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小室哲哉カバー曲3選〜オリジナル・アーティスト本人と一緒に制作〜

 当ブログでは、過去記事でさまざまなカバー曲をピックアップしてきた。今回はそんな中でも異例の、オリジナル・アーティスト直々に参加する楽曲を聴いていきたい。カバーする側にとっては光栄極まりない機会。リスナーとしても、思い入れが強ければ強いほどに、胸躍る企画だ。


森口博子 with TM NETWORK『BEYOND THE TIME〜メビウスの宇宙を越えて〜』

 森口博子による、機動戦士ガンダム主題歌カバー・シリーズ『GUNDAM SONG COVERS』。過去2作の好評を受けて、第3弾が今月発売された。彼女は歌手としての活動に強い思い入れがある。音源のリリースが思うようにいかない時期も、マルチ・トラック・レコーダーを個人で購入して、自宅でデモを作っていたらしい。『笑っていいとも!』などのバラエティー番組の印象も強いから、森口博子がそんな機材を持っているのも意外な感じ。

 芸能人生命はずっとキープしてきたが、歌手としては苦しい時代もあった。そこを乗り越えて久々にヒットを放ったのが、3年前の当シリーズ第1弾。当時、筆者がこの情報を見たときは、参加ミュージシャンの豪華さに驚いたものだ。

 特に目を惹いた面子は猪野秀史。「絶対接点ないだろ!どうやってオファーOK取れたんだ!?」と、謎で仕方がなかった。これはプロデューサーの交渉力ではなく、森口博子自身の熱意によるものがかなり大きいそうだ。この豪傑揃いの作家陣・演奏陣は、制作サイドから与えられたものではなく、彼女自らの希望に端を発して招集されたという。森口博子が猪野秀史の音楽を聴いていたなんて、夢にも思わなかった。そういうことなら、このカバー・アルバムは聴いておこうという気にもなる。

 本シリーズの成功で、ここ数年は歌手としての評価も再び上がってきた。本人としても充実した日々を送っていることだろう。このタイミングで舞い込んできたビッグ・サプライズが、『BEYOND THE TIME』のカバーに、オリジナル・アーティストのTM NETWORKが参加するとの一報だった。

 仮に共演すると想定したらこうなるだろう。TV番組、それも『ミュージック・ステーション』などの正真正銘の音楽番組ではなく、バラエティー色の強い番組で、少し歌も挟みながらという環境で、木根尚登ひとりだけを引っ張ってきてワンコーラス。これぐらいなら、なんとかなるか。と思いきや、メンバー3人揃い踏みで、商品化を前提としたガチのレコーディングに漕ぎつけたのだ。驚いたね。

 アルバムの発売日にはYouTubeで生配信が行われ、締めくくりにはこの曲のパフォーマンス映像が流れた。終盤の「ああ、もう一度君に巡り合えるなら」というフレーズの手前に、伴奏が一瞬止まる箇所がある。そこで森口博子が閉じていた瞳を開くシーンを見ていると、バッキングと一心同体になった彼女の表現に、心を打たれた。

 TM NETWORKを3人とも呼び寄せたことに、ファンとしても大変感謝している。このシリーズの成功を心から嬉しく思う。


千秋『FACES PLACES』with MARC PANTHER from globe

千秋の歌YouTubeに掲載

 ポケットビスケッツのボーカリストとして、過去にはNHK紅白歌合戦への出場経験もある千秋。彼女がYouTubeで展開している音楽活動の中でも要注目のトピックスが、globeのマーク・パンサーとのコラボレーションだ。

 千秋はglobeのヒット・ナンバーを4曲カバーした。このうち、先陣を切って公開されたのが『FACE』。千秋とマークの談話によると、フランス語ラップの部分はこの日限りのアドリブでやっているそうだ。よく聴くと、確かに途中で「avec Chiaki」と言っている。有名人が色紙にサインするときの、「○○さんへ」と添書きする感覚にも近いだろうか。千秋にとっては何とも嬉しいサプライズ。

