新生チェルシーの通信簿

まえがき

 今季のチェルシーは随分と見ていて楽しく、一人のファンの思い出としても書き残しておきたくて書きました。
 開幕から通して見るようになって7,8年が経ちますが、個人的には最も思い出深いにシーズンになった気もしています。まだ熱が冷めていないからそう感じるだけかもしれませんが、良いチームだったと思います。良いチームによくぞなったものだと思います、本当に。

 以降の約35,000字(画像を用意する手間を嫌ったので全部文字)で今季のチェルシーの選手たちに対して書きたいことの半分くらいは書いてあると思います。残り半分は@9210_chelseaに書いてあります。多分。掘り返すのも面倒ですが。

 簡易なパフォーマンスデータだけtansfer markt(https://www.transfermarkt.jp/)調べで、採点はデータとか関係なくばっちり主観です。異論はQuerieにでも好きに言ってください。


 何はともあれ対戦よろしくお願いします。



GK

13 Marcus BETTINELLI マーカス・ベッティネリ

【パフォーマンスデータ】
 0試合0分 0クリーンシート

【センテンス】
 紛うことなきお守り枠であった。

【今季の経過】
 シーズン開幕当初はほとんどのプレータイムがサンチェスに任せられる予定で、加入後の3年間で公式戦1試合の出場に留まるベッティネリが2ndGKとして考えられていた。しかしながら、PSMを前に負傷離脱。
 ベンチに二人のGKが座ることも多かった今季であるが、日によってはベンチ外もしばしばであった。

【ハイライトゲーム】 PL第18節 Aウルブズ戦
 いつの間にか抗議でイエローカードを獲得。チーム内で存在感を見せたのはその一瞬であった。

【採点】採点不能
 選手としての仕事が求められるタイミングはほとんどなかったことに尽きる。

【来季の立ち位置】
 チームでは古株となっている中で公式戦の出場は1試合に留まっている彼だが、HGで、給与も安く、家も実家も近所と3rdGKには打ってつけの人材である。23年春には現フロント下での新契約も結んでおり、しばらくは彼の気持ち次第で去就が決まるであろう。


1 Robert SANCHEZ ロベルト・サンチェス

【パフォーマンスデータ】
 21試合1,884分 5クリーンシート

【センテンス】 
 強みは十分に見せられた。弱みも見せつけてしまった。

【シーズンの経過】
 ブライトンでデゼルビと折り合わない彼にも十分な能力があると評価したチェルシーが獲得。今季の守護神候補としてPSM後にチームへ合流した。
 初めの数試合こそ試合勘の無さも見られたが徐々にギアを上げるとまずまずのレベルで安定。9月頃からは毎試合のビッグセーブも披露して落ち着かない試合を最後までつなぎ留めていた。
 そんな彼がサポーターから向けられる目を変えてしまったのはアーセナル戦のミスだろう。これまでも致命的なカウンターに繋がるパスミスを毎試合見せていたサンチェスだったが、重要な試合でついに失点へと繋げてしまい、掴みかけた勝ち点3を取りこぼす結果に。そこからはビッグセーブがあってもほぼ毎試合で不安定さを指摘される格好となり、そのまま12月に膝の負傷を負うことで離脱した。
 復帰後もペトロヴィッチに優先されることはなく、すぐに再負傷。実質的な戦力外となった昨季ほどでなくとも、不本意なシーズンのままとなってしまった。

【ハイライトゲーム】PL第10節 Hブレントフォード戦
 オチから話せば、最高時速35㎞を超える俊足を見せつけた試合である。
 とはいえこの試合、チェルシーがチーム全体として拙い試合をしており、前半の決め切れない展開から後半の攻め込まれる展開という今季序盤のチェルシーらしい試合運びを存分に見せつけていた。その中でサンチェスは後半に受けた猛攻を最少失点に抑え切っており、最後の失点を大きく責める理由は見当たらなかった。

【採点】65点
 仕事ぶりは決して悪くはなかった。巨体を素早く伸ばせるダイナミックなセービングや敵陣深くまで蹴り込めるキック力などは際立っていたし、ハイボールのキャッチなどでも存在感を示している。
 とはいえ、自陣の深いところでターンオーバーを生むパスミスはそれ以上に悪目立ちし、失点に直結した数こそ少なかったとはいえ、ほぼ毎試合でチームの流れを淀ませていたことも確かだ。セービングや飛び出しの面でも安定感には欠ける部分があり、与えられたとしても及第点程度だろう。

【来季の立ち位置】
 2ndGKの立場に置かれることとなれば、レンタルなどの選択肢を含めて来季の舞台がチェルシー以外になる可能性はある。というのも、試合勘の無さがプレーによく現れるタイプであり、2ndGKとして彼を運用するのはあまり好ましくないようにも見える。まずはコンディションを整え、プレシーズンで能力とポテンシャルの高さを発揮し、再びファーストチョイスの座を確保できるかが大きな分かれ目になってくるだろう。
 ポテンシャルは特大でGKとしてはまだ若く、未だチェルシーではキャリアの中でのトップパフォーマンスも見せていないだけに、来季の活躍に期待する余地は十分にある。中盤に付けるミドルパスにある弱みを隠し、彼の特長であるロングレンジのパスを組み込んだサッカーを実現できれば、チームも一つステージを上げられるはずだ。


28 Djordje PETROVIC ジョルジェ・ペトロヴィッチ

【パフォーマンスデータ】
 31試合2,736分 7クリーンシート

【センテンス】 
 ベストバイではないかもしれないが、チェルシーは良い買い物をした。

【シーズンの経過】
 ベッティネリの負傷を受けてシーズン開幕後に急遽リストアップされた彼は、明確な2ndGKとしての待遇を受け入れてアメリカからやってきた。2ndGKとはいっても今季はGKはサンチェスを中心にチーム構成が計画されており、シーズン序盤は下位リーグ相手のカップ戦や、サンチェスへの批判が特に強まった時期であっても出場機会を与えられていなかった。彼のようやくの初出場は12月、そのサンチェスが負傷交代を余儀なくされた試合からだった。
 それからのペトロヴィッチはどの試合でも大きなミスのない堅実で安定したプレーを披露し、サンチェスの復帰後も守護神の座を確保。蓋を開けてみればサンチェスより長い時間ゴールマウスを守り続けている。大きなステップを踏んだ先で、充実した時間を過ごした実感がきっとあるだろう。

【ハイライトゲーム】カラバオカップ準々決勝 ニューカッスル戦
 初先発を果たした直前のリーグ戦でも仕事は少なく、ほとんどのチェルシーサポーターが彼のプレーぶりを知らない時期だった。この試合でも彼は(今思えば彼らしい)90分を通したまずまずのプレーぶりを披露。
 ハイライトはその後のPK戦で、相手四人目リッチーのPKを躍動感ある横っ飛びでストップしたシーンだろう。ホームのサポーターに対する最高の挨拶にしてみせた。

【採点】79点
 大きなミスも無ければ派手さも無く、空中戦の対応やパス回し、キックレンジの面では粗が無くともできることが限られて、相手から狙われるシーンも見受けられた。
 それでも彼はGKとしての基本に忠実に、失点から逃れることを優先した判断をきちんと選び、チームの流れを切らさなかった。自信を持っていたはずのキャッチングでのエラーでもその次の試合からより安全な判断に修正されていたのは反省を生かし、成長を目指している証拠だろう。補強当初の期待値も鑑みれば十分によくやった選手だ。

【来季の立ち位置】
 彼が放出される状況は余程GKの補強事情がゴタゴタとしない限り考えにくい。ただ、来季の目標になるだろうCL権の獲得を達成するとなると守護神としての能力はギリギリである。
 チームが近い将来に辿り着こうと目指す場所を考えれば、今の彼では2ndGKが適切なレベルであることも現状の認識として相違ないだろう。強みにならないパスや空中戦は水準ギリギリというところであるし、毎試合で複数失点を許すセービングもあと一つか二つレベルを上げていかなければならない。
 来季に限ってもサンチェスの逆転も十分にあり得るし、新たな正守護神候補の加入もあり得るところだ。とはいえ、パフォーマンスが安定していて、PKも得意で、給与も安い。2ndGKとしては申し分のない存在であることは確かである。


CB

33 Wesley FOFANA ウェズレイ・フォファナ

【パフォーマンスデータ】
 0試合0分 0G0A
【センテンス】
 来年こそは。

【今季の経過】
 アメリカツアー前の怪我により負傷者リストの皆勤賞であった。

【評価】採点不能
 ポテンシャルは天にも届くところであるが、稼働しないことにはどうにもならない。

【来季の立ち位置】
 22年夏の加入であるため長期契約を結んでいても現行のフロントが目指す給与体系から外れている。放出も十分念頭に置かれるだろう。しかし、ポテンシャルに評価を与えた移籍金によって、西南西の方を向いて深々と頭を下げたとしても買い手が付く可能性は低い。
 となれば、来季にコンディションを整えてようやく処遇を考えることになるだろう。怪我前の姿を取り戻すことができれば断然の主力として考えられる能力の持ち主であることを忘れてはいけない。


