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プロのように演奏する!モーツァルト『トルコ行進曲』3つのコツ (Part 2/3)

(この記事はピアノ中〜上級者の読者を対象に書かれています。ピアノの先生にはあまり教わらないけど「プロならきっと知っている」「本当は人に教えたくない」ことだけを書いていきます。細かなテクニックの話などは抜きにしてお話を進めますのでご了承ください。)

目次

①「トルコの楽器」を知る! (Part 1/3)

②モーツァルト作曲「もう1つのトルコ行進曲」を知る!

③「協奏曲のように弾く」奏法を知る! (Part 3/3)

「Hikaruのピアノ大学」学長のHikaruです。Part1「トルコの楽器」を知るの内容はいかがでしたでしょうか?簡単に復習いたしますと、モーツァルトが作曲する前のヨーロッパやトルコの歴史を知り、トルコ軍が実際に使っていた楽器の音を頭の中で強く想像しながら弾きませんか?というお話でした。当時の歴史を振り返りながら演奏すると、まるで叙事詩のように聴こえてくることさえあります。

今回はPart2「もう1つのトルコ行進曲」を知る!です。多分ピアノをしている人でこの曲を知っている人は少ないのではないでしょうか?楽しみですね♫ 前回と同様ひと通り説明した後には、得た知識を「実際の演奏に落とし込む」ところまで解説していきます。それでは参りましょう。

②モーツァルト作曲「もう1つのトルコ行進曲」を知る!

みなさん、モーツァルトはもう1つ、トルコ行進曲を作曲していることはご存知でしょうか?「ベートーヴェンのトルコ行進曲なら知っているけどなー」「みんな知らないってことは大した曲じゃないんでしょ?」いえいえ!”ピアノの”トルコ行進曲に勝るとも劣らない名曲でございます。「ん?ピアノのってことはもう1つのトルコ行進曲はピアノ曲以外ってこと?」ご察しの通りです。その曲は、

ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」K.219

です!協奏曲とは主にソロの楽器とオーケストラが共演する作品のことを言います。この曲なんとモーツァルトが19歳の時に作曲したもの。恐ろしいぐらいの早熟ぶりですね。特に第3楽章の中間部が”トルコ風”と呼ばれる由縁であり、曲想はピアノのトルコ行進曲と瓜二つです。

(トルコ風の部分は23:50〜。)

素晴らしいヴァイオリンの演奏ですね。このヴァイオリン協奏曲はピアノのトルコ行進曲と同じく、イ長調(A dur)とイ短調(a moll)の調性です。トルコの華やかさと少し影のあるオリエンタルな雰囲気が感じられます。

ところで「いやいや、私ピアノが弾きたいんだけど?」「ヴァイオリンはいいからピアノのトルコ行進曲のコツを教えてほしい」という声がそろそろ聞こえてきそうです。ではお答えしましょう。この曲めちゃくちゃピアノのトルコ行進曲を弾く参考になるんです!

具体的な理由は3つあります。まず1つ目はトルコ行進曲以外のトルコ風の曲を知ることで、トルコの雰囲気をより掴めるようになるからです。例えばピカソの絵を1枚だけしか知らなかったら、これはピカソが子供の時に書いた落書きだと思ってしまうかもしれません。でもピカソの絵を2枚、3枚と知ることでピカソがわざと抽象的に描いているのだとわかります。ピカソの画風、特徴がなんとなく掴めてきます。これはトルコ行進曲にも当てはまります。モーツァルトやベートーヴェン、ハイドンなどのトルコ風の作品を知ることでより身近にトルコ風を感じることができるようになるでしょう。余談ですが、ピカソの若い頃の絵には、まるで写真かのように精密なタッチでスケッチされていたものがあり、とても驚いたのを覚えています。

2つ目の理由は、ヴァイオリンソロの弓遣いなどがピアノの右手のフレージングを考える時に役に立つからです。バッハやモーツァルト、ベートーヴェンなどの作曲家はソロの楽器を変えて同じ曲を編曲したりしていました。バッハのチェンバロ協奏曲はほとんどがヴァイオリン協奏曲かオーボエ協奏曲からの編曲ですし、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲も作曲者自身によってピアノ協奏曲に編曲されているのです。モーツァルトも例外ではなく、”トルコ風”ヴァイオリン協奏曲もピアノ協奏曲に編曲されていたかもしれません。ピアノの楽譜はヴァイオリンの楽譜ほどスラーなどの記号が書かれていません。フレージングで迷う時は迷わずヴァイオリンの弓遣いや管楽器の息継ぎを真似ましょう。

