『戦争をなくすための平和学』を読む その1
『戦争をなくすための平和学』法律文化社 寺島俊穂 2015年
本書を選んだ理由
本書の特徴は何よりも「戦争をなくすこと」を扱っていることだ。
「戦争と平和」という対比があるわけだし、平和に関する学問なのだから戦争を扱うことは当然なのではないかと思うだろうが、平和学においては、平和の対比は暴力だったりする。
この暴力という概念には戦争だけでなく、差別や貧困の問題、すなわち構造的暴力も含まれている。
なるほど、差別や貧困が解消されていない社会は平和な社会とはとても言えないとは何となくでも実感できるのではないか。
だからこそあえて「戦争をなくすこと」に焦点を当てることが特徴になったりもするのだ。
「戦争をなくすことを」問う意義
平和学において、戦争よりも暴力が重視され、暴力の克服として平和が捉えなおされてきた。
それにもかかわらず、本書が「戦争をなくすこと」に焦点を当てるのは、戦争こそが最大の暴力であり、戦争の克服を科学的に考究することから平和学が始まり、「戦争のない世界」の実現の支柱となる理論構築が平和学の最大の課題だからである。
先にも述べたように、暴力からではなく、戦争を出発点におくことは、平和学を整理して学ぶ上で重要であると思われる。
というのは、暴力を問おうとすることで、平和学の扱う範囲が著しく広くなってしまったという問題点があるためである。
もっとも、戦争への道を語るうえでも暴力に関する視点が不要であることを意味しない。
例えば、経済的徴兵制などは構造的暴力を利用した軍への囲い込みという本質がある。
非暴力への着目
本書では、一つには、非暴力に注目するだけでなく、非暴力の立場から戦争をなくすための理論構築を行なっていきたい。もう一つには、相互理解や民際交流という、誰でもできる活動形態が市民レベルでの平和構築につながるという視点を明らかにしていきたい。
本書は、非暴力を積極的原理として捉え、その潜在的可能性に注目し、平和学の新しい地平を切り拓いていくことをねらいとしている。
そして、戦争をなくすということに対して非暴力という点からアプローチしようというのもポイントである。
非暴力は今や政治変革を考える上で重要な概念であり、行為である。
非暴力でもって平和構築を推進することは憲法第9条の実現にとっても重要であると思われる。
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