_Malang SARR マラング・サール

【パフォーマンスデータ】
 0試合0分 0G0A

【センテンス】
 愛され続けて丸4年。

【今季の経過】
 完全な構想外であったが夏の市場では音沙汰なく、リーグへの登録がないまま残留。冬にフランスへの移籍が取りざたされるも諸条件で折り合わず頓挫している。

【ハイライトシーン】
 オーバーエイジもいくらか許されるU21でもなくU18と練習していることがロアッソ熊本の公式動画にて発覚した。

【評価】採点せず
 折に触れて話題にし続けた彼の名前を挙げるのも最後になるかもしれないので名前を書き残すことを目的とする。

【来季の立ち位置】
 昨季まではチアゴシウバ以上の高給取りで、今もギャラガーの倍近い給与を与えられている。契約は残り1年あり、上手く運用していればそろそろクビでない方のFIREもできそうだ。


14 Trevoh CHALOBAH トレヴォ・チャロバー

【パフォーマンスデータ】
 17試合1,227分 1G0A

【センテンス】 
 積み重ねていた経験を力に変えていた。

【シーズンの経過】
 昨シーズンには右SBとしての仕事も見せ、PSMではキャプテンマークさえ巻いていたが、アメリカから帰国してみればいつの間にやら負傷。夏にはあのバイエルン・ミュンヘンからの興味が明確に示され、ノッティンガム・フォレストからは€20m近いオファーがあったものの残留を決断。その後も完全な放出候補と目されていたが、冬の市場を怪我からの復帰の兆しを見せないままやり過ごし、2月からあっさりと再登板してみせた。
 当初は特に大きな期待はされていなかった彼の復帰であるが、クラブワールドカップで世界王者になったチームのサバイバーとして経験さえ感じさせるプレーを随所に発揮。最終的に、今季出場した試合ではリヴァプール、マンチェスター・シティ、アーセナル以外に敗北を喫することはなく、勝ち星を重ねた最終盤には主力としてシーズンを締めくくっている。

【ハイライトゲーム】PL第26節延期分 Hトッテナム戦 
 コブハム育ちのトレヴォ・チャロバーが担う役割はチームの穴埋めを行うことだという認識のファンが多かったはずだ。おそらく一昨シーズンのトップチームデビューからずっとそうだった。
 この日はディサシもチアゴ・シウバも負傷していよいよ大穴の開いたバックラインをリーダーとして締め切る役割まで担うこととなった。そこでの彼の回答はセットプレーからの先制点と、攻守にソツのない冷静な判断によって導いたクリーンシート。成熟を見せた試合となった。

【採点】74点
 ユーティリティ性も兼ね備えており、前半戦からゲームに絡むことができていれば選手個人としての評価をより高められただろうという実感がある。ミスの少なくなった裏へのボールやドリブルへの対応、元より得意にしていた迎撃守備に加えて、スペースに過不足ない強さで送り出すゴロでのフィードも冴えていた。

【来季の立ち位置】 
 俯瞰して見れば放出候補の筆頭である。おおよそ同じエリアをカバーするディサシとフォファナは売りづらく、補強されるCBもおそらく右利きだと思われる。
 それでもシーズンを振り返ってみれば来季にも残る顔ぶれでDFリーダーとしての実績を少しでも見せたのは彼ぐらいのものであって、生き残る道はそこにあるだろうか。もっとも、長期契約を既に結んでいるからやろうと思えば残留を主張することができるし、それを否定的に捉える者の数は少ないだろう。


5 Benoit BADIASHILE ブノワ・バディアシル

【パフォーマンスデータ】
 22試合1,666分 1G1A

【センテンス】
 最後には間に合わせてみせた。

【シーズンの経過】
 昨冬にチームへ加入するとチアゴシウバの隣で即座にプレミアリーグにも適応し、美しい左足のパスと守備の読みで上々のデビューとしていった。しかし、コルウィルとのスタメン争いが予想された今季はプレシーズン以前の負傷により復帰が遅れ、11月のカラバオカップでようやく初登場となっている。
 復帰後しばらくは高さでの貢献も見せ、元より持ち合わせるフィジカル的な頼りなさを披露する場面はあったものの、なんとか見るに堪えるプレーに纏め切っていた。
 しかし鼠径部の違和感で年末から再離脱。2月に復帰してみるとしばらくはパフォーマンスを大きく落とし、ネット上では今冬にあったらしい移籍話を蒸し返されることにもなった。
 それでも、4月下旬ごろからは彼らしい動きが連続する復調した姿を見せ、怪我のため選択肢が少なかったとはいえ、スタメンとしてチームの連勝を支えることができていた。

【ハイライトゲーム】 PL第35節 Aアストン・ヴィラ戦 
 あのプッシングが取られていなければ、と思うところだが終わったことなので仕方がない。直近のパフォーマンスが余りに低調だったためあれこれと言われていた中で迎えたゲームだったが、チームとして形を変え、昨年の良い時期に組んだチアゴシウバが隣に配置されことで彼らしい動きを取り戻すことができている。
 この試合の後半から採用された325のシステムによるチームのバウンスバックと共に、彼自身の復調を明確にした試合だった。

【採点】64点
 連勝への貢献がなければ不可と評価できるシーズンでもあったはずだ。離脱期間は長く、互いに能動的な守備を得意とする中で、モナコで共にプレーしたはずのディサシとは相性の悪さが目立ち、それも相まって酷いパフォーマンスを数試合に渡って見せ続けた。
 それでも可とするのは自身の持ち味を生かすクリーンなインターセプトや左足での長短のパスで勝ち点15を一気に積み上げるのに確かな貢献を見せたからだ。

【来季の立ち位置】
 €38mの仕入れ値をフロントがどう判断するか、とてつもなく微妙なところである。絶対的な存在になれたシーズンではなかったし、チームには仕入れ値が0円でも売らないと判断されたコルウィルが居る。おそらくこの夏には去就がやや騒がしくなり、前述したチャロバーとの天秤にかけられることもあるだろう。まだ若く、トップリーグで一定の活躍は見せられている大型の左利きCBは貴重で、値段を気にしなければそれなりの数のオファーが届くはずだ。
 もしチーム残れば、アジリティの不安を隠すためにも、チームを最後方から支えられる役割が求められてくるだろうか。


26 Levi COLWILL リーヴァイ・コルウィル

【パフォーマンスデータ】
 32試合2,433分 1G1A

【センテンス】
 雌伏の時となっただろうか。

【シーズンの経過】
 23年冬からのチームの大補強もあり、去就が騒がしくなった昨夏だったが、優勝を持ち帰ったU21欧州選手権後に(マドゥエケに肩を組まれて残留宣言された時は困った顔をしながらも)長期契約を締結して主力としてシーズンイン。
 PSMでは昨季のブライトンで選手としての評価を上げたCBとして起用され上々のプレーを見せるも、リーグでは早々から左SBを任せられてファンの間で物議を醸されることとなった。
 しっかりとしたボールタッチと鋭いキックをもって任せられた役割には適応を進めていたが、攻守の機動力はどうしても足りないものを見せ、オープンスペースでのドリブル対応などでいくつかの失点に関与してしまったのも確かだ。
 中盤戦からはCBとしてのプレーも増えたが、終盤に差し掛かった3月からは序盤の疲労も祟ったのか怪我で離脱し、復帰を果たすことなくシーズンを終えている。

【ハイライトゲーム】 PL第10節 Hブレントフォード戦
 再びの負け試合であるが、ブライトンで掴んだCBとしての価値を改めて示した試合。前節でククレジャが躍動したこともあって続けて本来のポジションを与えられたこの試合では、水を得た魚のように的確な持ち運びとパス捌き、そして果敢な前進守備と読みを見せた対応で拙攻に喘いだゲームを繋いだ。

【採点】71点
 はっきり言ってしまえば、才能を世に示した昨季とは充実度の劣るシーズンになっただろう。ギャラガーにSB起用をからかわれた反応を見ても、起用法などに納得は行っていないはずだ。
 それでも及第点とするのは弱冠二十歳にしてミスの少ないプレーを続けた確かな技術とインテリジェンス、そして落ち着いたメンタリティ故である。
 ただ、CB起用においても絶対的な価値を見せられたかと言われればそこまでではなく、空中戦の判断や寄せの厳しさ、DFラインの統率など、純粋な対応力はまだ途上にあるところだった。
 
【来季の立ち位置】
 市場に出せば買い手は付く。フロントが行っている諸々の処置がリーグやUEFAに認められず、帳簿の作成が急務ということになれば、彼の身が送り出されることになるやもしれないが、積極的な放出については今日まで一度も論じられているところではない。来季は左のCBとして一番手と目しておいて問題は無いだろう。
 元より年齢不相応な纏まったプレーを見せるところも目立った彼にとって、勝手の違うSBとしてプレーした経験は無駄にならないはずでもあるし、チームが今季の最終盤に近いやり方を踏襲するならば、早々に白羽の矢が立つことになるだろう。いずれにせよ、まずは停滞したステップを進め、チームに不可欠な存在となることからだ。
 ただ、チームの負傷禍もあって慣れないSBでの仕事をしながら週中のカラバオカップにも全試合出場するという過酷な労働環境に置かれたのが離脱の一因であるように思えるから、来季はプレータイムやプレースタイルを気にすることにはなりそうだ。