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3つ目の理由は、次回のPart3「協奏曲のように弾く」演奏法を知る!にも繋がることなのですが、ヴァイオリン協奏曲のオーケストラの音色をそのままピアノに写しとることができるからです。ピアノは1台でオーケストラを奏でると言われるほど音域の広く、音色も豊な楽器です。つまり「ここはチェロのような音で」「ここからクラリネットだな」と思いながら演奏することができるのです。ピアノのトルコ行進曲1曲しか知らなければ、ただピアノの音色だけで弾いてしまうかもしれません。それって少しもったいないですよね?トルコ行進曲でいうと特に左手の響きにオーケストラの音色を想像してみるといいかもしれません

長くなってしまいましたが、ヴァイオリン協奏曲を聴くべき理由を3つ述べました。この3つの切り口から実際の演奏にどう活かすのかを考えてみましょう

楽譜①

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楽譜②

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上の楽譜①はヴァイオリン協奏曲第5番の楽譜で、赤いラインがヴァイオリンのソロパートです。下の楽譜②のピアノパートと見比べてみるとなんだか似ていませんか?きっとこの小さな音符たちがトルコ軍楽隊の鈴などの鳴り物を表しているのでしょう。

楽譜③

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楽譜④

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次にフレージングを観察していきましょう。上の楽譜③はヴァイオリン協奏曲の第3楽章の中間部”トルコ風”の始まりの部分です。赤いラインが入っているヴァイオリンのソロパートの弓遣いに注目です。両足で歩く行進曲を表現するために1拍目と2拍目が少し強調されます(1小節間の8つの音符のうち、1-2、5-6番目の音をスラーでつなげる、3, 4, 7, 8番目の音をスタッカートで軽く弾くことで2拍子を強調)。下の楽譜④がピアノのトルコ行進曲の最後のcodaの部分ですが、同じフレージングが書かれています。ピアノでのフレージングがうまくいかない時は一度手を休めてヴァイオリンを弾くふりをしてみましょう。弓をクッと軽く引っ張ったり、こすり上げたりするイメージでスラーをつけましょう。

楽譜⑤

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楽譜⑥

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最後にオーケストラの音色を写しとりましょう。楽譜⑥はトルコ行進曲の1番華やかな部分で、ヴァイオリン協奏曲の楽譜⑤の部分に相当します。ピアノの楽譜⑥には特に強弱などの記号が書かれていませんがどのように弾くと良いでしょうか?今度は楽譜⑤のソロパートではなく下3段のヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスからなる弦楽隊に注目してください。楽譜⑥の赤い部分と見比べてみるととても似ていませんか?特にヴィオラ・チェロ・コントラバスの下2段を合体させますとちょうどピアノ譜の左手に一致します。ということはモーツァルトの頭の中では全く同じ音響をイメージしていたと捉えていいでしょう。しかもありがたいことに”f”や”p”の記号まで教えてくれています。チェロやコントラバスを想像しながら、1拍目や3拍目で弓で弦をブォン!と引っ張るイメージで弾いてみてください。

ここまでで十分なのですが最後にもう1つだけ。楽譜⑤の最下段、チェロ・コントラバスの楽譜の下に小さく書かれている「col arco cresc.」という言葉(赤線部)。col arcoは弓でそのまま弾くという意味ですが、特筆すべきはcresc. つまりクレッシェンド(だんだん大きく)という指示があること。どういうことかというと、まるで軍隊が遠くから迫力を増しながら近づいてくる、もしくはどんどん敵の数が増えて緊張感が増しているような表現になります。ピアニストでなかなかここまで表現する人は少ないのではないでしょうか?この表現を取り入れるかどうかは演奏者次第ですが、個性的かつ知性が感じられる演奏になることは間違いないでしょう。

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Part3へ続く。


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