 『DEPARTURES』では、千秋の歌い出しはガチガチに緊張しているが、マーク・パンサーのラップが入った後からは、俄然持ち直している。千秋のリアクションを見ていると、ここで初めて生ラップを聴いたようにも受け取れる。厳密には、90年代に音楽番組等で共演の機会はあっただろう。しかし今回は訳が違う。それぞれ別ユニットに所属して、出番待ちの際に間接的に聴くのではない。自分に向かって直接生のパフォーマンスを披露してくれるのだ。これは格別。

 『FACE』ではイントロの段階から笑顔を見せる余裕もあるし、収録順としては『DEPARTURES』の方が先だったように思える。これは本人たちと、現場にいたパッパラー河合にしか分からないことだが。4曲中で最も終始歌唱が安定していたのは『Can't Stop Fallin'in Love』だろう。

 この一連のカバー動画の中でも、初めて聴いたときの熱量がひときわ高かったのが『FACES PLACES』。すでに他の3曲のカバーを見た後での視聴だったが、やはりこの曲だろう。部分的には歌唱が粗削りだったり危なっかしい場面もあるにはあるのだが、それを差し引いても惹きつけの強さがある。リスナーの感動の源は、作品の完成度だけではない。他にも要素があるのだ。例えば、この曲の千秋のような、限界に挑戦する姿。

 完成度の高さということであれば、Beverlyのカバーは長年のファンから見てもまったく申し分ない。さすがだ。ちなみにBeverlyもまたglobeのオリジナル・メンバーである小室哲哉と、この『FACES PLACES』を披露する機会を得ている。

 歌を志す方は、たとえBeverlyほどの歌唱力はなくとも、せっかくの練習の成果を封印することはない。千秋の歌う『FACES PLACES』のように、楽曲にかける情熱の強さが、技術を越えた感動を呼び込むことがあるのだ。好きな曲なら気後れせずに、思いの丈を歌に込めていけばいい。

 これらのカバー動画の伴奏は、カラオケ・DAMの音源を使用。千秋・マーク両者ともにメジャー・レーベルへの所属経験もある。当然、事前に第一興商へ話は通してあるだろう。小室哲哉直々に制作した、ほんもののバッキング・トラックで聴きたかった!という声もありそうなものだが、オリジナル歌手ご本人の目の前で、収録場所もご本人の自宅。これだけでも相当緊張するはずだ。この上、伴奏まで本物とあっては、本気度が高過ぎて千秋もプレッシャーでおし潰されてしまう。伴奏をカラオケメーカー製の音源にしたことが、結果的に良い緩衝材になったのではないだろうか。



Anna『寒い夜だから…』with DJ KOO from TRF

KOOTUBEに掲載

 最後はこちら。先の千秋はコンデンサー・マイクを立てたガチ本気のレコーディングだったが、こちらはもっと肩の力を抜いた、アットホームな雰囲気だ。Annaの歌いっぷり以外にも、オリジナル・アーティストのDJ KOOを目の前にして歌うリアクションを楽しめる。彼女の嬉しそうな様子は、見ていても心温まる。


 オリジナル歌手と直接会ってセッション!とまでは至らなくとも、カバー作が本人の目に留まり、好意的なリアクションが返ってくる例もある。

 YouTubeでカバーを公開する2人組ロックバンド・MINT SPECでは、今年はじめにボーカリスト・MiiのTwitterアカウントが、X JAPANのYOSHIKIにフォローされた。

 更に彼らにとって吉報が続く。1月21日にNACK 5で放送されたラジオ番組『K's TRANSMISSION』では、坂崎幸之助(THE ALFEE)自身の口から、YouTubeのカバーで目に留まったバンド名が3組告げられた。その中にMINT SPECも含まれている。

 YouTubeの可能性の大きさは、本当に底知れない。制作者本人はもちろん、リスナーにとってもハッピーなニュースだ。こんなに励みになる出来事はない。奇遇なことに、当ブログの過去記事で掲載した3人組ロックバンド・そこに鳴るも、このときに紹介されている。

 また、これとは別の話をすると、YouTubeチャンネル・ひろみちゃんねるでは、カバー動画『さよなら文明』投稿時に、オリジナル歌手のサンプラザ中野くん(BAKUFU-SLUMP)からTwitterで感謝の言葉があった。真摯に音楽に向き合っていれば、届くべきところにちゃんと届くのだ。ミュージシャンにとっては実に良い環境になってきた。


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