6 Thiago SILVA チアゴ・シウバ

【パフォーマンスデータ】
 38試合3,016分 4G1A

【センテンス】
 集大成にはならなかったかもしれない。それでも、流石だった。

【シーズンの経過】
 チームとしてはもう何度繰り返したか分からない、今季こそはチアゴシウバへの依存から脱出しようというシーズンであったが、リーグ戦は第15節まで全試合でスタメンフル出場。
 軽率に見える前進守備の判断があったり、空中戦のターゲットにもされたりと衰えを隠せない場面もあったが、チームで最も信頼の置けるCBとして振る舞い続けた。中二日で迎えた16節こそベンチで完全休養となったが、その後もスタメンとして出場してばかりであり、彼をベンチに置いてプレーできるようになったのはようやく、3月からのことであった。
 とはいえ退団を表明した後の最終盤にはスタメンにも舞い戻り、自身のチェルシーでの時間を白星で締めくくっている。
 
【ハイライトゲーム】PL第36節 Hウエストハム戦 
 退団表明後初の試合となったこちらをピックアップ。直前のスパーズ戦を負傷欠場しており、怪我を押しての出場かと思われた。しかしながらパーマーと通じ合ったポケットへの抜け出しを披露するわ、ギャラガーの無茶ぶりバックパスを美しすぎるダイレクトパスで得点の起点になるわ、キレのある動きでCKをファーで合わせてアシストするわの大立ち回り。
 やはりチアゴシウバは凄まじい選手だと感服する他なかった。

【採点】83点
 結局3,000分も与えられたプレータイムの中で一定以上のパフォーマンスを供給し続けた脅威の39歳であったが、衰え知らずというのはむしろこれまでのチアゴシウバに失礼に当たる気もするところ。特に四点を奪い合ったシティ戦後の疲れ切った表情と、加入後に覚えがないような弱音には感じるものがあった。
 プレーに焦点を当てれば、ポチェッティーノ政権下ではこれまで行われてきた守備範囲の制限も取り払われ、フィジカルフルなリーグのFWたちと直接相対することも多く、苦しみさえ感じるシーズンであった。ボール保持の面でも彼の特長が最も生きる押し込む展開は少なくなり、忙しなさが拭えなかったゲーム運びの中でハイライトとして思い当たるシーンは数少ない。
 それでも要所を締めるクロス対応や気の利きすぎた保持時のポジショニング、そして誰よりも上等なCKのヘッダーでチームに貢献し、最後まで一流としての背中を見せ続けた。

退団によせて
 兎にも角にも、四年間の貢献に最大限の感謝を送りたい。欧州の頂点に立った瞬間からチームとして泥にまみれるシーズンまでを共にしたが、立派なレジェンドとして送り出せることが何より光栄だ。新しい旅路に祝福を。そしてまた、必ずロンドンでお会いしましょう。
 後継者とか居ないわけで、来年どうなるやら。


2 Axel DISASI アクセル・ディサシ

【パフォーマンスデータ】
 44試合3,690分 3G0A

【センテンス】
 獲得の是非はプレータイムが物語っている。

【シーズンの経過】
 ウェズレイ・フォファナが再びの大怪我を負ったことで獲得されたフランス代表DFは、フロントの掲げた25歳ルールにこそ当てはまれど、同じような金額で獲得してきた他のプレイヤーに比べればより即戦力に近い選手として認識されていたはずだ。思惑としてはおそらく、今季はチアゴシウバのプレータイムを管理し、来季はフォファナの復帰までの穴埋めとして稼働させ、その後はベンチに移行するような準主力として睨む補強であったはずだ。
 というのは空想上のお話。結局、怪我人ばかりのチームでシーズンの終盤まで稼働した彼は、最終ラインの選手としては最長、チームでも三番目のプレータイムを築くこととなった。
 9月ごろまではミスが目立って批判を受けることもしばしばであったが、CB、右SBとして連勤を重ねている。
 2月頃のハイパフォーマンスで風当たりを変えただろうか。ブレントフォード戦の同点弾などを含め、リーグを9戦無敗で過ごした期間においてはチームのキープレイヤーの一人として数えて良かったはずだ。

【ハイライトゲーム】 PL第25節 Aマンチェスター・シティ戦
 1月末のミドルズブラ戦でゴールを決めてから徐々に調子を上げていたディサシが加入後最高のモンスターパフォーマンスを披露。持ち前のフィジカルで相手のモンスターとぶつかり合いながら、低く狭いところからでも前線から下りてくるジャクソンにタイミングよく何度も差し込み、カウンターの流れを生み出した。

【採点】77点
 まずは何より、苦しい時期に休まず試合に出場し続けたことを評価したい。あまり得意とは言えないだろう右SBのポジションで、あまり得意ではないはずの役割を渡されてしまう場面も少なくなかった。ドリブル突破を狙わなければならないシーンには頭を抱えさせられたのを筆者も記憶している。
 全体のプレーぶりとしてはまずまずといったところだ。ロングボールへの空中戦や狭い空間からでも遠くに差し込めるインサイドでの楔のパス、存外にこまめな保持時の動き直し良かったが、クロス対応や対人でのアジリティ、保持時のポジショニングや選択肢の持ち方には粗も見せていた。

【来季の立ち位置】
 そもそも来季も含めたバックアップを想定していた選手であろうし、まずまずの働きを見せたし、€45mの買値は高いし、予定されているCBの獲得があっても放出の可能性は低そうだ。
 フォファナの復帰も見込まれる来季はスタメン争いとなるが、試合展開こそ向き不向きがあるが、安定した空中戦と低い位置からのボール出しでも武器を見せられる彼を重宝することは十分に考えられる。
 26歳を迎える年であっても残るCB陣では最年長になるから、持ち前のパッションを周りに波及させながら、DFリーダーとして信頼を得られるかが来季の鍵にもなりそうだ。


SB

29 Ian MAATSEN イアン・マートセン

【パフォーマンスデータ】
 15試合376分 0G0A  ※チェルシーでの出場に限る

【センテンス】
 大きな決断を正解にしようとしている。

【今季の経過】
 二部を圧倒的な強さで制したバーンリーで名を上げ、PSMでは二列目の選手として得点にも絡みポリパレントに活躍していたが、帳簿上での利益を欲するフロントからすれば一貫して売却ターゲットの一人であった。しかし、€30mを超えるとされた元レンタル先からのオファーも、おそらく自身のキャリアのために同意せず残留。前半戦はベンチから出場機会を窺うこととなり、リーグではやはり二列目からのクローザー的役割に終始した。
 左SBとしてスタメンしなかったことはやるせなさを感じるサポーターも多かっただろうが、そこは練習で見せるプレー選択の面や身長などがポチェッティーノに懸念されたか、もしくはそれ以上に二列目での適性が信じられていたというところだろう。実際、これまでのキャリアでは様々なポジションを経験してきたというし、派手なプレーこそなかったものの、タイミングよくボールを引き取ったり、絶妙な力加減のパスを送り込んだり、空いたスペースに走り込んだりと地味ながら気の利く働きを見せていた。
 最終的には冬にドルトムントへ買取オプション付きのレンタル移籍。左SBとしてスタメンを任せられると、チームのCL決勝進出にも貢献している。
 
【ハイライトゲーム】 カラバオカップ2回戦 ブライトン戦
 右WGとして出場した試合であったが、右SBに配置されたククレジャと共に三笘を止める役割を任されて、丁寧にやり遂げた。カウンターの起点となる中距離のパスも披露されており、彼の器用さが存分に発揮された試合でもあっただろう。

【採点】70点
 試合に出てみれば大きな武器とはならずとも賢さと丁寧さを見せており、咎められるところはほとんどなかった。

【来季の立ち位置】
 左SBの主軸として起用したドルトムントが€40m近い買取オプションを行使できるか否かが鍵になる。とはいえサイズ面などに不安もあるSBには少々高額であると思われるので、おそらく行使はされないか。
 クラブ間で値引き交渉が行われ、チェルシーとしての最低ラインはおそらく、23夏にバーンリーとクラブ間合意を果たすも回収し損ねた€32mあたりとなるだろう。交渉がもつれればプレシーズンにはチェルシーに合流して、他クラブを巻き込んだ競売にかけられる可能性も大いにある。


42 Alfie GILCHRIST アルフィー・ギルクリスト

【パフォーマンスデータ】
 17試合427分 1G0A

【センテンス】
 受け継がれてきた、確かな青い血が流れていた。

【今季の立ち位置】
 DFラインに怪我人が続出したため、シーズン序盤から断続的にベンチ入りしていた。
 本職はCBのU21チームキャプテンが年末からいよいよ窮まったチームのクローザーに選ばれたのは、SBとして十分な水準に達していたパワーやアジリティと、高い忠誠心からくる勤勉さが信頼されたからだろう。
 見た目通りの実直さ溢れるプレーは結局最後まで大きな歪みを見せることなく、数百分の出場時間でも初めてのシニアチームとしての期間を過ごし切った。

【ハイライトゲーム】 PL第33節 Hエヴァートン戦
 たった数分の出場であったが、彼にとっては夢のような瞬間になった。チルウェルのシュートのこぼれ球にチェルシーのSBらしく顔を出して、振り抜き、叩きつけた右足のシュートは実に見事だった。
 
