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コロナ体験談【Day2-1】その刹那、私はコロナだと自覚した

 翌朝。ろくに眠れず、不完全燃焼な状態で目覚めた。喉はまだイガイガしている。メンテナンス失敗。睡眠状態の悪さも相まって、最悪な目覚めだ。  

 しかし、その他に風邪っぽい症状はないから、セーフ。ちょっと身体がギシギシするが、クーラーで冷えすぎたせいだろう。いよいよ今日のお出かけが重要になった。


 ワンルームのアパートには洗面所などないので、狭い台所で顔を洗う。
 その時、ふとハチミツの容器が目に入った。あまりに馴染みすぎて忘れていたが、自宅にハチミツがあったのだ。

「もっと早く気付けたら苦労しなかったのに!」

 蓋を開けたら真上を向き、逆さにした容器から直接喉奥に流し込む。お行儀が悪いが、舌や口内に触れずに喉奥に流し込むには、これが一番効率がよい。下手にスプーンを使えば、舌の上にハチミツが乗ってしまう。すると甘さに耐えきれず、少量しか流し込めないのだ。
 口内には触れないようにしているが、二度目に失敗して舌にハチミツが触れてしまった。朝からコッテリした甘さにウンザリする。肝心のイガイガは、ちっとも変わってなかった。


 コンビニで、朝食と飴を買う。のど飴は嫌いだから、大好きな濃厚ミルク飴を購入。喉を潤すのが目的だから、効能は期待しない。というか、コンビニに売っているようなのど飴に、そこまでの効能はないと私は考えている。ドラッグストアに置いてあるような、医薬部外品ののど飴は別だけど。

 口内で飴をコロコロしながら、本日の仕事を片付ける。といっても、昨日ほぼ終わらせたので、今日は確認程度なのだが。本来は来週の月曜日が初稿の提出日だし、むしろ一日早く作業ができている。クライアントに原稿を送付して、早く送付した旨を電話連絡。ついでに確認期日を念押しした。

「今日は見れないので、月曜日にチェックしますね」
 クライアントがそう言うのだから、今日はこれ以上の仕事はないだろう。時刻は十四時。一足早い週末を楽しむことにした。


 さて、どこに出かけようか。クーラーなしで過ごすのが目的だから、散歩メインで、なるべく長く外にいたい。ただ、散歩だけならすぐに終わるので、出先でコーヒーくらいは飲みたい。途中、ウインドウショッピングができればいいのだけれど。

 そこで、私は都内有数の観光地へ出かけることにした。
 補足するが、現時点では自分がコロナにかかっているとは露ほども思っていない。だから拡散させに行ったのではないということだけご理解いただきたい。


 電車に揺られ、数十分。観光地Xへ到着した。ここなら店舗に入らなくても、街中を歩くだけで楽しい。店も豊富だし、散歩がてら気になる店へ入店しよう。そうすれば、なるべく外で過ごしつつもウインドウショッピングが楽しめる。目的に合致した、最高のプランだ。

 私はよっぽど身体が冷えていたらしく、真夏の暑さが身に染みた。歩いているだけで汗が吹き出す。マスク内に籠った自分の呼気で蒸されそうだ。この日は日差しも強く、ただ外にいるだけで体力を消耗した。


 駅から十分歩いただけで、もう帰りたい。しかしここで挫けてはいけない。汗をかいても体調に変化はなく、身体の冷えは奥底にまで沁み込んでいるようだ。もっと歩かねば。

 少し休んで、それからまた散歩しよう。途中、目についたカフェに入った。身体を温めようと、ホットココアを飲んだ。優しいぬくもりが喉を潤す。しかし瞬時にイガイガが襲ってくる。本当にしぶといイガイガだ。


 家に帰り、おやつを食べる。そしてYouTubeを視聴。頭を使わずに見れる動画は、いい暇つぶしになる。本来なら何かクリエイティブな活動をして時間を有効活用したいところだが、体調が悪いとやる気はめっきりなくなる。こんな状態ではいいものは作れないから、無理をするのをやめた。

 それに、明日は予定がある。知人が主催する勉強会の手伝いだ。世間的にはコロナが猛威を奮っているし、体調不良だと知ったら参加者の気分も悪いだろう。

ここでふと気づいた。
「もしコロナだったらやばくない?」

 最近のコロナウイルスは、風邪に似た症状が出るという。風邪との大きな違いは発熱にあるだろう。小売店では、入店時に発熱チェックするのが常態化している。それくらい、発熱には敏感な世の中だ。

 ここでもう一つ気づいた。今朝から感じる身体のきしみ、身に覚えがある。そう、あれはインフルエンザで高熱が出た時のような──


 私はすぐさま体温を測った。普段使わないので、体温計を引っ張り出すまでに四苦八苦。久々に電源を入れたら、ぼんやりモニターが表示された。まだ電池はありそうで安心した。

 脇に挟んで数分。検温完了の音が流れる時間が待ち遠しい。考えれば考えるほど、自分がコロナに罹患したような気がしてたまらなかった。

──ピピピピ

 願うような気持ちで、脇から体温計を引き抜く。モニターには「37.4度」と表示されていた。
 マズイ。平熱を知らないが、1度近く体温が上がっている。すぐさまコロナが疑わしい体温を調べると、受診目安は37.5度と出てきた。うーん、なんとも微妙なライン……。

 この時点で、時刻は十八時。明日の勉強会で私の代役を探すなら、今ならなんとかなるだろう。私は知人に電話した。
「もしもし」
「もしもし、どうした」
「すみません、明日行けないかもしれません。熱が出て、コロナかもしれないので」

 それから知人と少し話し、明日は欠席しても問題ないと判明した。
「明日の朝の体温次第ですが、行けたら行きたいです」
「待ってるけど、無理するなよ」
 そういって電話を切った。ひとまず明日の勉強会の進行に妨げがないとわかってよかった。ただ「明日の勉強会では、面白い話するぞ」と、散々焦らされたが。

 これまでの人生、一晩だけ発熱した夜もある。今回もそれに違いない。今は熱があっても、明日の朝までに下がっていればセーフだ。栄養あるものを食べて、今晩は早めに寝よう。昨晩はじっくり眠れなかったし。


 おやつを食べたせいで、まだ食欲は回復しない。でも後で買いに行くのも面倒だからと、私は買い物に出かけた。
 その時、ふと「もしコロナだったら買い物に行けないよな」と思った。これが自由に買い物できる最後のチャンスかもしれない。

 今晩の夕食用に冷凍パスタと、ゼリー飲料とカロリーメイトを買った。普段から水道水は飲まないので、ミネラルウォーターも多めに。ついでに麦茶とスポーツ飲料。食欲がなくても水分は必要だろうと、身体に良さそうなものは片っ端から買い物かごに入れた。あと「こんなに使わないよ」と思いつつ、一番大きな箱の熱さまシートも。
 まあ、家にはカップラーメンもあるし、もっと必要になったらネットスーパーで買えばいい。当面二〜三日分のつもりで買い込んだ。

 それから数時間後。私はコロナに罹患したと悟った。


こんなところまで読んでくださって、ありがとうございます!