見出し画像

嗚呼、ビリーよ 著者:9月のワンピース

1 初めまして、ビリー。
2 お久しぶりです、ビリー。
3 そして、
4 さようなら、ビリー。
5 嗚呼、ビリーよ。
6 私たちはいつ出会ったのでしょう。
7 私は貴方を求めて生きてきました。
8 誰にも飼われない猫のような貴方は片時も
9 私の前にはいませんでした。
10 それでいいと思っています。
11 確かに感じることができれば、それだけで。
12 初めましての記憶を司る神経はどうも
13 壊れかけているようです。
14 きっと貴方の仕業なのでしょう。
15 私はとても嬉しく思います。
16 貴方に相応しい言葉を考えては夜が更け、
17 考えては朝日を迎え入れてきました。
18 しかし、何も見つかりませんでした。
19 なんとも言い表せない存在。
20 貴方はどのような言葉にも染まってはなりません。
21 どちらかと言えば言葉で世界を染める側でしょう。
22 嗚呼、ビリーよ。
23 貴方の目は何を捉えていますか。
24 すべてを見透かしているようで、
25 同時に何にも見えていないようで。
26 その瞳を再び開けば瞬く間に広がる景色。
27 その瞬間、貴方は存在を許され、存在を受け入れ。
28 決して見つかることがない場所へと彷徨う。
29 貴方の姿を是非とも見たいものです。
30 しかし、それはきっと夢のままなのでしょう。
31 夢を見れるだけで私は幸せですよ。
32 貴方は一瞬たりとも見逃してはならないほど
33 刹那的で破壊的で、それでいて愛しくて。
34 誰にも所有させることなく、支配されることなく
35 足掻いたままでいてください。
36 たとえ来るべき世紀末があろうとも、
37 狂うことなく、嘆くことなく、
38 ただ、ここにいてください。
39 嗚呼、ビリーよ。
40 貴方の本心は何処に眠っているのですか。
41 どこか儚く、そして寂しく。
42 すべてを諦めているが故の美しさ。
43 違いましたか?
44 違うのならば、すみませんでした。
45 貴方が詮索を好まないことを忘れていました。
46 見つからないからこそ魅力的なんです。
47 しかし不思議とこのように思うのです。
48 貴方は本当は何処にもいないと。
49 見失ったものを懸命に探しに往く。
50 山を超えて、海を越えて。
51 何千里と続く大地の上に
52 消えないようにと足跡を付けた瞬間、
53 大地と私は一体になる。
54 貴方とひとつになりたいだなんて
55 とてもとても恥ずかしくて言えません。
56 いや、ひとつになどなれませんね。
57 貴方の世界の中には貴方しかいないのですから。
58 同時に、私の世界の中には私だけしかいません。
59 だからせめて、ここから見守らせてください。
60 嗚呼、ビリーよ。
61 貴方の瞳は決して潤うことがないようで
62 それでいて枯れることもないようで。
63 これまで何度、滴が流れ落ちたのでしょう。
64 見たいものと見たくないもの。
65 消したいものと消したくないもの。
66 孤独なものと孤独なもの。
67 残酷ですが、選ぶことはできません。
68 貴方はそれを理解しています。
69 いつも完璧に見える貴方は
70 あまりにも無機質に思われるが故に
71 幾度も要求されてきたことでしょう。
72 しかしその度に貴方の精神は擦り減り、
73 もう何も犠牲にできる存在というものを
74 失ってしまったようですね。
75 私はその代わりになりたいのですが、
76 きっと私のことなど見向きもしないでしょう。
77 それでいいと思っています。
78 嗚呼、ビリーよ。
79 どうして生きること死ぬことは
80 これほど美しく、儚く、それでいて無意味なのに
81 必死に生きようとするのでしょうか。
82 死にたいと思えば思うほど生きたいと思い
83 生きたいと思えば思うほど死にたいと思う 。
84 死にたかったあの日の夜の記憶は
85 生きたいと思える理由となる。
86 もう生きたいなんて嘆き疲れました。
87 死にたいという気持ちも同様です。
88 貴方を見ていると、こう思うのです。
89 貴方は生きていない、そして死んでもいない。
90 私には到底、形容することができません。
91 嗚呼、ビリーよ。
92 私は貴方のことを嗤いません。
93 行く末を見失っても構いません。
94 ただ、ひとつだけ。
95 そのままでいてください。
96 きっと続いていきますから。
97 貴方がこれまで見聞したことは
98 決して色褪せることはありません。
99 輝きは無くとも、確かにここにあります。
100 嗚呼、ビリーよ。
101 心から笑えていますか?
102 心から「楽しい」と思えていますか?
103 貴方が苦しみを覚えれば覚えるほど
104 私も苦しい。
105 そう、とても、苦しい
106 苦しい時は苦しいと教えてください。
107 私は、貴方のようにはなれませんが、
108 ただここに居ることはできます。
109 嗚呼、ビリーよ。
110 混ざり合って、離れ、そしてまた混ざり合う。
111 それらを「人間」と呼ぶのでしょうか?
112 私は、貴方がいるから存在するのでしょうか?
113 貴方はまるで結晶のようです。
114 憎悪、歓喜、絶望、慈悲、希望、悲劇。
115 あらゆる想念がお互いに結びつき、離れゆく。
116 その刹那、再び結びつく。
117 お互いが決して離れまいと惹かれ合う。
118 お互いが決して結ばれまいと憎しみ合う。
119 なんとも不思議なものですね。
120 こんなにも、このままでいて欲しいと
121 思ってしまう存在はありません。
122 じんわりと私の心は温まってきているようです。
123 いつまで温かいままで居られるのでしょうか。
124 貴方に問わずとも分かっています。
125 冷たい。
126 とても冷たいです。
