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『覇者』歩みを止めず、『体育の伝道者』前を向け(前編)〜関東大学ラグビー早稲田対日体大を観ながら〜

1.秋半ばの熊谷に

前夜、夜遅く外に出た。むせ返る程の金木犀の香りが辺りに立ち込めていた。いつのまにか秋は半ばを過ぎようとしていた。

土曜の冷たい雨から一転、日曜は快晴、麗かな日差しは暖かく心地よい。テレビをつけると、熊谷上空にも澄んだ青空が広がっていた。

チケットは早々に完売していた。

にしては空席が多すぎる。過剰なソーシャルディスタンス、といっていい。

とりあえず買ってしまったけど、遠いし、、やめとこ。

みたいに挫けたファンが多かったのか。真相はわからない。気持ちはわからないでもない。私達は発熱はもちろん、咳一つ許されない日常を強いられているのだから。

2.覇気ある覇者と悩める伝道者と

少しずつ、本来の姿を取り戻しつつある早稲田。対するは、今季調子の出ない日体大。前節慶應戦の無得点が、部員たちの心に余計な負荷を生んでいなければ良いが。

グラウンドに入った早稲田の選手達、表情は明るかった。主将丸尾君の笑顔も随分柔らかくなった。

『新国立の4年生スター達』が卒業し、新体制となったプレッシャー、加えてコロナ渦中での練習不足。彼らは一学生に過ぎない。酷ともいえるプレッシャーと向き合う今日までの道のりは、決して平坦ではなかったはずだ。

君達は『君達のラグビー』をすればいいよ

彼らの母親の年齢となっている私には、そう心の中で語りかけずにはいられなかった。

日体大の選手は、どこか重苦しく緊張した雰囲気を漂わせていた。

そういえば、昨日の箱根駅伝予選会

『第6位 日本体育大学』

『6位は日本体育大学!73年連続73回目の出場です!』

声を上ずらせるアナウンサーの声が虚しく聞こえるほど、日体大駅伝部の選手達は表情を崩さない。全員直立不動のまま深く一礼をするだけだった。

日本のスポーツシーンを遥か昔から牽引してきたこの大学は、あらゆる運動部がもれなく勝利を義務付けられてきた。それはラグビー部も例外ではない。現状は苦しくとも、伝統の重みが代々の部員にのしかかることに変わりはない。

3.覇者なる姿存分に

試合は、開始早々から早稲田の一方的な攻撃で進んでいく。

早稲田の10番吉村君を中心に、早稲田は、右から左、大きくあるいは小刻みにボールを自在に動かして、日体大の防御網に穴を開けていく。日体大陣内で、早稲田ボールのラインアウトからモールで押し込み、早稲田10番は大きく右へパス。

大きな美しい半円の軌道を描いたボールは、14番の腕の中にすっぽり収まり、彼はそのまま駆け抜けた。

試合開始から2分も経っていなかった。

早稲田トライ コンバージョン成功   7-0

日体大の試合再開のキックは、日体大の選手がキャッチするが、無情にもスルリとこぼれ落ちた。

日体大ノックオン。早稲田ポールスクラム

両校のFW陣。平均体重は約5キロ、総体重では34キロ近く早稲田が重い。しかし、単なるパワーの差ではない問題を、観客はこれから目にすることとなる。

早稲田はスクラムを押しこみ、出たパスを左へ、右へ、速くパスを回していく。キックパスで大きく日体大陣内に斬り込むが、ボールは右側外へそれていった。

日体大期待の選手、3年生ヴァイレアくんはキックで形勢を取り戻そうとするが、そのキックは低く浅かった。

キャッチした早稲田14番は一気に走り込んで日体大防御網を突き抜ける。最後は8番にパス、8番は悠々とゴールラインを超えた。

7分 早稲田トライ コンバージョン成功

早稲田対日体大 12-0

早稲田の攻撃は止まらない。

早稲田のキックを日体大はキャッチし、右へ左へと早稲田陣内に斬り込む。しかし、日体大は早稲田に絡まれボールを離せない。

日体大ペナルティー。早稲田はスクラムを選ばずボールを回してきた。しかし今度は早稲田にノックオン。

日体大ボールのスクラムから日体大は左へボールを動かす。しかしここでスローフォワードのペナルティー。

ここまでペナルティー連発。やはり焦りが生じているのか。

早稲田ボールのスクラム。早稲田は押し込んだのち10番が大きく左へパス、受けた11番は素早くボールを右に切り返して9番へ。彼はそのまま走り抜けた。

12分 早稲田トライ コンバージョン成功

早稲田対日体大 21-0

その後も攻め続ける早稲田、しかしペナルティー。ところが直後、日体大はノットリリースザボールのペナルティを取られる。

解説の方によると、『ルール変更ではなく、審判の解釈の問題として、倒れたらすぐボールを離す、その姿勢をはっきり示す、ことが求められ、結果として、ノットリリースの反則が厳しく取られるようになった』ということらしい。

