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秋の空時計【毎週ショートショートnote】

仕掛っていたプロジェクトが上手くいった。

僕は都内の知る人ぞ知るオカルト系のセレクトショップに向かった。いつものように自分へのご褒美だ。

店内は様々な怪しげなものに満ちあふれている。物色していると面白そうな腕時計が目に入った。

「秋の空時計……変わりやすく気まぐれです!」

ポップの説明書きだった。デザインはGショックのスティングモデルにそっくりだ。すぐさま気に入ってしまい迷わず購入した。

この時計、一応電波時計でその表示もある。おおむね正確なのだが、ときどき気まぐれでとんでもない日時を表示する。それが面白かった。日常にちょっとしたサプライズだ。デートや商談の遅刻の言い訳にも重宝する。


さて、話は変るが遅くまで残業をして帰宅途中のあるときのこと。僕は人影もまばらな駅の階段を小走りに駆け上がっていた。

ゆっくりと登る若い女性の右側を追い抜こうとしたそのときだ。

突然その若い女性の動きが止まり、ぐらりと後ろに傾いてきた。

〝あぶないっ!〟

僕は追い抜きざまにその女性を左手で受け止めた。

気を失いかけていた。

僕はその女性を抱きかかえ階段を一気に上りきった。そして空きスペースに女性を座らせ様子をみた。

しばらくすると女性の意識がはっきりしてきた。

「大丈夫ですかっ?」

助けた事を理解していたようだ。

「ありがとうございます……」

女性が回復するのを待った。

「もう大丈夫です……」

女性のその言葉を聞いて僕はその場を後にした。

その帰り道、さっきの出来事についてしみじみと考えてみた。反射神経といい、咄嗟に女性を支えた筋力といい絶対に僕じゃなきゃ対応できない。

あのまま支えず後ろに倒れていたら長い階段を転げ落ち大怪我をしていただろう。

やはりあの場所あの時間に僕が通りかかった事に意味がある。

誰の采配なんだ?ひょっとして神様とか?

まあいい。とにかく良くやった。僕は再び自分にご褒美を出すことにした。

明日またあの怪しいショップに行ってみよう。今度買うのはあの「秋の空時計」のそばにあった「うわの空の時計」だ。実はこれもかなり気になっていた。まだあるといいが……


だが、それどころではなかった。

その次の日、僕は一夜にして有名人になっていた。

知らなかったのだが、実は昨日助けた若い女性はメジャーなアイドルグループの一員だったのだ。

そしてその一部始終を通りがかりの人に撮られていたようだ。SNSで女性を介抱する画像が拡散に拡散を重ね、とんでもないバズりかたをしていた。

僕はヒーローになった。いやただのヒーローではなかった。未来からアイドルを助けにきた未来人として有名になっていたのだ。

というのも拡散された画像をよくみると僕の腕時計は2075年の日時を表示していた。

まったく、面倒くさいことこの上ない。

これに懲りて「うわの空時計」は買わない事にした。

(1153文字)

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