【採点】70点
 期待値を考えれば最大限の働きを見せたとも言えるかもしれない。リスクを取らない選択や柔軟性に物足りなさは当然あっても、与えられた仕事を目一杯にやり遂げて見せた。
 
【来季の立ち位置】
 少なくともチェルシーにおいてU21チームのキャプテンというのは難しい立場だ。国内を見回した立ち位置で言えばエリートの一員かもしれないが、これまで下部リーグへのレンタル移籍も経験してこなかった彼は、主力として活躍したコルウィルや、ドイツで躍動するムシアラと同世代であり、そのキャリアには大きな開きがある。
 来季はおそらくローンで下部リーグに回るか、買い手次第では完全移籍での放出が見込まれるだろう。
 チェルシーとは26年夏までの契約を結んでいる彼がこれから歩む道のりに、同じくチェルシーを愛する一人として最大限の幸福を祈りたい。願わくばいつか、再会できることも。


24 Reece JAMES リース・ジェームズ

【パフォーマンスデータ】
 11試合482分 0G2A

【センテンス】
 やってしまった。

【今季の経過】
 チームの改革が進み、旧時代と新時代の統合を象徴するプレイヤーとしてキャプテンに任命されたシーズンだったが、結果としては散々である。
 昨季終盤の負傷から復帰して、ポジショニングも放棄したゆるりとしたプレーで感覚を掴みにかかったPSMから、開幕戦で一気にトップギアを入れてしまって同じハムストリングを受傷。保存療法を選択して二か月後に復帰し、時間制限をかけながらビッグマッチで実力を証明するも、突き放されてフラストレーションを溜めたAニューカッスル戦で不要なイエローカードを貰って退場処分となった。さらに畳みかけるようにその出場停止明け二試合目で同じ箇所を負傷し、やむなく手術の決断に至った。
 これで全休かとも薄々思われていたが、チームが波に乗った最終盤に復帰。Aフォレスト戦では一瞬で試合をひっくり返す彼本来の凄みを存分に見せつけシーズン終了に弾みを付けた。かと思いきや、続くAブライトン戦で報復行為によるレッドカードを受け取ってシーズンを早退。二度目の退場ということで来季3試合の遅刻も同時に決定している。
 書き並べてみると本当に酷い。

【ハイライトゲーム】PL第37節 Aノッティンガム・フォレスト戦
 たった10分少々の出場で全てをひっくり返した。あの力こそがリース・ジェームズの持ちうるものであると、シーズンを通して失望していたファンにも再び突き付ける試合となっただろう。

【採点】55点
 どれほど印象的な仕事があろうとも、チームに空けた穴は大きすぎるため落第点である。来季はさしずめ再試験といったところだろうか。
 
【来季の立ち位置】
 キャプテンを継続しているかさえ怪しいが、怪我の間も相当にチームに働きかけていたようではあるから、進退の問われる一年と位置付けられるだろうか。
 彼のチームへの責任感と右サイド全域で効果的にプレーできてしまう能力があるからこそ、縦100m全てをカバーするには重すぎる身体を支える足に来てしまうようにも見える。
 11試合しかプレーせず、一試合での最長出場時間が77分の選手がキャプテンかつDFラインの最高給取りであっていいはずがなく、コンディション管理はもちろん、ピッチ上での制限も含めて、最適な運用が求められるだろう。


21 Ben CHILWELL ベン・チルウェル

【パフォーマンスデータ】
 21試合1,172分 0G1A

【センテンス】
 シーズンノーゴールが結論を物語るところか。

【今季の経過】 
 今季はWG陣の守備がなかなか計算できなかった序盤のチームで、本職とは異なる左のサイドハーフを任されていた。ポチェッティーノの採用基準としては納得もあったがチームの結果も伴わず、ファンの間ではやはり疑問符が飛び交った。それからピッチ上で答えを見せられないまま、10月頭の負傷によって年明けまで離脱を余儀なくされている。
 復帰したシーズン中盤戦は左SBとしてプレーをしながら時折、かつてから考えればずいぶん上達したクロスを上げていたが、WGとの呼吸もなかなか合わず、そこまでか。
 その後に一度復帰するも再離脱し、シーズンアウト。なかなか良いところなく、苦しめられる一年であった。 

【ハイライトゲーム】 PL第1節 Hリヴァプール戦
 左WBとしてスタメンをしながら従来以上に前目のプレーが目立ち、ワントップのジャクソンの動きに呼応して最前線に走り込む仕事も任せられていた。右サイドからのクロスに飛び込むことや中盤のスライドに合わせてバイタルを埋めていたことも見ると、その後正式に披露される左サイドハーフでの出場と言っても良かったのだろう。後半からはトップ下のチュクエメカとの連携も見せ始めていた。
 この日、CKのこぼれ球をヘディングで押し戻したアシストが今季唯一の正式な得点関与であった。

【採点】52点
 キャプテンと共に非常に苦しいシーズンとした。出場時間は1,000分少々と、大怪我から復帰した昨季よりさらに半減。起用のミスマッチもあったとはいえ、得点はゼロ、アシストは1。主軸として期待された副キャプテンとしてはあまりにも寂しいシーズンである。

【来季の立ち位置】
 四シーズン目を終え、左SBとした漠然とした括りではククレジャが多彩な役回りをこなして重要なピースを担ったこともあり、補強と買い手、戦略次第では売却が視野に入ってしまうだろうか。彼もまた、高給取りの一人である。
 光明としてはピッチの左側を起点にプレーすることの多いエンクンクのフィットで、エースにも目される彼の運用を考える上では最も考慮されるべき一人である。現状、左側で大外からスピ-ドのあるクロスを入れられる選手は限られているし、怪我を乗り越えれば再び主軸として輝く可能性は十分にある。


3 Marc CUCURELLA マルク・ククレジャ

【パフォーマンスデータ】
 26試合2,233分 1G2A

【センテンス】
 冷遇を受けようとも、絶やさぬ熱を放っていた。

【今季の経過】
 後述するが、シーズンの始動した夏には放出が画策されており、序盤はチームから完全に干されていた。それでもSB陣の重なる負傷でカラバオカップから出場機会を掴むことになり、求められるままに右サイドでも対人戦に奔走。ビッグマッチが続いた10月から11月にかけては本職の左SBとして相手の強力なWGを文字通りに迎え撃って、激戦の原動力となった。
 中盤戦は失点にも絡んだりしてしまいながら、足首を負傷。手術と長期離脱を余儀なくされてしまったが、負傷者の重なった3月に復帰するとそこからは元気にスタメンフル出場。
 そして35節Aアストン・ヴィラ戦の後半以降はボランチの位置に立ってカイセドを助け、的確な立ち位置とボールコントロール、きちんとしたターンで前線への中継点を作り出しながら、誰よりも鋭い読みと勢いでこぼれ球を拾い続ける獅子奮迅の働きで終盤の追い込みに多大な貢献を果たした。

【ハイライトゲーム】PL9節 Hアーセナル戦 
 後半戦に見せた全試合MOM級の精力的な働きも多くを語りたいが、彼がチームでポジションを掴みとることとなったこの試合を選ぶ。昨季まではカットインと縦突破の二択を持つ左利きのWGに対して遅れを取ることも多かった選手だったが、この日は相手のキープレイヤーであるブカヨ・サカに対して執拗なまでに近い距離でプレーし続けて常に後ろ向きでのプレーを迫った。
 最後にはサカがカットインシュートを決めているが、あれはチェルシーとして足が止まった中で守備のやり方を変え、サカがククレジャに与えられていたストレスから解放されてしまったという面が大きかったはずだ。

【採点】85点
 終わってみればずいぶん長い時間プレーすることとなっていた。それこそが勝ち取った信頼の証だろう。今季のチェルシーというチームを語る上で外すことのできない選手になったことは間違いない見事な活躍。及第点以上のシーズンにしたはずだ。

【来季の立ち位置】
 どれだけの功績があっても去就についてはまったくもって不透明である。
 23年の冬市場から移籍を司っているフロントの現体制は、22年の夏にククレジャにかけた金額と与えられている年俸を体系外の異物と見做しており、少なくとも23年の夏にはチームから取り除こうとしていた。
 決して攻守共に穴の無い選手ではないが、常に高い熱量で勤勉に働き回り、チームの構造に幅を持たせられることは今季見せた通りだ。来季にどのようなチームとなろうが、きちんと穴埋めのできる組み合わせで起用すれば、勝利への貢献は想像に容易い。
 欧州への切符を手に入れたチームがどのような判断を下すか、チャロバーやギャラガーと並んでリトマス紙となる選手の一人である。


27 Malo GUSTO マロ・ギュスト

【パフォーマンスデータ】
 37試合2,475分 0G9A

【センテンス】
 若武者は確かに響く名乗りを上げた。

【今季の経過】
 史上に残る移籍市場となった23年冬に加入を決め、今季からイングランドに上陸。攻撃的な右SBとしての評判が高かったが、PLの中上位クラブと戦ったPSMから際立つ対人能力を見せていた。
 加入当初はジェームズにスタメンを渡すものだと目されていたが、彼の負傷もあってシーズン序盤から重要な役割を担っている。
 軽快な守備とプレー位置を問わないボールタッチは安定していて、チームに前向きなリズムを与えていた。今季に最も負けが込んだ時期は、ちょうど彼の離脱時期とも重なっている。
 復帰後からは、右WGとして定位置を掴んでいたパーマーとの連携も向上していき、攻撃面でのパフォーマンスを上げていく。大外で一対一の状況から上げるクロスの成功率を高め、長いボールの持ち運びでも凄みを発揮する試合が増えていき、自信のキャリアの中で大きなステップを踏んだシーズンとなっただろう。

