、その受けの才能のため自分から距離を取るも、それがまた受けに追い討ちをかけるだけのことになる。
この攻めは追いかけるというよりも迎えにくる攻め。けれど、言葉が足りないので(二回目)すぐ受けの心身を壊しかける。世間知らずの純情健気受けなのはわかっているのだから、以後大事にしてほしい。
最終的にはふたりで渡仏することになるんですが、そこからが本当の恋愛関係になるんだろうなと思うので、番外編がもっと読みたい作品でした。攻めの嫉妬が見たい!電子だと最後のSSでその攻め嫉妬の片鱗が見れるので最高です。電子で買ったほうがいい。


5位「嘘とホープ」(イラスト:御景椿/心交社ショコラ文庫)

才能はあるが無愛想な設計士攻め×努力で社交性を身につけた元赤面症の営業受け

高校の同級生なふたり。再会愛…といいつつ、攻めは一向に受けのことを思い出さない。受けは攻め彼女に迫ったと勘違いされて(攻めのことが好きだった)殴られてまでいるというのに!
この作品は当て馬がいい味を出していましてね。営業職にある受けのことを仕事で口説こうとする不届き者ではあるのですが、半分以上本気の様子も見れたので、攻めよりこっち……と思いきや、最後の一手がずるくてですね。仕事を盾にして実力行使せんとするんですよ。そんな受けのピンチに駆けつける攻め。まだ付き合っていない、なんなら告白もしていないのに、すごい彼氏面して受けを連れ去る。
無事ふたりは気持ちを確かめ合って、ハッピーエンドを迎えるのですが、そのあとのふたりの様子もちらりと読めて。当て馬と攻めのやりとりが大変よいです。


4位「青くて、甘い」(イラスト:金ひかる/心交社ショコラ文庫)

軟派な人誑し美容師年上攻め×人付き合いが苦手な真面目大学生受け

二股していた攻めの愁嘆場に巻き込まれた受けが利き手を怪我し、お詫びに夕飯を共にする仲になるところから始まるふたり。
序盤から薄々攻めは受けが特別なんだろうなと読者は思うものの、攻め自身は自分の気持ちに鈍感。ずるい優しさや無意識の嫉妬で受けを振り回す。
対する受けは結構しっかりしてて、攻めのその優しさとかにもう振り回されるのは嫌だからと告白して(フラれる)家も引っ越す。失恋の痛みは自分で癒そうとする。
それなのに攻めは追いかけてきて「上手くいくかは自信ないけど、付き合ってみないとわからないと思うから…」と受けに告白(しかも酒に頼って)のち、土下座告白もかまして、最終的にはヘタレ攻めになります。
受けは自分のものだと勘違いしていて余裕綽々だった攻めが受けに愛を乞う様、健康にすごくいいのでおすすめです(個人の感想です)


3位「kiss you,kiss me」(イラスト:yoco/心交社ショコラ文庫)

執着攻め×薄幸健気受け

ひのもとうみ作品で今のところ一番好きなのはこの作品。表紙のデザインも好き。よく見ると受けの瞳に攻めが映っているんですよね。おしゃれすぎる。
エスカレーター式の学校に編入してきたけれど、周囲から浮いていた受けを気にかける攻め(リーダーシップ的な意味合いで)
そんな攻めと受けが描いていた趣味の絵をきっかけに距離は縮まり、受けは彼を好きになっていくんですが、受けが攻めのこと(恋)を相談していた部活の先輩に攻めが嫉妬し、暴走(レ)してしまう。それ以来ふたりの関係は壊れ、そのまま受けは学校もやめて攻めの前から姿を消してしまう。
そして社会人になったある日、会社に名字は違うけれど絶対受けだ!という人物を攻めは見かけて…という再会愛。ここから攻めはグイグイ受けに迫っていく。
一方の受けは亡き父親の借金返済のために身体を売っていたり、不幸のどん底で。おまけにそのことを攻めにバレてしまって発作的に自殺未遂までする。受けが身売りするようになったのは、嫉妬強姦事件のときに言い放った「淫乱」って言葉なんだから攻めは重罪である。
攻めは受けの自殺未遂をきっかけに甲斐甲斐しく世話をしてみたり、受けの債務整理したりと、好き半分贖罪半分くらいの日々。溺愛要素が後半はぐっと高まる。
私は受けが剃刀で自殺未遂したからって、連れ出した別荘で刃物をすべて隠す攻めに萌えました。
受けも最初は攻めのことが信じられないし、頼れないし…という感じなのですが、最終的には攻めの求愛に頷いて同棲ハッピーエンド。受けは本当に幸せになってくれ…。
前半、若さゆえの傲慢さに大幅減点で、この順位になりましたが、わりと一途な攻めではあると思います。将来はスパダリにもなれる。期待しているぞ。


