お花屋さんの婚活
私の名前は菊池友美 28歳
お父さんの名前を1文字取って名付けてくれた。
父は地銀の行員。母は専業主婦をしている。
一人娘で育ち何不自由なく暮らしてこれた父と母に感謝だ。
私はその感謝を返したかった。
親孝行は多分出来ていない。私は未だ実家に住み続けてもいる。パラサイトシングル いつだか習ったそんな言葉が呪いのように降りかかるのだ。
子供の頃、憧れて想像していたものがある。
自分の苗字が変わり好きな人の苗字になること。
もうひとつはお花屋さんになった自分だ。
私は大学を卒業後お花屋さんに就職した。
女の子の花形の職業かもしれない。けど実際は体力仕事が多いのだ。
お花を扱う綺麗な絵面は朝も早く冬は寒くて冷たい、厳しい現実によって支えられている。
就職して6年目の私は店長という立場で百貨店の中の店舗で働いてる。
職場には女性ばかり、百貨店の売り子も女性が多いのだ。数少ない男性は年上の薬指に指輪をしてる人ばかり。
28歳になるまで恋をしてこなかったわけじゃない。
それなりに経験をしてきた。酸いも甘いも経験をして私は次に進めなくなっているのだ。
でもいつまでもそういうわけにいかない。
もうすぐ父親も還暦になる。安心させることが最大の親孝行になるのだ。
大学4年生の夏、一つ上の先輩から花火大会に誘われた。
あの日からすべてが初めてで、毎日がキラキラしていた。
でもその「甘い」恋は4年で「酸い」に変わった。
当たり前のように私たちは結婚ををするのだと思っていた。
そんな付き合って4年目の冬、突然ラインでフラれたのだ。
「とも、ごめん。別れてほしい。」
そうメッセージが入っていた。
私が茫然としていると、続けて追い打ちが来た。
「ほかに付き合っている人がいて、その人と結婚する。こんな終わり方でごめんよ。」
私は1回くらいの浮気は見過ごしてあげようとずっと思っていた。
だが私が浮気相手に成り下がっていたのだ。
ひとしきり涙を流し、彼への返信を考えた。
「そっか。話してくれてありがとう。その人と幸せになってね。」
怒るわけでも寂しさを見せるわけでもない、最後の最後まで私はかわいくなかった。
その日は全然寝つけなかった。
悲しさはもちろん、彼からの最後のラインを待っていたのかもしれない。
返信は来なかった。それどころか既読にすらならなかった。
もうブロックされているのかもしれない。
あの人からしたらラインをして もう終わり になっているのだ。
一方的な終わりを告げられてからもう2年だ。
私の恋心が消えた変わりに、トラウマだけが消えずに残っていた。
もしかしたらこのままずっと1人なのかもしれない。
結婚や出産という人生のイベントを私はせずに生きていくのか。
いや死んでいくのか、と悩み始めていた。
孤独死なんて言葉も浮かんでくるほどに、私はナイーブになっていた。
両親は私が盛大にフラれたことをなんとなく知っていて、恋人の話や結婚なんてワードを出さずにいてくれた。
かえってその優しさが時には辛く感じた。
身も心もボロボロの私でも自慢できるところが1つあった。
「ほんと、ともみさん髪の毛綺麗ですよね〜。」と職場の女の子たちがよく褒めてくれる。
髪の毛が細い代わりに、サラッとしていてストンと落ちている黒髪のロングは昔からだった。
だが女性は褒めてくれても、男性から褒めて貰えることはほぼない。
そんなある日、仕事中に髪を褒めてもらった。
20代後半ほどの男性で毎月お花を購入していかれるお客様だ。
もちろん褒めてもらったことは嬉しいが、その男性は今日も恋人らしき女性を連れているのだ。
「ほんとですね〜!お金かけてるんですか?」
と女性の方も反応をして、その後男性と会話は無かった。
翌月もその男性は花を買いに来た。
あ、という顔をしてお花の注文をしてくれた。顔を覚えてくれていた様だ。
私はこの時嬉しかった。
もちろん接客業としてだが、、。
ある日ひと月を待たずに花を男性が買いに来た。
「すいません。相談なんですけど…。」普段のカジュアルな格好ではなく、スーツ姿の彼は少し困った顔で話しかけてきた。
彼の勤め先で明日パーティーがあるらしくスタンド花が必要なのだが、担当者のミスで用意ができていないのだそうだ。
その仕事を承け、私たちは急ピッチで取り掛かった。
翌週 彼がお店に菓子折りを手にお礼をしにきてくれたのだがタイミングが合わず、私は居合わせることができなかった。
お店のみなさんで とフィナンシェをくださった。
それとは別に 店長さんに とマカロンまで置いて行ったのだ。
すぐさま、先日交換した名刺に電話をいれた。
「お菓子ありがとうございました。でもマカロンまでも頂けません!」
「いえいえ、おかげさまで本当に助かりました。菊池さんマカロンお嫌いでしたか?笑」
「あ、いや、そうではなくて。。。」
「僕の大好きなお店のお菓子なんです!またお花買いに行きますね!」
言葉に詰まって上手く返せなかった。
私の名前覚えててくれたんだ。
桐山伸二さんかぁ。
決まって桐山さんは月末の土曜日の午前中にお花を買いに来てくれていた。
これも決まって女性を連れて。
目鼻立ちのくっきりした綺麗な女性。
皆でフィナンシェを頂きながら、その話題になった。
「美人な人だよね。毎月買って行かれるけど彼女さんかな?」
「給料日のあと、彼女にでもお花をプレゼントしてるんじゃないですか~?」と後輩は軽い調子で答えていた。
月末の土曜日が来た。
しかし桐山さんは来ず、目鼻立ちくっきり美女だけが来店した。彼女も顔を覚えていてくれて気さくに話しかけてくれた。
「この間は伸二がお世話になったみたいで、、」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました。」
「今日は桐山さんいらっしゃらないんですね。よろしくお伝えくださいね。」
「時間の都合がつかないらしくて、この後会うので伝えときますね。」
私は先日の休みに、マカロンのお返しを1日いろいろな店舗を巡った結果 紅茶のセット にしていた。
「マカロンとフィナンシェの感想を伝えなきゃだもんね。」
「それに来月には会えるし。」
「まあ、紅茶のセットなんて重たいから美女に持たせるわけにいかないしね。」
”彼女に預けて渡してもらわなかった”言い訳をを探しながら私は帰路についた。
翌月私は紅茶のセットを手渡すことが出来た。
1ヶ月の間この日を待っていた。
桐山さん紅茶が好きらしくすごく喜んでくれた。
そんな楽しい雰囲気の中で2人が話をしてくれた。
近々2人は挙式を執り行う予定なのだそうだ。
私は必死に顔を作り店長としての姿に戻った。
やっぱり。。
考えたくはなかったけど恋人だったんだね。
目鼻立ちくっきり美女も 桐山さん になる。
私は1人で舞い上がり勝手に傷ついたのだ。
でも私は忘れていた高ぶりを、少しだけ思い出すことができた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?