【ハイライトゲーム】 PL27節Aブレントフォード戦
 二失点に甘く絡んでいるのを見逃してはいけないが、攻撃面での能力を最大限に発揮した試合だ。
 前半には内側からノールックでのパスを差し込んでエンソのチャンスメイクに繋げてみると、次は縦突破をブラフにした大外からのピンポイントクロスでジャクソンのヘッダーをアシストし、苦しい時間を迎えていた後半には相手を引き剝がすボールキャリーも見せつけて、まだ20歳のSBとして底知れなさを感じさせた。

【採点】86点
 退場による出場停止や怪我もあってプレータイムは伸びきらなかったが、加入初年度としては十分すぎるほどのインパクトを残すシーズンだった。終盤には失点関与もいくつか目立ち、まだ若干甘さの残るところは否めないが、それでも余裕の合格だ。
 チームのリズムに合わせて仕事を選び、単独でも決定的な働きができるSBの存在は、従来の主力SBが不在となった中で光を放っていた。

【来季の立ち位置】
 仕入れ値こそ安すぎるくらいですぐにでも高額転売は可能かもしれないが、よほどのことがない限り放出はあり得ないだろう。今季の貢献度はバックラインの中で際立っており、チーム内でも指折りである。
 とはいえ、来季に直接ポジションを争うジェームズが稼働すれば起用法は模索されることになるだろうか。同サイドでの共存か、はたまたかつて、同じくフランスリーグから攻撃的SBとして移籍してきたアスピリクエタのように左サイドへと向かうのか、才能を見れば可能性は広い。
 ただ、今季は常にテーピングを巻いてプレーしていたのも気がかりではあり、出場時間もインパクトの割に伸びきっていない。来季は主軸としてプレーしながらも、コンディションに合わせてプレータイムを分け合うことができれば理想だろうか。これから先の長いキャリアを考えれば、どれだけ有能であっても無理はさせられない。


MF

45 Romeo LAVIA ロメオ・ラヴィア

【パフォーマンスデータ】
 1試合32分 0G0A

【センテンス】
 お支払いは将来的に。

【今季の経過】
 22年の夏にシティの育成機関を卒業し、買戻しオプションを持たされながら、シーズンを沈みゆくサウサンプトンの中で立派に過ごしていた。その完成度と将来性をチェルシーは高く評価し、大方の予想を裏切る獲得を断行している。
 しかし、フィットネスの適応を待つ期間に足首を負傷するとその後は長くベンチ外。年末になってベンチに入り、遂にデビューを果たしたが、その試合で負ったハムストリングの怪我でシーズンが終了。本格的な稼働は来季まで待たれることとなった。

【ハイライトゲーム】PL第19節 Hクリスタルパレス戦。
 今季唯一の出場試合であったが、ボールタッチは最低限。試合の流れにはほとんど絡まないまま逆転勝利のホイッスルを聞いた。

【採点】32点
 チームのスカッドに組み込まれた選手として貢献できなかったシーズンであったことは確かであり、実質的には採点不能な一人だ。

【来季の立ち位置】
 今季の出来の如何に関わらず、中盤の三番手候補であることは編成上間違いない。出来レースの様相を呈しているのに納得のいかないファンも多いだろうが、確かなポジショニングとプレス回避、それからハードなタックルをプレミアでも発揮できることは既に証明をしている。
 チームビルドにあたって最も望まれるポジションでの計算が十分にできる選手で、若さと長期契約を考えれば、向こう数年で今季に抱えた印象の負債をかき消すことは現実的な範囲内だ。


31 Cesare CASADEI チェザーレ・カサデイ

【パフォーマンスデータ】
 11試合71分 0G0A ※チェルシーでの出場に限る

【センテンス】
 求められた理由は説明不要か。

【今季の経過】
 22夏にインテルから加入し、23年夏のU21EUROでは得点王を獲得してきた。その後のPSMでは数の足りなかったボランチとしても出場した後、チームが頭数を揃えたため前半戦は2部の制覇を有力視されていたレスターに貸し出された。どうやら得点という持ち味を時折発揮しつつ、基本的には動きの緩慢さを指摘されているようだった。
 ウゴチュクが負傷した後半戦、おそらく練習時の数合わせやDFライン以外での高さの保証のため、カップ戦は既に出場不能となっていたところで呼び戻された。
 とはいえ中盤への要求が並外れて高かった今季のチームではボランチとしての出番はなく、主に守備固めのサイドハーフとしてであり、プレータイムは最低限に留まっている。

【ハイライトゲーム】PL第38節 Hボーンマス戦
 前からのボール奪取で、高さ以外のポジティブなプレーがようやく見られた試合となった。

【採点】60点
 特に持ち運びなどに特長がある選手ではなく、サイドハーフで起用される意図は明確だったが、求められた守備で良さを見せられたかと言われれば否であろう。
 それでも出場毎に見せる空中戦の強さはチームでもトップクラスであり、殊更に文句を付けるほどでもなかっただろうか。

【来季の立ち位置】
 手放すのに適切な値段が付くとは考えにくく、最もあり得るのはラツィオなど具体的な名前も上がる母国へのローンだろう。もし国際ローン枠が埋まってしまう場合はEFL上位クラブへの再びのローンか、PLでの貸出ということになろうか。
 持っているものが持っているものなだけにそろそろ本格的にコンバートが予定されても良いようにも見えるが、それは行き先次第でもある。
 また、明確な武器があるから使い方次第ではいつでもトップチームでも役割は全うできるはずだ。

 


16 Lesley UGOCHUKUWU レスリー・ウゴチュク

【パフォーマンスデータ】
 15試合567分 0G0A

【センテンス】
 忘れてはいけないのは原石だということだ。

【今季の経過】
 レンヌで頭角を現した大器として、またはチェルシーが目を付けた幾人目かの守備的MFとして獲得されたウゴチュクは、他の中盤の獲得が遅れたことなどを理由にして、当初の予想に反してトップチームのベンチ入りをすることになった。
 しかしそこで任せられた仕事はチームでもトップレベルのインテリジェンスが求められるカイセドの互換など過酷すぎるものであった。フランス時代からポジショニングや判断などではなく、フィジカルと水準以上のテクニックによる打開力を武器に勝負してきただろう彼には、有り体に言って向いておらず、退場のリスクを抱え続けたり、ミスが重なったりするのは致し方ないように思える。
 結局は12月に受傷して以来、後半戦のほとんどから離脱。最終盤にようやく復帰と相なっていた。

【ハイライトゲーム】PL第38節 Hボーンマス戦
 カイセドの負傷退場でフラットな中盤コンビをギャラガーと任されることになったこの試合は、ようやくウゴチュクにとってやりやすい環境が揃った試合となった。勢いを殺さないボールタッチとパスの滑らかさなどが今の彼の持ち味なのだろう。

【採点】55点
 ポテンシャルを見込まれて採用されたはずがいつの間にか過酷な現場に駆り出され、それも誰かの代替であるから本人にとっては苦手なタスクであり、周囲から期待外れとされる。こう一般化すると可哀想ではあるのだが、雇い主から求められてしまえば仕方のないプロの世界ではあるので、致し方なく往々にして起こる。
 とはいえ、もう少しやれることがあったのはきっと、本人も自覚しているだろう。ネガトラ時のスプリントの質や、CKの競り負けなどだ。
 赤点再試験とはいえ、これからに期待する他ない。

【来季の立ち位置】
 チームが高頻度のミッドウィークに戦う権利を手に入れたため、来季の編成がどのようになるかわからない。国内外問わないローンが濃厚なところであるが、監督が高さや足元のテクニックを求め、他の中盤と正しく役割を分け合えればECLや国内カップの試合を繋げると判断され、残留の可能性も残るところか。
 あれこれ言われていても2004年生まれで、今季スカッドのほとんど最年少の選手でもある。まずは大人たちがしっかりと向き合ってやりながら、特大のポテンシャルを開花させることに専念させたいところだ。もちろん、出来ないタスクにも自発的に、意欲的に、そして向上心持って取り組んでもらえると磨く側としても楽なのだろうが。


8 Enzo FERNANDEZ エンソ・フェルナンデス

【パフォーマンスデータ】
 40試合3,093分 7G3A

【センテンス】
 絶対的な立ち位置は譲ったかもしれない。

【今季の経過】
 おそらく彼にとってはプロ入り後最も不本意なシーズンであった。鳴り物入りで加入した昨季の半シーズンだけで実力を見せつけた選手も、怪我を主因とする整わないコンディションとチームの再構築において切り替わる役割に苦しみ続けていた。
 鼠径部の痛みによって第一の特長であるダイナミズムが奪われてしまったのが最も難しかったはずだ。その状態では不慣れなトップ下やWGとのコンビネーションが求められるインサイドハーフに近いポジションで、自身のプレースタイルに合ったリズムを構築することはできなかったし、期待されていたカイセドとのコンビネーションもちぐはぐさが最後まで拭いきれないままだった。
 最終的にはシーズンを無冠で終えることが決定した時点で抱えた鼠径ヘルニアの手術を決意している。チームの上向いた最終盤はシーズンアウトしてしまったが、驚くほど早く練習場にも姿を見せており、前向きに来季へ動き始めている。