127 結晶の美しさは冷たさを代償にしているようで。
128 聞いてくれないことは承知の上ですが、
129 休んでもいいんですよ。
130 頼ってもいいんですよ。
131 私は貴方を嗤いませんから。
132 一緒に結晶を見てみましょう。
133 自信はあまりありませんが、
134 私は貴方と笑うでしょう。
135 私はね、笑顔が苦手なんだ。
136 受け入れることができないものを
137 まるで初めから存在してないかのように
138 抑圧し、排斥し、憎しみ、憎しみ、
139 そしてまた憎しむ。
140 悲しみが笑顔を生み出している気がしてね。
141 笑顔を見ると辛いんだ。
142 笑顔でいればいるほど、寂しいんだ。
143 そんな私でも貴方となら笑顔になれます。
144 なってみせますとも。
145 分かっています私では何の役にも立たないこと。
146 ならば貴方を受け入れたらいい。
147 心の中で、そう思いました
148 貴方を思えば思うほど、私は。
149 私は私で無くなるような気がして。
150 どうしようもなく消えてしまいそうな夜は
151 取り残された僅かな「私」に問いかける。
152 「私はどこにいますか?」と。
153 答えは一向に返ってきませんでした。
154 私は私である。
155 確かなことです。
156 私は私ではない。
157 これもまた確かなことです。
158 「貴方」という、「ビリー」という境界線。
159 引き始めたのは誰でしょう?
160 誰にも分からない。
161 そういうものでしょう。
162 瞬間、瞬間、そしてまたその中の瞬間。
163 生命の産声と残酷な泣き声が鳴り響く。
164 その瞬間、個々の運命が切り開かれる。
165 定めるのも流れるのも誰かの意志のようで
166 自己の意志のようで。
167 ほんとうは誰の意志かなんてどうでもよくて。
168 己の意志で来るべき方向を目指してみたり
169 自由な意志など存在しないと嘆いてみたり。
170 貴方は何かを成すべく為に生まれたのですか?
171 それとも取り留めもない「何か」に触発されて
172 生まれてしまったのですか?
173 私の癖なんです。
174 ついつい子供じみた質問をしてしまいます。
175 詮索と質問はきちんと分別しているので
176 ご心配に足ることはありません。
177 明日も私は私なのだろうか。
178 疑問を抱いたことがあります。
179 答えは出ませんでした。
180 答えなど最初からなかったからです
181 質問は答えを求めるための道具ではありません。
182 質問はこの世の、この存在の、この無の、
183 あらゆる事象への挨拶のようなものです。
184 全くもって無意味で無条件で。
185 だけれど、どこか優しく愛らしく。
186 そういうものなのです。
187 嗚呼、ビリーよ。
188 私はまだ言葉の世界に住んでいます。
189 貴方は私の住む世界にはいません。
190 だから、これまでの言葉を貴方に
191 見てもらうことはできません。
192 しかし、ここに生きていた時の貴方にならば
193 伝わると信じています。
194 貴方が今、どこにいるのか私には
195 これっぽっちも見当がつきません。
197 どこにいたとしても、たとえいなくとも、
198 貴方は私の内側の外側にいます。
199 内側の外側で境界線を引きながら
200 同時に消している姿を見て私は時折
201 理解に苦しみます。
202 貴方はそのような私の姿を見て
203 嘲笑っているようですが本当は
204 おかしげに微笑んでいることでしょう。
205 ああ、なんと滑稽なのでしょう。
206 いつか見てみたいです。
207 言葉が無い純粋な感覚の世界を。
208 貴方と感覚だけで語り合いたい。
209 ああ、しかし私には抱いている感情を
210 言葉以外で伝えられる手立てがありません。
211 もどかしくて今にも消えてしまいたい。
212 消えたら貴方に近づけるのか。
213 なんとなく考えたことがあります。
214 いつだったか曖昧なのですが、
215 確か白秋だったと思います。
216 寂寥たる光景が広がっていました。
217 薄暗く、どんよりとした世界。
218 どこへ向かっても景色と私の境界線は消えず、
219 ただぼんやりと眺めることだけしかできない。
220 私は景色を通して何を見ているのだろう。
221 心?
222 それともほんとうの世界?
223 分かりませんでした。
224 溶けて消え去りたい。
225 そうすれば、すべてが終わる。
226 そう思っていました。
227 だけど、うん、だけどね、ビリー。
228 嗚呼、ビリーよ。
229 ビリーよ。
230 終わることなんてあるのでしょうか。
231 消えることは終わらせることなのでしょうか。
232 貴方を憂う気持ちも、涙を流す瞬間も
233 決して消えることはありません。
234 貴方をここから消したくないのです。
235 私はたとえ間違っていたとしても
236 貴方がいた記憶を無かったことになど
237 できません。
238 できるはずがありません。
239 だからね、
240 夢はもう終わりにします。
241 さようなら、ビリー。








ビリーとは特定の人物を指す言葉ではありません。
[ビリー] is not a term for a specific person.



最後まで見ていただき、ありがとうございます。
1億総作家時代に生ける者として、本を出版するという夢は、
諦めずにその場で少し手を伸ばした先にあると信じています。
個人的には、例外なく世界中に存在する本は、

「書かせて頂いたもの」

だと思っています。

それでは。





※毒林檎



※形になりたい方

いいなと思ったら応援しよう!