これは選手の『』を避けるためなのか。コロナの余波がこんな所にも押し寄せているのか、私には分からないが。

早稲田は攻め続けている。日体大のキックをキャッチした早稲田は、15番が左から中央へ大きく日体大陣内をブチ抜くように走り込んできた。そして左に待っていた8番に素早くパス、ボールは9番につながれた。

21分早稲田トライ コンバージョン成功

早稲田対日体大 28-0

この日の日体大は、ヴァイレアくんが奮闘した。しかし、彼のキックは左へそれてラインを超えてしまった。

グラウンド中央で早稲田ボールのスクラム。

ここで日体大ペナルティー。早稲田はキックで日体大陣内に斬り込むがボールをタッチに出せずノータッチで日体大が蹴り返す。

早稲田ボールのラインアウト。早稲田は左へ右へと揺さぶるようにボールを運んでいくが、ここで日体大がインターセプトを試みる。しかしボールは腕に収まらず、日体大痛恨のノックオン。

早稲田ボールのスクラムを、早稲田は押し込みボールは左へ。しかし、ボールを持った早稲田の選手を日体大12番が渾身のタックルで引き倒す。すかさず日体大13番がボールに絡み、ここで早稲田にペナルティー。日体大チャンスだ!

日体大はボールを右へ右へ懸命に運んでいく。そして17番がキックパス。しかし、無情にもボールはゴールライン前で止まらず、コロコロと奥へ転がっていった。

早稲田のキックで試合再開、キャッチした日体大は左へ右へボールを運びながら再び早稲田陣内に入っていく。しかし、ここでまたもや日体大ノックオン。

早稲田ボールのスクラム。ボールは左へそして右へ。しかし今度は早稲田にオフサイドのペナルティー。

実況アナウンサーのお話によると、今季はこのオフサイドの判定も厳しく、そのせいかスクラムが減った気がする、とのこと。

これもコロナ感染対策なのか?

日体大ボール、早稲田陣内でのラインアウト。今度こそチャンス!

しかし、早稲田がボールをスチール。早稲田はキックでボールを外に出そうとする。キャッチした日体大はそのまま攻撃を続けようとするが、なぜか審判に止められる。

ここもまた、解説の方のお知恵を借りる。

ボールがラインをどこまで超えたらクイック攻撃が認められなくなるか、競技場によって違うらしい。どうも、今日の熊谷では、ライン外の人工芝部分までボールが達すると、クイック不可、となるようだ。

ということで、早稲田ボールのスクラムに変わる。早稲田は再び右へ左へまた右へ、、と左右自在にボールを動かし日体大防御網に穴を開け始めた。

そして、早稲田9番から10番へオフロードパス。10番はそのままステップを踏むように中央へ。ここで日体大がボールを奪うも手からこぼれペナルティー。

ゴールライン手前で早稲田ボールのスクラム。ここで、日体大不調の一因と言われたスクラムのミスが連発。コラプシングを繰り返し、ようやく噛み合ったスクラムを早稲田はそのまま押し込んだ。

39分早稲田トライ コンバージョン成功

早稲田対日体大 35-0

ここで前半終了の笛。

日体大の苦戦は織り込み済みだったはずだが、前半とはいえこうした結果を見せつけられると、思わずため息をつきたくなる。

明らかに日体大は早稲田より攻撃の出足は遅く、防御は遅れていた。もしかしたらほんの2、3歩の出足の差かもしれない。しかし、

これ程相手の攻撃防御プランを予測できない、あるいは予測できても体が反応できない、という事態は深刻だ。

これがトップリーグの試合なら、チャンネルを切り替えるところだ。

しかし、大学ラグビーは大学生達の熱闘にリスペクトの念を抱きながら、試合の最後まで、彼らの奮闘を応援、成長を祈るイベントだ。

私は後半の日体大奮起を祈りながら、チャンネルはそのままに、ソファに座り続けた。






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