【ハイライトゲーム】 PL第1節 Hリヴァプール戦
 シーズンの開幕戦はエンソ・フェルナンデスという選手の能力が存分に発揮された試合であった。如何なる状況でも容易にボールを失わないタッチとボディコントロール、長短問わないチャンスメイクのビジョン、そして試合にかける熱量。コンディションが整えばリーグのトッププレイヤーの一員であることは間違いでないと証明する試合だ。

【採点】76点
 苦しんだシーズンであったとはいえ、出場時間はチームでも上から数えた方がよほど早い。どの試合でも最低限の仕事は果たし切り、トップ下としてもチャンスは確実に作り出していたし、ボランチでも足を止めることは決してしなかった。
 いくつかのゴールやアシストは試合の流れを動かしたもので、期待値の高さを超えられなかったにしても、一人の選手としてのシーズンは全うできていたことに変わりはない。 

【来季の立ち位置】
 移籍金を考えれば放出はそもそも非現実的。それより、W杯での経験や、彼が見せるメンタリティを鑑みれば、キャプテンを任されてもおかしくはない。
 今季のパフォーマンスと離脱の間に、他選手の躍進でチーム内での絶対的な立場は失われているかもしれないのは確かだが、これから先に不相応だと切り捨てることはまだまだ決してできない。
 とはいえ来季は、彼にとってチェルシーで初めて迎える勝負のシーズンになるかもしれない。カイセド、パーマーがチームの軸に据えられている中で、エンソが本来的に持ち合わせているもの以外の判断も必要となり、それができなければ代替されることも当然考えられる。
 もっとも、これまで見せてきたパフォーマンスと持ち合わせるポテンシャルを考えれば、開幕からコンディションを整えて何食わぬ顔で主軸に収まるシナリオも想像が容易いか。


25 Moises CAISED モイセス・カイセド

【パフォーマンスデータ】
 48試合3,899分 1G4A

【センテンス】強靭であり、万能。不安定なチームを支え続ける大黒柱であった。

【今季の経過】
 €116mの移籍金はリーグ史上最高額である。チームの野心のために特大の評価を得た彼は、派手な狂騒を振りまきながら、リヴァプールとの対戦後にチームへ加入した。
 当初のプレーは随分と辟易しているようにも見えた。かかる負荷は高くともデゼルビの打ち立てた構造によって安定したサポートを受け、スムーズに判断できた昨季のブライトンの完成度と、時間と展開によってランダムに配置されているかのようにさえ見えた未完成にもほどがあるチェルシーでは、あまりにも勝手が違った。選手間の相互理解の差もあっただろうが、序盤に重ねたミスは本人の適応の問題と同時にチーム差の証明でもあるようだった。
 そのチームに慣れてきたシーズン中盤もカイセドにかかる負荷は尋常でないものであった。ピッチに立てば常にミスなくボールに関与することを求められながら、広大過ぎるライン間の管理を任された。前述したが、そのあまりの難易度から十分な水準で代役を全うすることのできる選手は他におらず、カイセドの連投を余儀なくされることともなった。
 それでも、カイセドはやり遂げた。序盤戦に目立ったミスは中盤戦にはほとんど印象から消し去ったし、9枚のイエローカードが積み重なっても出場停止を受けるわけにはいかないとギリギリの判断でピッチに立ち続けていた。昨季と今季のチェルシーの差を決定づけた最も大きな要因は、不安定な構造下でも折れることのなかった彼の存在であると言わせてもらいたい。
 酷使にも累積警告にも耐えきった最終盤にククレジャが隣に配置されたことで彼に小さな自由が与えられたのは、損な役回りに終始した後の褒美だったかもしれない。それまで見せてこなかった持ち上がりなどもスムーズに披露し、攻守にチームを押し上げ続けた。

【ハイライトゲーム】PL第38節 Hボーンマス戦
 歴史に残る超長距離ゴールは言わずもがなで、彼の優れた能力がそれを可能にしたというくらいだ。
 相手のハイプレスにチームとしては耐えかねても中盤でエリアを管理し、相手のボールを刈り取り続けたカイセドはこの日も負傷交代まで強靭なプレーを発揮し、5連勝となる白星の立役者となった。

【採点】95点
 彼が居なければその他の選手に自由を与えられなかったことを考えれば、今季のチームの最重要選手である。
 攻守に渡るハイレベルすぎる要求を安定してクリアし続け、チーム2位の出場時間も築いた。残り5点はいくつかのクリティカルなミスや重ねたカードに関する部分である。
 今季の働きぶりを続ければ移籍金の完済は契約満了など待たずともあっさり済んでしまうだろうし、チームとしての構造が安定すれば世間からの評価も高まっていくことは確定事項に近い。

【来季の立ち位置】
 今季で中盤の一番手としての立ち位置を明確に示した。少なくとも今季よりは余裕のある中盤編成ができるだろう来季、誰を彼と組ませるのか、彼の能力のどの側面をいつ強調するのか、聞かん坊のところがある彼をどう休ませるのかというところから考えるはずだ。
 さらに一つ言えるとすれば、カイセド抜きの構想は考えられないし、考えたくないということぐらいだ。


23 Conor GALLAGHER コナー・ギャラガー

【パフォーマンスデータ】
 50試合4,036分 7G9A

【センテンス】
 魂の色を証明し続けたシーズンだった。

【今季の経過】
 PSMから手薄な三列目で駆けまわり続けて経験値を集めている傍らで、チャロバー、ククレジャ、マートセンと共に放出が騒がれた夏でもあった。結局、スパーズからのオファーがチームの要求にも満たず、ギャラガーの個人同意もなかったため残留と相なっている。
 プレーに目を戻して見れば、たったそれだけの間でギャラガーは一つか二つの階段を上っていた。昨季まで中盤、特にボランチの選手としてプレーすると相当ミスの多い選手だった彼は、きちんとターンを行い、相手を見たドリブルを始め、できるだけ広い展開を行うようになっていた。
 クリスタルパレスで大ブレイクした後、チェルシーに戻ってからはただ走ることだけに注目されることに終始した彼の遂げた、本当に大きな成長である。
 キャプテン陣が負傷離脱した後はポチェッティーノの思惑もあってか長くキャプテンマークを任された。そこで大人しさの残る振る舞いに批判を浴びることがあったり、チーム編成の事情も含めてトップ下に近い位置での起用が増えたりもしたが、やはり最大の長所である走ることを一切やめることはなかった。
 エンソが離脱した最終盤には元より得意とする中盤と前線を繋ぐ役割に置かれ、シーズン通して磨いた判断で存分に働きながら得点にも絡んでいっている。
 数多の報道が飛び交う中でも、キャリアで最も充実したシーズンにしたはずだ。

【ハイライトゲーム】 PL第12節 Hマンチェスター・シティ戦
 今季一の激闘の中で、尋常でない量のタスクを90分通してやり抜いた。
 トップ下に近い位置でCBへのプレスとロドリの監視番として動きながら、バイタルでのシュートブロックにも参加。それからカウンターでは低い位置からでも前線に追いつく足でこぼれ球を拾い、ミドルシュートを狙った。
 前半にはCKでのアシストを付けると、力強いボール奪取からの繋ぎでも上達を披露している。後半にはエンソの交代によって立ち位置を下げると、サイドへの広い展開から再びボールを受け取って強烈なシュートを打ち、詰めたジャクソンの同点弾を演出。また、カイセドが交代してからは広大なエリアを管理する守備の傍らで、ビルドアップへの関与も強め、中盤の選手としての完成度を上げたことを証明しきっていた。
 4失点目、ロドリのシュートをディフレクトしたのがギャラガーだったことに、詰めが甘いと責めることは誰ができただろうか。

【採点】93点
 何より讃えるべきは、累積警告での欠場1試合を除き全試合に出場したタフネスだろう。4,000分のプレータイムを、質を担保しながら背負いきってくれたのは、選手の揃わない今季のチェルシーにとっては何よりありがたいものであった。得点関与も期待以上で、リーグだけで5G6A。起用されたポジションによっては盛大なキックミスや鈍い判断といった弱みを見せることもあったが、大きな賞賛に値するシーズンだ。
 
【来季の立ち位置】
 なお、未だ残留は不透明。
 契約は残り1年となったが、延長交渉は音沙汰なく、チェルシーが直接順位を争うチームへの移籍だけが取り沙汰され続けている。チーム側としては既に役者を揃えた中盤においてギャラガーへ3、4番手以上の評価を与えることができそうにないため、デッドラインを迎えて放出が不可能になるまでスタンスを崩したくないだろう。
 中盤であれば多くの役割にも対応するようになっており、チームへ忠誠心を捧げて強度を高め、一つ一つのプレーが勝利を手繰り寄せることのできる存在になっているからこそ、選手陣営が求めるのはやはりスタメンに近い待遇か。
 サポーターたちは最良の結果になることを祈り、時には声を上げながら、チームと選手の思惑が為す綱引きの顛末を見守る他はない。

