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globe「Love again」からプロモーションを考える

 今回のお題は、1998年に発売されたglobeのアルバム「Love again」。当時、街を何気なく散策している最中に、ふと立ち寄った外資系CDショップで、globeの新譜が山積みに展開されていたのを見て驚いたものだ。

 90年代といえば、僕が一番熱心にヒットチャートをチェックしていた時代。楽曲自体はもちろん、TVやラジオ・雑誌やフリーペーパーに至るまで、それにまつわる情報も貪りまくっていた。たいていの主要なニュースは知っているつもりでいる。それが、店頭で初めて商品を目の当たりにして「えっ、globeの新譜って出てたの!?知らなかった〜」となったのだ。

 実物を手に取ってはいるものの、globeの新譜の発売日を知らなかったのが、自分でも腑に落ちないままだった。そのときの僕は不思議な面持ちでレジに向かっていたことだろう。

 後から分かったことだが、このアルバムに関しては事前の宣伝を一切しなかったらしい。どおりで知らなかったわけだ。それなのにミリオンセラーを売り上げたのである。売上枚数だけ見ると前作よりは落ちているものの、通常通りに告知がされていれば、まだ上積みがあったはず。プロモーションに費用がかかっていない分、黒字の額だけなら前作並みか、それ以上かも知れない。これも売れていないとできない立ち回りだ。globeの凄さを改めて思い知らされる。

 当時の音楽プロモーションと言えば、TVの音楽番組や雑誌の告知だ。さほど興味のないアーティストでも、好きなアーティストとたまたまリリース日程が近いという理由だけでリスナーの目に留まる。TV朝日のミュージックステーションであれば、同じ60分間という生放送の出演時間を共有しているし、雑誌だと誌面という形があるので、お目当ての記事を読み終わっても、せっかく買ったんだからという気持ちがはたらいて、余った時間でそれ以外のページにも自然と目がいく。

 ところがストリーミング主体の現代ではこうはいかない。いくらリリースのタイミングが重なろうと、興味のないアーティストの情報は入ってこないままだ。逆に、関心の強いアーティストや楽曲であれば、10年前の旧譜であろうと楽に辿り着ける。関心がありそうな楽曲の情報は自動的にオススメされる一方、そうではない情報からはどんどん疎遠になっていく。そこに現役バリバリでやっているか、何十年も前に新たな活動を展開するのを辞めてしまっているかは問題にならない。松原みきの突然のリバイバル・ヒットが思い起こされる。

 最近のDreams Come Trueの新曲の売れ行きが、チャート初登場20位だったというニュースを見て、時代の変遷を感じたものだ。商品の売り上げだけ見れば、それが20番目に人気を上げている事実は何ら恥ずべきことはないが、彼らにはこれまでの功績がある。アーティスト自身もファンもこの結果に納得してはいまい。

 僕は彼らに特別肩入れしてはいないが、ボーカル・吉田美和とベース・中村正人の2人組で、「LOVE LOVE LOVE」などのヒット曲を持っているという程度の知識ならスラスラと出てくるし、彼らのことを何も知らないわけではない。それでも彼らの新曲のリリースを知ったのは、チャートのランキングについて書かれたネガティブな内容の記事が最初だった。「Love again」のときのように、発売した後になってようやく、「え、新作出てたの?知らなかった」となったのだ。

 従来から熱心に活動を追ってくれているファンは別としても、そうではない層にどのようにリーチするべきかは、ベテラン・アーティストといえども看過できない課題だろう。かつてCDを買ったときについていたアンケートハガキに「この作品をどのようにして知りましたか」という質問があったが、その回答をリスナーからいかに回収するか、これが現代におけるプロモーション活動の鍵だろう。昔のままの感覚ではやっていけないと思う。

 「Love again」の発売当時の話から、音楽プロモーションについて相当語ってしまった。さて、そろそろ楽曲の鑑賞に入ることにしよう。globeのオリジナル版は簡単に見つかると思うので、すでにそちらをタップリ楽しんだファンの方に向けて、こちらではカバー作をピックアップする。歌い手と一緒に、愛の込もったパフォーマンスで同じアーティストを好きな気持ちを共有しよう。


じゅにひめ「Love again」

 発売当時も上位にチャート・インしたが、その後しばらく経ってからV6のレギュラー番組「学校へ行こう!」の名物企画・B-RAPハイスクールでも再び注目を集めた楽曲。とうとう、軟式globeの2人が小室哲哉とKEIKOの結婚式に乗り込んでしまうという、破茶滅茶な展開にまで発展。マーク・パンサーも含めた本人たち3人ともが揃った目の前で、「そうだよアホだよ〜」を披露したんだっけ。今年解散を発表したV6だが、最後のTV出演の折にもTwitterのトレンド欄を賑わせた。

