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論文紹介: Antipsychotic drug_induced neutropenia : results from the AMSP drug surveillance program between 1993 and 2016

 この論文では、精神科入院患者における抗精神病薬とNeutropeniaとAgranulocytosis(N&A)と関連している症例を解析している。

原文は下記です。

 使用しているデータは、1993-2016のドイツのファーマコビジランスプログラムで観察されたもの。患者は、統合失調症や他の理由で、抗精神病薬を投与された333175名。結果として、抗精神病薬による好中球減少症または無顆粒球症は124ケース観察された。このうち48名は無顆粒球症であった。発生率は、好中球減少症は0.37/1000person、無顆粒球症は0.14/1000person。無顆粒球症では、性別に違いは見られなかったが、好中球減少症では、女性で多くみられた。薬剤毎の比較では、クロザピンは最もハイリスクであり、次にペラジン(日本は未承認)、そしてクエチアピンであった。好中球減少と無顆粒球症は、治療開始3か月の期間で、最も多くみられたと報告されている。

目的)この論文では、精神科入院患者における抗精神病薬とNeutropeniaとAgranulocytosis(N&A)と関連している症例を解析している。

対象)1993-2016のファーマコビジランスプログラムで観察された、ドイツ、オーストラリアとスイスの精神科入院患者。このプログラムは、精神科における抗精神病薬によるAdverse Drug induced Reactions(ADR)を評価することを目的としている。データコレクトについて、医療者がモニターしていた事象を報告し、その後専門家が評価。参加施設における薬物使用に関するデータは、年に2回の基準日に評価され、全ての精神科入院患者について、demographicとdiagnosticのデータとともに、全ての投与された薬物とその用量が記録されている。ADRについて、Neutropeniaは、absolute neutrophil count(ANC) <1.5*10^9 cells/L、Agranulocytosisは、ANC <0.5*10^9 cells/Lと定義されている。polypharmacyについて、薬力学的相互作用がADRの原因と考えられる場合、推定される薬剤は、既存の事実に従い、下記のように評価されている。

Grade1: possible(ADRかどうかは不明)
Grade2: probable(該当薬のADRは既知であり、投与期間、投与量も過去の報告と相違なし)
Grade3: define(過去に経験しているGrade2のADR)
Grade4: 記録が不十分

 APD-induced N&Aの発生率について、number of APD-induced N&A/number of Exposed  to a given drugで算出されている。

結果)
 抗精神病薬を投与された333175名について、抗精神病薬によるN&Aは124ケース観察され、うち48ケースは無顆粒球症で、このうちの41ケースはクロザピンを服用しており、35ケースはクロザピンのみが原因であると推定されたと記載されている。他に、プロチペンジル(日本未承認)、クエチアピンとアリピプラゾールは単独で無顆粒球症の原因であると推定されており、オランザピンとレボメプロマジンは、他薬剤との併用で無顆粒球症を誘発した可能性があると記載されている。

 Table1では、N&Aについて、男性では41ケース(33%)、発生率0.27/1000personに対して、女性は83ケース(67%)、発生率0.46/1000personであったことから、性別に差がみられたが、Agranulocytosisにおける性別で差はみられなかったと記載されている。
→他でも、似たような結果が報告されている。

 年齢による差はみられなかったと記載されている。
→他では、年齢とともに発生率が増加する報告がある。クロザピンによるN&Aとagranulocytosisは、高齢者と女性でリスクが高いという報告もある。

 疾患について、統合失調症、統合失調症型障害、妄想性障害、躁病と診断されたAPD治療群で、N&Aが多くみられた。
→他薬に耐性がある統合失調症のみにクロザピンは適応があり、クロザピンによるN&Aが最もリスクが高いため、このような結果になったと考察している。

 Table2では、124件のN&Aについて、14の抗精神病薬が関与しており、うち101ケース(81.5%)において、単一の抗精神病薬が原因であると推定されている。そして、単剤での治療は22ケース(17.7%)のみであった。単剤治療の22ケースの内わけは、14ケースはクロザピン、3ケースはperazine(日本未承認)、2ケースはクエチアピン、そしてハロペリドール、オランザピンとアリピプラゾールは各1ケース。
 一方、23ケースでは、複数の薬剤の組み合わせがN&Aに寄与した可能性が高いと推定され、ほとんどは、2剤併用であったと記載されている。
 抗精神病薬以外では、カルバマゼピン2ケース、メトロニダゾール1ケース、セフトリアキソン1ケース、グリクラジド1ケース、シクロホスファミド1ケースが原因として推定されている。
 N&Aが観察されたのは、第二世代抗精神病薬がほとんどだった(91ケース/226161人)。一方、第一世代抗精神病薬では、フェノチアジンがほとんだった(10ケース/69793人)と記載されている。

 Fig2では、N&Aの発生率について、最も発生率が高いのは、クロザピン投与患者1549567人のうち67ケースがN&Aが観察され、そのうち60ケースは、クロザピン単剤での治療であった。クエチアピンは66209人のうち15ケースで、オランザピンは54822人のうち7ケースだったと記載されている。

 Table3では、投与開始からAPD-induced N&A発症までの中央値は29日、Agranulocytosisは49日。クエチアピンは、最も早く、治療開始から2日で発症した例もあり、治療開始2週間以内で発症することが多く、他の薬よりも早い時期に発症が見られた記載されている。最も長く続いたN&Aでは、クロザピンで20年後もみられていたと記載されている。

 Table4では、クロザピンの投与量について、 N&A群、agranulocytosis群と全患者を比較して、差はなかったと記載されている。
クロザピンについて、50mg/日と75mg/日で各2ケース発生しており、100mg/日でも3ケース発生している。ペラジンとクエチアピンについて、投与量の中央値は、全患者よりもN&A群で高かった。投与量は、観察期間のみであり、投与開始時の投与量はわからないと記載されている。
→一般的に、抗精神病薬によるN&Aは、いくつかの例を除き(クエチアピン、リスペリドンとペラジン)、用量に関連していないと考察されており、
これは、免疫学的な機序のみでなく、蓄積によって悪化した毒性によるものであると解釈すると記載されている。一方で、クロザピンでは、低用量でもN&Aは生じていることからも、主な機序は免疫学的な機序と考えられると記載されている。



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