FW

36 Deivid WASHINGTON デイヴィッド・ワシントン

【パフォーマンスデータ】
 3試合25分 0G0A 

【センテンス】
 ロンドンでの生活には十分慣れたか。

【今季の経過】
 17歳だった昨冬に加入し、今季も主戦場はU21チームであった。FWの負傷などが耐えないチームでもあるからトップチームの練習には継続的に参加しており、出場時間はほとんど与えられなくともシーズンのおおよそ半分はベンチ入りをしていた。

【ハイライトゲーム】FA杯2回戦 プレストン戦
 トップチームでの今季最長プレータイムはこの日の14分。上背はあるがスケール感ではなく純粋なストライカーとして勝負してきたのが分かるオフザボールの動きは勤勉であった。

【採点】採点不能
 適切な採点を行うにはあまりにもプレータイムが短かった。

【来季の立ち位置】
 ローンが検討されることになるだろうが、それが正しいかどうかは分からない。おそらく行き先として有力なのは国外ローン枠を消費しないチャンピオンシップへのレンタルだが、フィジカル的な要求が厳しいリーグであり、特に若手CFは苦戦を強いられるケースも多い。
 なんにせよプレータイムを与えたいのは確かであるが、ECLもあり試合数が嵩む来季は、手元に置いておく方が結果的により多くの機会を与えられる可能性も否めないだろう。


17 Carney CHUKWUEMEKA カーニー・チュクエメカ

【パフォーマンスデータ】
 12試合254分 2G1A

【センテンス】
 才能の輝きは確かであったが。

【今季の経過】
 昨季夏に加入も、選手の余剰が多過ぎたこともあり、ベンチ外の時間も長かった。それでも才能は評価され続け、今季は戦力の整理により二列目のベンチメンバー、特にエンクンクの控えのトップ下として期待されていた。
 PSMからまずまずの働きを見せると、エンクンクの負傷もあり開幕からスタメンに抜擢。続くウエストハム戦でもスタメンし、同点ゴールとなる得点を記録したが、前半で膝を負傷してしまった。
 それからは1月に復帰を果たし限られた時間でアシストを記録するも、2月には足首を負傷。3月に復帰し華麗な得点を見せるも、4月中のトレーニングでまたもや負傷があり、そのままシーズンを終えることとなった。

【ハイライトゲーム】PL第2節 Aウエストハム戦
 開幕スタメンを掴んだ前節では試合の前半こそぎこちない部分を見せたものの、後半からはサポートに配置されたチルウェルとのコンビネーションも改善され、迷いのないプレーぶりでチームの攻撃の一役を担っていた。その流れを受けたこの試合では、彼が得意とするバイタルエリア左の角度から奪われないボールタッチとキレのある振りで同点弾を記録。
 チームは後半にウエストハムのブロックをこじ開けられずカウンターの被弾などで2点を失うが、チュクエメカこそが鍵を握っていたことを感じさせる試合だった。

【採点】59点
 難しい状況での出場でもゴールへ関与できるパフォーマンスレベルの高さは賞賛に値する。それでも成果としては2G1Aであり、勝利に繋がったのは1得点のみである。スカッド内で期待されていた役目を果たし切れたシーズンだったとは言えないだろう。

【来季の立ち位置】
 スカッドに残るかはまったくもって微妙なところだ。残留となれば中央の攻撃的なポジションで起用されて能力を発揮できるはずだが、どれほどのプレータイムを得ることができるか次第である。大きな原石として獲得された一人であり、試合の中で能力を養わせたいはずだ。
 2季続けて数百分の出場時間となると完全移籍にはならないだろうが、攻撃を牽引できる才能を高く評価するクラブがPLなどで現れればレンタル移籍は現実的な範囲内だろう。残留した場合はECLから出場時間を積み上げるところからか。少なくとも1,500分以上のプレーを期待したい。


18 Christpher NKUNKU クリストファー・エンクンク

【パフォーマンスデータ】
 14試合516分 3G0A

【センテンス】
 膨らんだ期待は来季に持ち越しだ。

【今季の経過】
 昨年の秋段階から加入が内定していた万能アタッカーはその後の負傷もありながら、ブンデス得点王の肩書を手に入れて堂々と加入を果たした。昨季は得点力不足に喘ぎ続けたチームの課題解決が期待される存在だった。
 PSMでは攻撃のセンスを見せて得点もゲットし、ファンの期待をもう一つ膨らませたが、次の試合で膝を負傷。そこからは復帰が遅れて初出場は12月となった。
 それからはPSMの頃から勝手の大きく変わったチームで起用法が模索されて得点もあったが、戦術的なフィットは遠く、本人のフィットネスもイマイチ仕上がり切らなかった。この時期に行われたカラバオ杯決勝では緩慢な守備に試合への入り方で苦しむところを見せてから、途中何とかギアを上げたが、結局はトーンダウン。試合後にはハムストリングの負傷が発表されていた。
 シーズン最終盤の5月に復帰してからはこれまで見せてこられなかったキレのあるプレーを披露して、攻撃のリズムを作りながら得点もゲット。待望の風船パフォーマンスと共に何とかポジティブなところをサポーターに見せてくれた。

【ハイライトゲーム】PL第34節延期分 Aブライトン戦
 脳震盪を起こしたムドリクとの交代で想定より早い時間からの登場となったが、前節からフィットネスの仕上がりを見せており、守備貢献も果たしながらチームの攻撃のリズムを作った。
 ゴール以外にも長めのボールにも身体を当てて収めたり、ショートパスでテンポを落としたりというのも見事で、獲得前の期待を思い出させてくれる多彩なプレーであった。

【採点】56点
 今季に限れば期待外れの出来であったことは断言できるだろう。長期不在が結果的に他の選手の飛躍に繋がったが、あわや大惨事ともなりかねなかったことは確かだ。最後には質の高さを見せたが得点への関与もごくわずかであり、及第点を与えることはできない。

【来季の立ち位置】
 怪我があろうと依然としてスタメンとして構想されることは間違いない。前線のマルチプレイヤーであり、本格的なPLへの適応にも今しばらく時間は必要かもしれないが、本領を発揮できればアタッカーの一番手だ。技術の高さや選手としての信頼は、ギュストらからのボールの預けられ方にも垣間見られた。
 課題となるとすれば走力の面になるだろうか。おそらくWGとしての出場機会も見込まれる中で、攻守にどれだけ鋭く走り切ることができるか。チームとして上を目指すからには、エースとして扱われる選手にも当然に求められるレベルがあり、それを達成するには十分な調整を必要とするはずだ。


19 Armand BROJA アルマンド・ブロヤ

【パフォーマンスデータ】
 19試合695分 2G0A ※チェルシーでの出場に限る

【センテンス】
 今の自分を見つめられるか。

【今季の経過】
 夏の放出も噂されたが、昨秋に負った膝の大怪我からの回復は9月まで待つこととなり、エンクンクを含むCFの三番手として頭数に入れられてスカッドインとなった。
 予定通り9月に復帰を果たすと、勢い任せなプレーが多かったそれまでとは違い、自分の身体のサイズを理解したようなポストプレーも見られるようになっていた。元来のキレのある動きで早々に得点を決め、成長のきっかけになったかとさえ感じさせていた。
 暗転したのは膝の痛みで前半に退いた10月のバーンリー戦以降である。1か月の離脱の後に再復帰となったが、その動きはどうにも重苦しく、プレーは迷いに満ちていた。チームの編成事情が苦しかったこともあり、冬まで出場時間はほぼ毎試合で与えられたが、それと同じだけ批判も重ねられていった。
 ジャクソンがAFCONへの参加で離脱したこともあって、1月の移籍市場は最後の最後まで残留。ジャクソンの帰還が見えたデッドラインデーにようやくフラムへのレンタル移籍の話がまとまった。
 しかしお隣でも満足なプレータイムを得ることはできず、意気消沈のシーズンとなっている。

【ハイライトゲーム】PL第7節Aフラム戦
 相手を背負ってボールを収めながら、ボール前進にも貢献し、スルーパスにも反応してゴールを奪った。継続的にこの動きが続けられれば選手として一つ大きくなれたのだろうが、結局は今季の間に再演することは叶わなかった。

【採点】53点
 悪目立ちするパフォーマンスであっても、怪我と向き合いながら時にはスタメンしてくれたことには評価を与えたい。しかしながら、プレーの出来で言えば今季プレーした選手の中ではワーストレベルであり、どうしても厳しい評価をせざるを得なかった。

【来季の立ち位置】
 おそらくは売却候補である。8歳の頃からチェルシーのアカデミーでプレーしている大器であり、既にPLでの実績も持ち合わせている。再起を見込んで買い取るチームが現れれば、経営陣は渋らずに手放すところだ。
 大怪我からの復帰はやはり困難で、失うものもあるだろう。それでもまだブロヤは若いし、理想的な体格も持ち合わせている。恵まれた才能と共に一足飛びのキャリアを歩んできた彼も、まずは今あるものを見つめ、一兵卒として働けることを示す必要がある。


