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名を自動転売鬼【毎週ショートショートnote】

桃太郎はおばあさんに暇乞いをしていました。

「おばあさん、私はウニヶ島のウニ退治に飽きてしまい、とうとうネット上の怪しげな情報商材に手を出してしまいました。こいつらの常套句〝自動化〟で〝不労所得〟に引っかかってしまったのです。蓋を開けてみるとただの転売マニュアルでした。そう、そしてそのマニュアル自体はお手頃価格だったのですが、そのノウハウを使った自動転売システムに50万もつぎ込んでしまいました。しかもそのシステムによる転売商品というのはマニュアル購入者が全員同じものを扱うという……」

「お前はおバカなのか桃太郎!さっさと集団訴訟でもして取り返してこい!」

「はっ、訴訟より手っ取り早い手段があります。こやつらは名を自動転売鬼と呼ばれております。社会のためになりません。一撃で退治してきたいと思います」

「どこにおるのだ?」

「一説よると佐渡ヶ島とも鹿児島とも!」

「よし!成敗してこいっ!」

おばあさんと、おじいさんはぺんたらこっこ、ぺんたらこっことビットコインをマイニングして桃太郎に持たせてやりました。

さて、早速桃太郎はネットサーフィンの旅に出ました。

「ふう。あぶないあぶない」

気がつくとついうっかり鬼退治のマニュアルを検索してしまいあやうく新たな「鬼退治アービトラージ」という情報商材をポチるところでした。

ほっとしたところでリスティング広告があらわれました。さすがに大手ブラウザは抜かりがありません。

「あなたの鬼退治のおともに……『N』を!」

何のことかよく分かりませんでしたがどうやら最強のショートカットキーらしいです。購入特典でHPゲージのHPが20%アップするらしいとのこと。

桃太郎は0.00000001BTCを支払ってすぐに購入しました。するとすぐに新たな広告があらわれました。

「『N』キーで鬼退治を考えているそこのあなた!『KG』もいかがですか?」

今度もどう機能するのかがよく分かりませんでしたがHPのアップ幅につられて購入をしてしまいました。するとたちまち新手のポップアップ広告が。

「鬼退治にショートカットキーだけでは心許ありません。今のあなたに必要なのはこのリアルなお供です!」

見ると、金髪のリーゼントをしたヤンキー・モンキーと華麗なステップを踏むファンキー・モンキーでした。

「ううっ。リアルな生きものはネット上の対戦には何の役にもたたんだろう!」

桃太郎がその広告をすぐさま消すとあらわれたのは、コンパクトなテンキーでした。値段はリアルモンキーの百分の一です。桃太郎はその値段につられてついポチってしまいました。

大丈夫なのでしょうか。桃太郎は情報商材にも弱かったのですが、マーケティング広告にもすこぶる弱かったのです。弱点が多すぎです。こんなことで鬼退治ができるのでしょうか?

ようやく鬼退治のお供に『N』と『KG』と『テンキー』を従えた桃太郎はもう充分と考え、残ったビットコインをどうやって増やそうかと新たな投資向けの情報商材に興味が向くのをぐっとこらえて鬼退治に向けた旅を再開しました。

いろいろ調べて見るとかつて自分が購入した転売マニュアルの発行者は、早々に名前やバックグラウンドを書き換えドロンした模様です。

一計を案じた桃太郎は試しに目星をつけた「FXの自動売買ツール」の資料請求をしてみました。とたんにFXに限らずありとあらゆる『お金儲け』にまつわる情報商材の資料が頼んでもないのにどっと送られてきました。

さすが鬼どもは購入者候補の情報共有に抜かりはありません。そういえば情報商材で一番大事なのは『顧客リスト』と教材自体で謳っているものを見たことがあります。そこには必ず「昔の商人は火事になると、真っ先に顧客台帳をもって逃げ出した」というエピソードが紹介されています。

令和の時代で言えばメールアドレス、いやメールアドレスは既に古く、さしずめSNSのアカウントのリストを指しているのでしょうか。

そして、やはり古今洋の東西を問わず購入者候補、言い換えれば鴨葱の鴨は最重要なのでしょう。

桃太郎はその中から当たりをつけて転売マニュアル『ゴールデンウェーブ』の資料請求をしてみました。

早速動画が送られてきました。これから産業革命、情報革命に次ぐ、第三の波がやってくるというものです。そのために転売のスキルを身につけようというインチキ感満載のコンセプトが紹介されていました。

