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【子宮と卵巣を摘出した今だから思うこと】

決して“変化球”の意図で人選したのではない。ボクの中では“直球ど真ん中”の人選なのだ。

「来ちゃった!と言う感じでしたね。母は喜んで赤飯を炊きましたが、私にとっては、止めてくれぇ~!と言う感じの何物でもなかったです」

初潮についての感想を伺うと、“彼”はそう感想を述べました。そして・・・

「どこかで自分には起こらないかなと言う期待はあったんですが、自分は女の子だと言う認めたくはない現実が、そこにはありました。その後は、月に一回来る度に、女性であること、女性の身体であることを突き付けられる感じがしましたね。もう絶望。男性として生きたいけれど、やっぱり無理なのかなぁ、やっぱり女なんだと。いくら言葉やふるまいは男性的であっても、この部分が変えられないと言う現実を毎回突きつけられている感じがしましたね」

生理に関して、そうした“思い出”を語るのは藤原直さん。
今は法律上も男性である。1978年、3人兄弟の“長女”として生まれる。
小学5年生の時に初潮を迎えるが、既に3~4歳の頃から自分の性に違和感を覚え始めていたらしい。33歳からホルモン注射を開始、35歳で子宮と卵巣を摘出する性別適合手術を受ける。当然、今は、生理は来ない。
キャリアの面から藤原さんを紹介すると、保育士や保険会社でのファイナンシャルプランナーの仕事を経て、2016年10月より独立。現在は、フリーランスで、LGBTや性の多様性を伝える活動を精力的に行っている。そんな彼に、何故、今回話を聞いてみたいかと思ったかと言うと、前章で「生理と更年期障害」について話を聞いたからだ。生理と更年期障害を比較すると、更年期障害の方が辛いと言う。そうなのか!と言う感じ。となると、生理が終わった段階で、改めて生理を振り返ってもらおうと思っていたものの、生理についてよりも更年期障害について話が行ってしまって当初の目的が達成出来ていないのではないかと思ったから。そこで、更年期を経ずして生理を自らの手で終えた人物であれば、生理を客観的に振り返ることが出来るのではないかと思ったのだ。ほら!直球ど真ん中の人選かと。

(藤原直さん)

まずは、藤原さんの女性時代の生理について聞いてみた。

「めちゃくちゃきつかったですね。最初の一日、二日じゃなく七日間ずっときつかった。なので、30センチから40センチのナプキンを付けていたこともあります。腹痛だけじゃなく、腰も痛いし、気分も悪くなるし、特に貧血が酷かったですね」

この貧血に関しては、普段から酷かったそうだ。しょっちゅう立ち眩みを起こしていたと言う。しかし、それが、生理が来なくなると・・・

「立ち眩みなど全然無くなった。もう無駄に元気(笑)。職場のあるビルの1階から8階まで全力で駆け上がれるほど元気になりました。それまではワンフローを上がるのもやっとだったのですが」

そんなに違うのか。これは驚き。しかし、さらに驚くべきことがあった。
藤原さんは、ホルモン療法を始めた3~4か月後から、ほぼ生理はやって来なかったのだが・・・

「お腹周りが張ったり、腰回りが痛くなるときが一か月に一回あって、今、生理が来てると分かるんですよ。出血はしないけれど。当時、子宮・卵巣はあったので、それらの中で“何か”が行われていると言う感じは、ありましたね」

そうなのか。これも驚き。しかし、それだけでなく・・・

「生理が来る何日か前に“生理が来る”と言う予兆もあるんです。腰が痛いとかだけでなく、気分のアップダウンもある。そう言う感覚があると言うことにビックリしましたね。生理が止まっても、体のサイクル的に、そう言う感覚がやってくるんだなぁと」

いわゆるPMSだ。生理がなくてもやってくる。
身体と言うのは本当に不思議で神秘的。
しかし!しかし!!さらに、藤原さんは、こんな体験もされているのだ。

「子宮と卵巣は、35歳のときに摘出したのだけれど、その後の更年期障害は酷いです。」

何と、藤原さんは性別適合手術を受け、今は男性と言う身体であっても、更年期障害はあるのだ。

「普通、閉経があった後は、ただでさえホルモンバランスが崩れるのに、私の場合は、外から男性ホルモンを入れているわけですよね。となると、バランスが酷く崩れているわけですよ。ですから、肩こりが凄く酷いであるとか、ホットフラッシュで汗がだらだらだとか、いわゆる不定愁訴でメンタルのアップダウンが酷くなりました。」

