「ムーンライト」
時が止まる。
目が合った岡田の瞳の中に一切の光を感じない。
そのままどれくらい目が合っていたか分からないが、僕が耐え切れずに目線を逸らすと岡田はゆっくりと立ち上がり外へ出て行った。
岡田は本当に僕の事を忘れ去っているのだろうか。
本当は岡田の頭の中に僕がいるのでは無いか。
そう考えながら、僕はゆっくりと洗い物を進める。
洗い終えた食器を眺めながら立ち尽くしていると、峰尾さんがティーカップに煎れたコーヒーを二つ持って話しかけて来た。
「どう?まだ来て一日目だけど馴染めそう?皆んなも最初は戸惑っていたし、勿論私も戸惑ってた。それでも皆んな仲良く暮らしているし、きっと佐藤くんもすぐ打ち解けられるから大丈夫よ。」
そう言って、峰尾さんは優しく微笑んだ。
少しだけだが、僕の心がふわっと軽くなった気がした。
そしてコーヒーを飲み終え、峰尾さんは僕を連れて住人の部屋の割り振りを教えながら、最後は自分の部屋へ戻って行った。
教えられた通り、僕も自分の部屋へ入る。
部屋には一台のシングルベッドしか置かれていない。
そのおかげか、五畳あるか無いかの狭い部屋が広く感じていた。
少し開いていた窓から入る夜風に、静かに揺れる白いカーテンが僕を窓際へと手招きしている様だった。
窓から外を覗くと、元気においかけっこをしている海幸くんと山幸くん。
そして頰杖をついて二人を見ている宮城くんがいた。
白く澄んだ月の光に照らされていた宮城くんは、どこか寂しそうに見えた。
雲一つない綺麗な満月。
そんな満月から見た僕は、どう映っているのだろうか。