焼肉屋バイト⑤
6時に予約が入った後、立て続けに予約電話が鳴り、結果的には10名以上のお客さんが2組、2名が2組と、閑古鳥だったお店も8時の段階では盛況な賑わいになった。
次から次へと、スマホを通してオーダーが入り、飲み物や量ったご飯をどんどんお客さんの所へ運ぶ。
1番広い小上がりは韓国人の団体さん。
飲み物、食べ物どちらもオーダーがひっきりなしに入る。
1度違う卓番のものを持って行ってしまい、
「あれ?こんなん頼んだかな?」
と、酔いが回ったオジサンが周りに聞いているうち、こちらで間違いと分かり、
「失礼しましたー」
と、慌てて取り返した場面もあった。
ヤバイヤバイ。
タイミーペナルティ付くし、あの店長に怒られたら目も当てられないし。
セーフセーフ(^.^;
もう一組の団体さんは、小ちゃいお子様が何人もいて、小上がりの半分は子どもの遊び場になっていた。
それでも、親御さん同士で楽しく肉焼いて、お酒呑んで、楽しそうやった。
やっぱ焼肉は、人を幸せにさせるなー\(^o^)/
***
宴もたけなわになると、オーダーも入らなくなり、ちょいヒマになった。
空いたテーブル片付けようか?と、バイトの兄ちゃんに相談すると、
「さっき、店長がそのままにしとけって言ってたし、まんまで良いんじゃないっスか?」
そうやった。
また、いらんことして、文句言われんのもイラつくからな。
このまんましとこ。
まだお客さんがいる所から空いたグラスやら食器やらをひたすら下げていると、店長がやって来て、空いた部屋の配膳指導を始めた。
テーブルの空いたグラスに、箸やトングを入れる。
おしぼり、ゴミを所定の袋に入れる。
同じ食器で重ねる。
そして一気に、部屋前に着けたワゴンに乗せて行く。
それから、空いたテーブルに消毒スプレーをたっぷりかけて、紙ダスターでしっかり拭き上げる。
驚いたのは、メニューの置く向きや、カスター(調味料)の配置がキッチリ決まっていること。
長年やってると、拘りが譲れんようになるんやな、きっと。
***
片付けもはかどって来た頃、最後の団体さんの飲み放題が終わり、ボチボチ帰る様子になった。
大人子供合わせて15名位やろか、ドヤドヤと靴を履いて出て行く。
その様子を見た店長が、心なしか足取り軽やかにレジに急ぐ。
バイト陣は、さぁー片付けや!とばかりに、ドタドタ部屋に上がり、シャカシャカ手際良く連携プレイで綺麗にしていく。
「ありがとうございましたー」と見送りの声が聞こえたと思ったら、
店長が何やら言いたげな素振りで戻って来た。
「5万〇〇〇円だよ〜、スゴイよね!」
と、満面の笑みでワタシ達に話しかけてきた。
(15人位で50.000円なら、ひとり3.000円ちょっと。まぁ、普通だよね?)
と、片付けの手を休めることなく兄ちゃんと話す。
まぁ、ウチらが来て2時間はお客いなかったし、良かった良かったって事で!!
***
最後の小上がりも綺麗に片付いた頃、店長が、
「まかない、食べて行く?持って行っても良いよ。」
『あ、そうやった。そんなの付いてたっけ。へー、作ってくれるんや。』
と、ただ驚いてたら、
「食べます。」と、兄ちゃん。
続くこと、
「あ、ワタシも。」
御膳に、ごはん、味噌汁、おかずが乗せられた、焼肉定食のようなものだった。
兄ちゃんのご飯が、丼ぶりにてんこもりで盛られていて、
「若いなー流石やなー」
思わず口に出た。
「留学前のええ思い出やね」
2週間後にオーストラリアへ向かう彼に言った。
同じお肉でも、海外の味付けはきっと違うんやろなと、心の中で思った。
普段食べる事のない、夜の10:00を過ぎての夜食。
クセのある店長が作ってくれたまかないは、意外にも美味かった。