そうなのか。そうだよな。女性から男性に移行したからと言って、更年期が無くなるわけはない。イメージからだけの浅はかな決めつけ。よくよく考えれば更年期と言ったある程度の時間をかけて身体が変わるのではなく、藤原さんの場合は一挙に変わったわけだからその変化による影響も、一挙に押し寄せたに違いない。更年期障害が酷いと言うのも当然。本当に思慮が足らず、藤原さん、申し訳ない。にもかかわらず、やはり聞きたい。
そんな藤原さんにとって生理とは何だったんだろう?

「生理ですか?う~ん。そうでですね~。う~ん、生理があるときは、生理は嫌だなと思っていましたけど、子宮や卵巣を摘出した後は、メンタルだとか身体の調子が悪くなったので、まぁ、あの~、女性の身体にとって、機能的には、生理って必要なものだったんだなぁとは思います。だからと言って、子宮や卵巣を摘出したことに、私は後悔していませんが」

そうなのか。やっぱり生理は神秘的である。
そして、多分、女性も神秘的なのだ。
本当に未だに分からないことだらけである。
一方、藤原さんは現在超理解ある男性に違いない。
こんな話を振ってみた。

「この女性、今、そうなんだって察することは出来ますよね?」

「そうですね。分かりますね」

「じゃぁ、例えば一緒に暫く働いていたら、その女性の周期なども分かるものですか?」

「そうですね」

「やっぱり。ボクなど全然分からないですよ」

「えぇ!?本当ですか?分からないんですかぁ??えぇ~???」

そんなに驚かれるとは。少しショック。
しかし、めげずに聞く。

「生理の話なども女性と普通に出来ますよね?」

「もちろん!しっかりとね」

と言って頷かれた。やっぱり。

では、ボクらも藤原さんのように、フランクに女性と生理を語れるようになるにはどうすればよいのだろうか?
藤原さんは、こう答えた。

「学校の性教育で男子生徒も生理の仕組みとかナプキンについて学べばいいと思いますよね。逆に女子生徒はコンドームとか避妊法を一緒に学べばいいし、そこを変に隠そうとしたりするから余計に分からなくなるんじゃないかな。よく分からないから“謎”になっちゃう。そして、例えばパートナーが生理のときに、男性はどうしていいか分からなくなって、関係性が崩れてしまうと思うんですよね。だから、知っているだけでも、話せるだけでも違うと思うんです。LGBTQと同じで、知ると言うことが大事だと思いますよね」

なるほど!“知ること”に尽きるのだ。そして“教育”が重要なこともよく理解出来る。では、誰が、何を、どう教えれば良いのか?結局はそこが問題。そう簡単に答えは出ないだろうが、我々は急ぎ論議する必要があるに違いない。
しかし、今回のこの本の趣旨は、企業など組織内でのこうした生理への無理解をどう解決すれば良いかと?と言うこと。まさにボクの世代の“オジサン”たちにどう理解してもらうかが狙い。
その趣旨を改めて藤原さんに伝えると、こんなアイデアをくれた。

「オジサンたちに集まってもらって座談会を開いて欲しいですね。例えばテーマは『月経の話・命の話』。そこで、オジサンたちは何を知りたいのか?何を知らないのか?そして、何が不安なのか?を語ってもらう。生理が分からないことによりコミュニケーションがとりにくくなっているとか、生理に関してどう聞いたらいいの?とか、コミュニケーションの取り方とかもきっと分からないはず。そんなオジサンたちに集まってもらって、ここでは何でも喋っていいよ、聞いてもらってもいいよ、と言う場を作ると言うのがいいんじゃないでしょうか!?」

なるほど!それは面白い!ただ、問題が。ボクは思わずこう呟いた。

「藤原さん!オジサンは『知らない!』とは、なかなか言えないものなんです。地位の高い人なら、なおさら(汗)」

藤原さんは、今日一番大きい声を挙げて、こう言った。

「な、な、なんと!な、な、なんと!!オジサンってそう言うものなんですか?」

はい!オジサンとはそう言うものなのです。

まず、我々オジサンが心にまとったその鎧を外すことが、何より重要なのかもしれない。あぁ、依然、前途多難である。

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