虹色のセブンライブス 第一章「 エリオンの心臓」

本記事はThe My Alchemyで制作中のSFファンタジー作品・虹色のセブンライブスのストーリー&アートブック「The Stream's Vol.1」から引用した試し読み的なサムシングです(ほぼまんまですが)。昨今の時勢から度々の即売会の中止で頒布機会も少なく、企画の仕切り直しも兼ねて一部を公開いたします。
2021.3 kiyoshiro

 第一章 エリオンの心臓

 かつて訪れた世界の終わりを《救世主セブンライブス》が救ったとされる世界。星の住人は過酷な環境で生きる為に、各地に命の傘(コロニー)を建造し生活圏を築き上げていた。

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 不思議な力を操る旅人の少女・ナナは、意思を持つマント・レレと共に、失った記憶の手がかりとなる《虹の欠片》を求めて砂漠を巡っていた。ある日、砂嵐で遭難した情報屋のパレットを助けたナナは、彼女と共に命の傘・エリオンに訪れる。そこは《エリオンの心臓》と呼ばれる発電石の採掘によって発展を遂げた電気の街だった。
 観光中に街中の電気道具が暴走する騒動に巻き込まれた二人は、休眠状態から目覚めたレレの導きによって発電塔《テシュブの塔》へ辿り着き、そこで暴走するエリオンの心臓を目撃する。心臓の正体が虹の欠片だと気付いたナナとレレによって暴走は食い止められるが、塔へ侵入したナナとパレットに嫌疑の目が向けられた結果、二人は暴走騒動の犯人として街中に指名手配されてしまった。

 警官隊を率いる電気道具使い———シア・ステラサイツと逃走劇を繰り広げたナナ達は、偶然出会ったステラサイツ採掘組合の組長ドン・パンコウの助力を得て、エリオンの現リーダーを務める弟のドン・ラムジが騒動に関与していると突き止める。一行は真実を明らかにするべくテシュブの塔のデータログの回収へ乗り出すが、それを追って現れたシアとの戦いの末、ナナはシアと共にエリオンの地下に広がる渓谷へ転落してしまった。
 一時的にシアと手を組んで地上を目指すナナは、シアから亡き母・ミリアとラムジが描いた夢———地下に眠る古代遺跡《ファルテイシブ》を復活させて豊かな大地を取り戻す《イシヅ計画》の存在を明かされ、その動力炉であるエリオンの心臓を制御出来ないかと相談を持ち掛けられる。ナナはシアの語るより良い未来を信じて力を貸すと約束するが、ラムジはシアの与り知らないところでファルテイシブの天候操作能力を悪用し、密かに周辺の命の傘に対する侵略戦争を目論んでいた。

 翌朝、渓谷から生還したナナとシアはテシュブの塔で行われるファルテイシブの起動実験に参加するが、ラムジの魂胆を見抜いたレレは力を貸そうとしなかった。業を煮やしたラムジはナナとレレを装置に拘束して強引にファルテイシブを復活させるが、その反動によって暴走が起こり、今度は街を走行するレールライナーまでもが制御不能となってしまう。暴挙を目の当たりにしたシアはナナを解放すると、ラムジが差し向けた警官隊を食い止めながら、ナナに「街の皆を助けて欲しい」と後を託す。

 塔を脱出したナナは暴走するレールライナーを押し返して乗客を救出するが、その隙を突いた警官隊によって包囲されてしまった。しかし、データログの謎を解き明かしたパレット・パンコウ率いるステラサイツ採掘組合が救援に駆け付け、遂には警官隊との大乱闘が勃発する。
 ナナ達が撤退した後、パレットは敢えてその場に残って捕まると、細工を施してラムジとの会話を街中に放送し、これまでの悪行———侵略戦争の企みだけでなく、ファルテイシブの天候操作能力を悪用して不正な交易を働いた事実までも白日の下に晒し出した。怒り狂ったラムジはテシュブの塔と接続したファルテイシブを地表に出現させ、街への電気供給を絶ち、計画に賛同して電気の恩恵を受け続けるか、街から追放されて貧しい生活に戻るかの二択をエリオンの全住民に突きつける。

 夜明けまでに決断を迫られたエリオンの住人が議論を続ける中、パンコウは人々に「戦争をしてまで幸せになりたいか」と問いかけた。電気の普及と共に生まれた貧富の差、技術の恩恵と代償、幸せの定義———様々な声を聞くうちに、ナナは「エリオンの心臓を壊せば全てが元通りになる」と思い至るが、エリオンの住人は聞く耳を持とうとしない。しかし、先代のエリオンのリーダーを務めたパンコウが笑いながらそれに賛同すると、人々はそれをきっかけに、貧しくても手を取り合っていたかつての日々を思い出していく。そうして夜が更けた頃、電気の明かりを失い、久しく目にすることのなかった星空を見上げた人々は、遂にエリオンの心臓を破壊する決断を下すのだった。

 その頃、ファルテイシブの内部で拘束されていたシアとパレットは協力して脱出を図るが、血相を変えたラムジから「ファルテイシブが原因不明のエラーによって暴走状態に陥った」と異変を知らされる。その原因とは、ファルテイシブが旧時代において命じられた環境改変プロトコルにあった。大洪水の発生を示唆するシミュレーションを目の当たりにしたシア達は、エリオンに迫る未曽有の大災害を阻止するべく、ラムジと共にファルテイシブの動力源であるエリオンの心臓の破壊へ乗り出す。

 環境改変プロトコルのカウントダウンが迫る中、エリオン全住民の力を借りてテシュブの塔へ大ジャンプしたナナは、塔内部で再会を果たしたシアと共にエリオンの心臓を打ち砕く。直後、動力炉を失い崩壊するテシュブの塔から飛び降りた二人は、予備電源で稼働するファルテイシブに最後の戦いを挑み、エリオンの心臓の破片と融合して《電気を操る異能》を得たシアの力を駆使してこれを打ち破った。
 一方、ラムジと共に崩壊するテシュブの塔から砂漠へ逃げ延びたパレットは、今回の一件が遠方の命の傘・アイリスオースの侵略を恐れて強行されたものだと事情を告白される。それを聞き届けたパレットは、胸に忍ばせた《ヴェルメリカの聖痕》と呼ばれる印籠を掲げると、ラムジにアイリスオース皇家・第三皇女であると正体を明かし、決して故郷に侵略戦争を行わせないと誓いを立てた。安堵して崩れ落ちるラムジから「なぜこんな砂漠に居るのか」と尋ねられたパレットは、アイリス教の聖典に記された《救世主の再来(ナナ)》を追ってこの地を訪れたと告げる。

 ※

 戦いが終わった後、パンコウ達のもとへ戻ったシアがラムジの計画に加担した事を謝ると、人々は「失ったものはせいぜいエリオンの心臓ぐらいだ」と笑ってシアの帰還を歓迎した。ナナとパレットも街を救った英雄として讃えられ、晴れて騒動は大団円を迎える。

 それから一ヶ月後、エリオンの技術者達が自然エネルギーによる発電を実現させた事で、失われたかのように思われた電気の街は奇跡の復興を遂げた。それを見届けたナナは頃合いを見て旅発とうとするが、パレットもそれについていくと話す。さらに、電気を操る異能の副作用に悩むシアもまた、身体に溶け込んだエリオンの心臓———もとい、虹の欠片を取り出す方法を探して旅に出ようとしていた。

 そうして、それぞれの目的の為に行動を共にする事を決めたナナ、シア、パレットの三人は、エリオンに別れを告げ冒険へと旅立つのだった。

Text : Kiyohiro
Illustration : POCHI

【つづく】


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