「おお、これこれ」

なんとなく既視感があります。

動画は日をおいて、第2巻、第3巻と送られてきました。

その中には購入者から感謝の千羽鶴が送られ、商材の発行者が泣き崩れるという茶番ありました。ちょっと見た目が変わってますがかつて自分が見たものと同じ出演者のようです。

「間違いない!」

こうなってくると手順は桃太郎の手の内にあります。いや手の内と言うよりもこの流れ自体があるマニュアルに沿っている行われているのに違いありません。桃太郎はかつてその手法を調べたことがありました。

何だっけ……アメリカの「ローンチなんちゃらだっけ?」

とにかくその後の展開はお手の物です。

このようにまず事前の動画で購入意欲をあおりに煽ります。

最後の配信はライブで行われ、そこで情報商材の申し込みが行われます。

そのライブ中に必ず申し込みが殺到してサーバーがパンクします。

そしてその購入は絶対にその日限りの数量限定だったはずなのですが、なぜか翌日買えなかった人のために追加購入の募集がされます。

桃太郎はかつて自分が騙された情報商材の発行者と確信して、すぐに裁判所に発行者の詐欺による営業の差し止め請求を行いました。

情報商材というのは、通常内容が明かされることがありません。明かしてしまえば商品の価値がなくなってしまうからです。そのため販売者は内容の保証をしようと購入者に証言させたり、あの手この手を使います。

そして一方で通常はクーリングオフという購入日から一定期間をおいて解約が可能であることを義務づけられてます。

ところがこの発行者は、メインの情報の配信をまだ作成中とか称してクーリングオフがぎりぎり間に合うかどうかのタイミングで行っていました。

発行者にしてみれば情報を取得された上で解約されたらたまったものではないと考えた上でのことでしょうが、内容に価値がない情報だったらどうでしょう。内容に価値があるかどうかの判定はかなり難しいかもしれませんがこれは詐欺といってもよいでしょう。

メインの情報により教材の内容の無いことに気づいた購入者ですが、すでにクーリングオフの期間を過ぎてしまっていたということで泣き寝入りを余儀なくされるものが後を絶ちませんでした。

かつての桃太郎もその一人でした。


裁判所は事情を汲んですぐに動きました。すんでのところで『ゴールデンウェーブ』の販売は差し止められました。

桃太郎はそれこそ一撃で自動転売鬼の成敗に成功したのです。


さて、自分のSNSや、動画配信で得々とこの成果を披露すると桃太郎はたちまちヒーローとして祭り上げられ、ブームがやって参りました。

そして桃太郎は改めて『鬼退治の第一人者』として世間に認知され、桃太郎の発行した鬼退治の情報商材『鬼ターミネート』は飛ぶように売れ、セミナー講師としても引っ張りだこになりました。

悪徳発行者を追い詰めた際、ちゃっかりと顧客リストを着服してこれに利用していたことや、この発行者の個人情報を裏から手を回してSNSで晒して再起不能にしてしまったことなどは大きな声では言えません。

抜け目のないおばあさんと、おじいさんはすぐに「令和の桃太郎」の商標登録と意匠登録を行いオリジナルの桃太郎グッズの製作に乗り出しました。

しかも著しく生産を制限したため、桃太郎グッズはどれもとんでもない値段に跳ね上がりました。

そしておばあさんと、おじいさんは自らフリマサイトでそれらを売りさばいている、どうやら転売まがいのものに手を染めてるようだという黒い噂もたちました。

こうして桃太郎と、おばあさん、おじいさんは税務署に少々おびえながらも幸せな毎日をおくるようになりました、とさ。めでたしめでたし……


(伏線の回収が一切無いままに3000字を越えてしまいました😭)

たらはかに様の毎週ショートショートnoteに参加致しました!

以前は皆様の投稿を読んでなるべくネタが被らないようにしていましたが、最近はそんな余裕が無くネタが被っているかの確認をすっとばして思いついたら一気に書くようにしています。決してパクってるわけではないのですが先行されている方とネタが多く被っていると思います。ごめんなさい~😭


また今回は以前書いた自分の投稿から多くをパクリました~。
こちらはお供もきちんと設定して、伏線ももれなく回収しているはずです。
またこの機会にこのシリーズ創作大賞に応募することに致しました。



























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