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スナイパーの意外な使い方【毎週ショートショートnote】

スナイパー募集!現役・退役・予備役問わず。あなたもNASAで働いてみませんか?勤務池:赤道直下(交通費全額支給)時給:10万円、やりがいのあるお仕事です!

それは、こんな求人広告から始まりました。募集人員8万5千人で残りわずかという事でした。

私は時給に目がくらんでしまったのですが、驚くことにこの破格の給金は本当でした。

私達は早速その日、軍のヘリで現場まで連れていかれました。あらかじめ支給された専用の照準器を持つ特別製のライフルを持参です。我々の班は20名のグループで、赤道直下の線上に100mおきに配置されました。

この班がいくつもあり、赤道上の陸地にスナイパーが一斉に100mおきに配置されたのです。8万5千人です。

私は運が良く砂漠でしたので、この万里の長城のように続くスナイパーの列を見る事ができました。それはそれは壮観でした。

これが山の中だったり、ジャングルだったりすれば居心地は悪いわ見とうしは悪いわで最悪です。

決められた時間になり私たちはまず南極方面を向き、それから左向け左をしてライフルを構え照準器をのぞきました。照準器のターゲットを見てライフルを構えていきます。

ターゲットとして二重線の正方形が見えてますが、いびつな形状を真四角にしようとすると自然と銃身が目論んだ方向に向くようになってます。

おそらく銃身の向きは真東で、水平から45度の角度に傾けたと考えられました。このとき照準器には空だけが見えてましたが2つ目のターゲットである二重線の円が現れました。

マニュアルではこれから30秒後にこの円が真ん中の十時線にピタリと重なるはずなのですが、それと同時に引き金を引くというというのが今回の仕事です。

私達は一斉に引き金を引きました。ある程度の衝撃がありました。8万5千人が一斉です。おそらく0.01秒のズレもなかったと思います。このためにスナイパーが募集されたと言っても過言ではありません。

まったく!こんなオイシイ仕事がこの世ににあるのでしょうか?時給どころか分給10万です。

ではなぜNASAはこんな仕事を私達にさせたのか。意外かもしれませんがこれは地球の自転速度を変えるという試みだったのです。

いままでは地球自転速度がどちらかというと遅くなる傾向で過去何回か『8:59:60』を『9:00』になる直前に加えてきたという事実がありました。これがうるう秒です。

ところが近年の調査では自転速度がわずか速くなってきており数年後には『8:59:59』を飛び越えて『8:59:58』から直接『9:00』にしなくてはならない公算が高まってきました。

ただでさえいままで1秒を追加するのにアプリが追いつかず大混乱を引き起こしてきたのに今度は1秒を取り去らねばなりません。すでに業界からはうるう秒反対運動が起こってました。〝いいじゃん!別に1秒早かろうが遅かろうが!〟そこでNASAが一肌脱いだ!こんな背景があったのです。

結果NASAは大成功を成し遂げ、一方で大失敗をおかしてしまいました。まず大成功のほうは計算通り見事に地球の自転速度が目論み通りになりました。大失敗のほうは担当者のつまらないミスで大惨事を引き起こしてしまいました。

さてビロウな話で恐縮なのですが、私はこのミッションの時、丁度自分との尿意とも戦っていました。ですがわずか数分我慢すればいいだけでした。私は引き金を引くだけのタスクを終えてからすぐに尿意を解放するために隊列を離れました。

私はこれで命を救われたのです。

私が所用を足そうと思ってる間に、隊列を構成していたスナイパーがバタバタ倒れてしまいました。そうです。それぞれが放った弾丸が放物線を描いて2km先のスナイパーの背中を射抜いてしまったのです。

助かったのは私のように何らかの理由で隊列を離れたもの、強風で弾道がずれたもの、配置に高低差のあったもの、危険に気づいてとっさに風上に身を翻したものだけでした。

これはNASAの担当官が、射撃後すぐ隊列を離れるようにとの指示を出し忘れていたことによるものでした。

この小さなミスのせいで、貴重な命が8万も失われてしまいました。

生き残ったものは怒り狂い早速NASAに対するテロを計画しました。スナイパーを怒らしてはいけません。

ところがここで急転直下の展開になります。

8万ものスナイパーを一済に失い、世界中で起きている紛争や戦争の継続が困難になったのです。停戦調停があちこちで交わされ世界から紛争や戦争が一時的にせよ無くなってしまったのです。

最近NASAが国連から表彰された真相はここにありました。ノーベル平和賞がNASAに贈られるかもしれないというこれまた最近の噂もあるぐらいです。

今度はそんなNASAをテロ攻撃するなんてもってのほかという風潮がスナイパーの間に広がりました。NASAはすんでのところで地獄と天国を経験しました。

どうでしょう?こうしてみると地球の自転の正常化と地球上の戦争撲滅!

誰かが書いたシナリオだとは思いませんか?

という『NASAの黒歴史』を説いて回っている生き残りの元スナイパーの私なのですが、誰も信じてくれなくてほとほと嫌になってしまったんです。荒唐無稽すぎる!というのが理由のようです。

仕方が無いのでいっそのことと思い、この話で昨年の『世界ほらっちょ選手権』に出場したところ見事グランプリに輝いてしまいました。

その実績をキャリアに、今や世界中の陰謀論のイベントに講演家として招かれる元スナイパーとなってしまいました。

もちろん演題は『NASAの栄光の裏の黒歴史を元スナイパーが暴露する!』です。

そのままやん!なんのひねりもないやん!

(2299文字)



最初から最後まで、ほらっちょな話なんですがそれでもなぜかリアリティを出そうとしてところどころリアルな事実が入ってます。

・赤道の長さ=40075km 水上の割合=78.7% ⇨ 陸の長さ≒8536km

(でも本当にスナイパー配置できる好条件の土地ってわずかだと思います)

・うるう秒:原子時計の系と実際の天文系とのずれを解消するために1秒を追加したり取り去ったりすること。これまで1997年から2012年までに5回追加されてますが、世の中のアプリが対応しきれてないというのは本当で大混乱を引き起こしていたらしいです。そのためうるう秒廃止運動も。2035年までに廃止が決まったそうです。

このお話がほらっちょ話としても破綻しているのはやはりスナイパーが後ろのスナイパーに撃たれるところです。いかにNASAが高性能のライフルを支給したとしても絶対に当たらないと思います。

一応弾の初速1000kmで考えてましたので逃げるのに2秒強あるはずなのですがそれこそ空気抵抗や刻々と変化する風などで当てる方が困難だと思います。逃げた方向に弾が飛んでくるということもあり得ますし。

またスナイパーだというのに背後に無関心すぎます。ゴルゴ13だとすれば絶対に参加しないはず。

こうして中途半端なほらっちょ話にしてしまった筆者ですが、もうすこし突き抜けたほらっちょ感が欲しかったです。

最後までおつきあい頂きありがとうございました。














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