2位「遠くにいる人」「隣にいる人」(イラスト:松尾マアタ/心交社ショコラ文庫)

※「隣にいる人」は続編なのでまとめます。
社交的で人当たりのよい年上攻め×男運の悪い健気受け

第一印象はこの攻めが最悪でした。受け幼馴染(男)が美形なんですが、彼を口説こうしてその道具として受けに優しくしてる攻め。受けが自分に好意を持っていると知ってもなお、利用し続ける。
受けのことが受け幼馴染を口説き落とすのに邪魔だと思っていたはずが、気づけば受け幼馴染に嫉妬していた攻め。
自分のことを好きだったはずの受けが自分を受け入れないと知って、それを責める傲慢さや口づけで黙らせようとする強引さもありつつ、どうして?受けは自分が好きだったのだから、自分の好意を喜ぶんじゃないのか?と戸惑う様は最高です。
「ごめんね」から始まり、信じてほしいと訴える攻めなので、この先は受けを大事にしてくれるでしょう。
続編では受けのネガティヴさというか、「自分はきっとこの先もずっと攻めが好きだけど、攻めが自分のことを好きではなくなったら身を引くから言ってくださいね」と言ってくる受けに頭を抱える攻めが見られます。受けに信じられていない攻めが頭を抱えるっていうのも、追いかける攻め亜種として好物です。なので、続編とあわせてどうぞ。

ちなみに当て馬ポジションに受け幼馴染はいるんですが、攻めのことが微塵も恋愛感情で好きではないし、はっきり断り続けているし、なんなら受けのことが好きなんですよね。保護者ぶっているというか、庇護欲そそられている感じで。
攻めとの付き合いも受け幼馴染のほうが長いので、攻めに惹かれていってしまう受けに複雑そうな顔をする。そんな話が電子版「遠くにいる人」にあるので、ぜひ読んでほしい。
続編「隣にいる人」では彼にも恋の予感があります。


1位「それが愛だとするならば」(イラスト:小椋ムク/心交社ショコラ文庫)

彼女持ち社交性のある年上攻め×一途な健気受け

満場一致でした(私しかいないけど)
優柔不断で、ずるい優しさで受けを手放さない攻め。今作はさらりと出てくる当て馬が、人間としてもできたいい人だったので、受けは乗り換えたほうがいいと心底思った。でも受けの抱く、攻めへの痛いくらいの恋心が見えるから、恋ってどうしようもないね…と同情してしまう。ままならないね。
攻めの家に転がり込んできた受けは新妻よろしく甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。朝ごはんも夜ごはんも。これぞ献身。攻めには彼女(打算で付き合っていて、婚約間近)がいるのに。
受けは微塵も彼女から攻めを奪おうとは思っておらず、このまま攻めを好きでいることだけは許してほしいと思っているメンタリティ。攻めもそれに気づいていて、でも引導をなかなか渡さない。ずるい。
よくよく考えると、ずっと攻めに執着し続けていた受けの粘り勝ちのような気もするけれど、それにしたって攻めのあぐらのかきっぷりは酷い。
その後天罰のように、仕事は当て馬に負け、事故った上に彼女との婚約も破談になったとき、ようやく受けへの気持ちを自覚するんですね。本当に長い道のりだったよ。
最後まで攻めはずるい気がするのだけど、一度頭を丸めるような心持でこれから先は受けと真摯に向き合ってくれることを願う。そんなハッピーエンドでした。


ランキング上位ほど、攻めは受けを追いかけなきゃいけないくらいの所業をかましてるんですが、その恋愛のままならさがおもしろくて、楽しく読めてしまうんですよね。そもそもの文章や物語が読みやすくていいのもあると思う。
いわゆる攻めザマァが好きな人には読んでもらいたい!ひのもとうみ作品、おすすめです。

機会があったらぜひ読んで私とお喋りしてください🐰


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