 プロモーションの話をしたので、僕がこのカバー動画に触れる前の段階から語ってみよう。この動画がオススメに上がっているのを見つけた時点で、彼女の歌の良さは認識済みだったし、名前と声がすぐに思い出せる状態だった。なので、曲名を見ただけで再生前からワクワクしたものだ。待ち望んでいるものをそのまま出してもらえるのは、視聴者としても素直に嬉しい。

 パフォーマンスの方も期待を裏切らない出来栄えだった。こちらの動画では何といってもボーカルにご注目いただきたい。オリジナル歌手のKEIKOのニュアンスをよく拾った表現だ。特に「怯えてゆく 絡まってく」というラジオボイスに入る手前のサビのパートは大きな聴きどころ。これぐらいオリジナルに迫れれば、ファンにも楽しんで聴いてもらえること間違いなしだ。現在でも僕は彼女の動画に注目し続けている。歌の良さは保証されているので、新作を観るか観ないかは選曲次第。そこだけだ。

 じゅにひめのチャンネルは軸となる音楽性を大切にしつつも、マンネリにならないように他の要素も良い案配で交えながら更新されている。気を使ったチャンネル運営だなあと思う。長い歴史があるチャンネルではないので、当面はマンネリなど意識する必要もないのだろうけど。

 長くやっていると必ず訪れるマンネリ期。しかし、そこから脱却することに捉われ過ぎて、本来の自分の持ち味ごとスッ飛んでしまわないように心がけたいものだ。軸が安定していることも、大事なチャームポイントである。従来から持ち合わせている軸と、これまでトライしたことのない新規軸。これのサジ加減は本当に悩ましいね。


和田建士「Wanderin' Destiny」

 同アルバムからもう1曲。今度は男性ボーカルのカバーを聴いてみよう。オリジナルとはイメージの違うアレンジ。ギターをまったく使わずに、シンセサイザーを前面に出したクールなサウンドだ。既に聴き慣れた曲をもう一度楽しむときには、こういう大胆な変更ポイントがあると面白みが増す。こちらは伴奏に要注目。聴き心地の良さの秘訣は、全体的に調和の取れた音色選びだろう。各楽器がどんな動きをしているのかが非常に分かりやすい。ミックスのバランスがうまくいっているのはもちろんだが、それに加えて各パートがお互いをマスキングしないように、フレーズも練られているように感じる。

 こちらも再生前の印象についても触れておこう。先のじゅにひめの場合はこちらから探さなくとも、自動的にオススメに表示されていたので見つけるのに苦労はしていない。だがそれとは違い、このカバー動画を見つけた時点では投稿者に関する知識はゼロだった。

 YouTubeはプロが本気で挑んだカバーから、素人がうろ覚えで投稿したものまで、まさに玉石混交だ。後者を否定する気は毛頭ない。クオリティー云々よりも、音楽を楽しむこと自体は素晴らしい趣味。演奏・歌唱人口が増えて裾野が広がるのは喜ばしいことだ。ただし、どこの誰かも分からない歌い手のパフォーマンスをいちリスナーとして鑑賞するとなると、それを楽しむためには一定のクオリティーはどうしても必要になる。

 歌い手が男性であるというだけで、再生前から「なんだか心配だなあ…」という気は正直あった。だが、それもすぐに払拭されるほど、丁寧な歌唱で安心した。

 なぜ心配ながらも再生ボタンを押すに至ったかと言うと、この曲を投稿している歌い手が、他にそれほど多く見当たらなかったからだ。もし、僕の知ってる歌い手が、こぞって同じ曲を上げていたら、果たして再生していたかどうか。そもそも、他の大勢の歌い手に埋もれて、見つけることさえできなかったかも知れない。

 定番中の定番は、広く知れ渡っているので見つけてもらいやすいように思えるが、そこで存在感を発揮するのは、ひと筋縄ではいかない。globeのカバーであれば、あえて「DEPARTURES」以外の曲の方が、ターゲットの人数は絞られるにしても、インパクトは残しやすいかも知れないね。パフォーマンスが抜群でなくとも、選曲で個性を発揮することだって可能だ。カバー曲を投稿している方は、パフォーマンスをする前の、題材選びからひと工夫凝らしてみてはいかがだろうか。


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