見出し画像

コラムVol.2 「速度記号の罠②」トルコ行進曲の”Allegrino”って何?

おはようございます。「Hikaruのピアノ大学」学長のHikaruです。今日は前回に引き続き、速度記号をテーマに解説していきたいと思います。

前回の記事で、ピアノのモーツァルトのトルコ行進曲の楽譜を紹介しました。そこに”Allegrino”(アレグリーノ)と書いてあって「これは何?」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?

Allegrino、私も実はまだトルコ行進曲でしかお目にかかったことがありません。そして手持ちの楽典の本を開いてもどこにも説明がありません。今回はそんな”謎っ子”Allegrinoについて解き明かしていこうと思います。

”~ino”の意味

突然ですが、Allegrinoの語尾の「~ino」にはイタリア語で、ある意味があります。何という意味でしょうか?

正解は「かわいらしい、小さな、〜ちゃん」という意味です。
日本語でいうところの「っ子、〜小僧、っち」みたいなところでしょうか。

もう少し身近な例をあげましょう。パスタのペペロンチーノ(peperoncino)ってありますね。日本ではパスタのイメージが強いですが、イタリアでは「唐辛子」や「辛くて刺激のあるもの」という意味だそうです。もともとイタリアでは、ピーマンやパプリカのことをペパロニ(Peperoni)と呼んでいました。唐辛子って見た目ではピーマンやパプリカの小さいもののように見えます。赤ピーマンや赤いパプリカならなおさらですね。よく考えてみると日本語でもしっかり唐辛と呼ばれていますね。

画像1

例をもう1つ、私はスポーツが好きでよくサッカーを観戦するのですが、一昔前の大スターでブラジル代表のロナウジーニョ(Ronaldinho)という選手がいました。彼の本名は「ロナウド・デ・アシス・モレイラ」という名前だったのですが、当時のブラジル代表にはもう1人偉大なロナウド(Ronald)という選手がいました。ブラジルに2人ロナウドというスーパースターがいたので、細くて小さい方のロナウドを人々は愛称の意味も込めてロナウジーニョと呼ぶようになりました。

”Allegrino”の意味①

この流れでアレグリーノの意味について考えてみましょう。もともとはAllegro(アレグロ)という速度記号が元になっています。Allegroに~inoをつけてAllegrinoです。でもよく考えてみると「Allegroをちっちゃく、かわいくしたもの」って意味がわかりませんよね。速度に大きさもかわいさもありませんから。

少し前、ある楽譜にはAllegrinoではなく、より一般的に馴染みのある”Allegretto”(アレグレット)と印刷されていました。速度でいうと一般的にはAllegroより少し遅く演奏されます。この楽譜では~ino「小さく」=「遅く」と解釈したのでしょう。そういえば子どもって大人に比べて歩く速度が遅いですよねトルコ行進曲は行進する曲ですから、Allegrino=子どもの行進、つまり大人のAllegroの行進より少し遅い、Allegrettoの速度でということなのでしょう。たいへん興味深い発想だなと思ったものですが、その楽譜は現在では元の(モーツァルトが書き記した)Allegrinoの表記に戻っています。ですが、Allegrerettoと表記されている楽譜は他にもありそうです。読者の皆さんのお持ちの楽譜には何と印刷されていますか?

画像2

(初版譜。モーツァルトの書いた通り”Allegrino”の表記。)

画像3

(”Allegretto”表記の楽譜。)

モーツァルトとベートーヴェンの『トルコ行進曲』から速度記号について考えるという流れは2020年5月に開催されたPTNA主宰、赤松林太郎先生オンラインセミナーVol.1「行進する音楽」の内容を一部参考にさせていただいております。

”Allegrino”の意味②は次回に続く。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?