11 Noni MADUEKE ノニ・マドゥエケ

【パフォーマンスデータ】
 34試合1,593分 8G3A

【センテンス】
 見事な巻き返しであったと言える。

【今季の経過】
 冬に加入した昨季は泥沼に落ちていたチームの中で力強い馬力も見せ、サポーターからはまずまずの期待も得ていた。
 今季が始まってみるとスターリングの台頭や自身の小さな怪我、それから求められる守備規律やボール循環に適応する必要があり、リーグでは折り返し19節までにスタメンとして出場したのは1試合のみ。カップ戦でも初戦を除き離脱か、ベンチに控えることとなっていた。
 出場しても大きな活躍を見せることはなく、冬のマーケットの足音が聞こえ始めると同時に噂話を耳にすることとなったのは必然だっただろう。
 それでも年末から、短い時間でもチェルシーのスカウト陣に評価された才能の片鱗と、試合に出ていない間の努力が読み取れる確実な成長を披露して勝利に貢献すると、そこからはWB然とした守備での貢献やオフザボールのバリエーションも増やし、スタメンへの挑戦権を掴みとった。
 4月からは守備に走りながら右の大外から突破を狙えるWGとしてファーストチョイスの座も奪取して、展開の向き不向きという壁にぶつかりながらも、浮上するチームの一役を担った。

【ハイライトゲーム】PL第19節 クリスタル・パレス戦
 スタメンを飾り、相手チームに脅威を与えた試合はもっと終盤にあった。しかし、今季のマドゥエケにとって最も大きな意味を持ったゲームはこの試合だったはずだ。
 後半の残り20分で時間制限のあったエンクンクと交代。安定しない判断の中でも守備から意欲的にプレーをし、CK崩れから自身で獲得したPKをパーマーの不在もあって蹴り、成功させている。確実に彼の自信を上向かせ、それ以降に繋げるゲームとなった。
 
【採点】75点
 最も勝ち点を伸ばした終盤戦にスタメンとして出場できていたことを考えれば、前半戦にほとんど貢献ができていなくても、及第点は十分に与えられる。最も評価したいのは12月以降に次々と見せていく地味な部分での成長を実現し、起用に堪えられる試合を増やしていったメンタリティだ。
 元より相手に向かって勝負を仕掛けられるリズムとアジリティ、陣地を進める強さというハード面は持ち合わせていたからこそ、ソフト面とも言える部分の急成長は嬉しい誤算であった。

【来季の立ち位置】
 もしかすると売却されるかもしれない。
 というのも、右WGのポジションは補強の噂もあれば、新星の到着も来季には内定している。まだ若く、リーグへの適応も証明したため、市場の動向によってはチェルシーが獲得にかけた値段以上のオファーが来る可能性を否定することまではできず、そうなれば売却の判断が下されるだろう。
 残留となれば右WGとしてスタメン争いだ。今季にスタメンした試合では多く問われてこなかった展開でのプレーも求められることにもなるし、パーマーと直接ポジションを争うこともあれば、息を合わせる必要も出てくる。
 成長を遂げたとはいえ、今もまだ未完成の選手だ。持ち味を磨き続けることも、今苦手とすることに取り組むことも、考えてもみないことを始めることも、上を向くチームと共に進むのであれば必要だろう。


10 Mykhailo MUDRYK ミハイロ・ムドリク

【パフォーマンスデータ】
 41試合2,014分 7G2A

【センテンス】
 羽ばたく日はまだ少し遠いか。

【今季の経過】
 超長期契約で加入した昨季の後半はチームとしても良いところなく、彼にとっても現在地が問われるのは今季からという状況だっただろう。PSMでは新加入のジャクソンと目を見張るコンビネーションとゴールを見せ、一定の期待をされてシーズンに入った。
 しかし、始まってみればやはりまだまだ未完成の選手であるという評価をポチェッティーノからは受けていただろうか。途中出場とスタメンは半々くらいの割合であり、大きな怪我なくシーズンを終えた選手としては相当に少ないプレータイムともなった。これについては、守備貢献や持ち味となるプレーを考慮すればやや少なくとも、ポゼッションを放棄する頻度が高まるリスクを考えれば、不当とは言い切れないぐらいの範囲だ。
 ポジションは左WGとしても使われ方としてはまちまちで、トップ下じみた役割を見せる日もあれば本当にトップ下に置かれる日もあり、最終盤は左サイドのタッチライン際に戻っていた。ボールに絡ませてもらえない試合は幾らか目立ったが、何とか連勝にも貢献し、一人前として認められる選手に少しくらい近付けただろう。
 
【ハイライトゲーム】PL第9節 Hアーセナル戦
 二得点に関与したことは決して偶然だけの産物ではなかった。
 パーマーとギャラガーのツートップを採用してWGの裏抜けを狙う442の誘引はムドリクが担う役割をはっきりとさせ、ゴール前への飛び込みと左サイドを進む推進力を強調した。
 
【採点】62点
 プレータイムの限られた中で戻りはしても強度の低い守備に、オフザボールで走らないトランジション、局面を考慮しきれない淡白すぎるプレー選択などに頭を抱えた瞬間も少なくなかった。
 それでも一応は持ち場まで戻り切る守備は下手でも継続はしていりし、全体的に悪い評判が先行してしまっているようにも見える。いくつかのパターンに当てはまりさえすれば普段の評価から考えられないような期待感を持たせるプレーはあった。
 いくつかの重要な得点も忘れてはならず、少なくともギリギリの及第点は与えておきたい。

【来季の立ち位置】
 ドネツクで頭角を現したとはいえ、特大のポテンシャルを未だ眠らせていることには間違いがなく、今しばらくはチームとして真剣に彼へ向き合って、飛躍の日へと後押しすることとなるだろう。
 いずれにしても来季は今持っているいくつかのプレーパターンを安定して出力しながら、そのほかのプレー判断でも幅を広げ、最低限の試合貢献を保証させていく必要がある。
 スピード以外にもキックレンジでのフィジカルアドバンテージもあれば、広い空間に届く認知能力も持ち合わせており、古巣からの評判は詐欺とも言い切れないのが確かだ。捨て去るには勿体ない原石で、散発的に過ぎるが、ハマればいつ飛躍をしてもおかしくないだけのプレーを見せることも事実の一側面だ。

7 Raheem STERLING ラヒーム・スターリング

【パフォーマンスデータ】
 43試合2,759分 10G8A

【センテンス】
 期待以上ではあったのかもしれない。一応。

【今季の経過】
 昨年に加入し、近年チェルシーで最低のシーズンを主力として経験。元よりの好感度の話なのか、チームへの貢献の部分なのか、随分な批判が彼にも向けられたところから今シーズンは始まった。
 序盤、蓋を開けてみると、サイドの左右を問わずにドリブルで相手の守備を切り裂き続けるチームの絶対的なエースとして扱われていた。チャンスシーンの多くは彼のドリブルから生み出されていたし、それを誰も決められなければPKを獲得してみたりと誰も予想だにしていなかった活躍を続けていた。
 風向きが変わってしまったのは中盤戦に差し掛かった12月頃からで、取り戻したと思われたスピードにやや陰りを見せてプレー判断のバランスを崩し、決定的な判断ミスやPKの失敗で自分に向けられる目を厳しいものにしてしまった。その後は結局序盤の輝きを取り戻すには至らずムドリクやマドゥエケにスタメンを渡す時間も長くなっている。
 それでも最終盤には白星を生む決定的な働きもして、通して見ればそう悪くはないというところにシーズンを纏めていった。。
 
【ハイライトゲーム】PL第12節 Hマンチェスター・シティ戦
 少なくともその日は、スターリングが名実ともにチェルシーのエースとして迎えた、古巣との大一番であった。そこで彼はかつて相手チームで主力として扱われていた頃の姿か、もしくはそれ以上の働きぶりを見せ、ウォーカーの構えるサイドから幾度となくゴールへと迫り続けていた。
 守備時においても少なくともチェルシー在籍期間では最大量を絞り出し、足を使い果たしたはずの終盤にも素早く帰陣。バイタルエリアでのボール奪取をチェルシーサポーターにお披露目してくれていた。

【採点】79点
 冷静に振り返ってみると随分チームを助けてくれていたが、チームで最も評価の浮き沈みが激しい選手となっただろう。中盤戦は随分なものだったが、13節までの段階で採点すればチームトップの働きだったのは確かである。
 何はともかく、現代サッカーのWGとして働くには守備貢献の量が少なく、攻撃面でお釣りを出せないと評価は一気に苦しくなる。今季の収支で言えばやや利益が出たかもしれないが、トップパフォーマンスの輝かしさを考えればもっと多くを望みたかったところだ。

【来季の立ち位置】
 チームの最高給取りであるが、不思議なもので放出に関してはなかなか噂されるところではない。もっとも、本人としては契約を全うする権利もあるわけで、将来はクラブとの交渉や行き先次第であるだろう。
 プレーの面に焦点を当てれば、今季序盤に見せた輝きの何割かを取り返しながら、与えられたポジションに合ったプレーをするべきといったところか。今の運動量であれば、エンクンクとセカンドトップ的な立ち位置を争うのが妥当な選手である。

15 Nicolas JACKSON ニコラス・ジャクソン

【パフォーマンスデータ】
 44試合3,534分 17G6A

【センテンス】
期待外れにして期待以上。波乱万丈の充実したシーズンとなった。

【今季の経過】
 噂のないところから突如として加入を決定させ、ビジャレアルからチェルシーにやって来たジャクソンのデビューは鮮烈であった。PSMではデビューから鮮やかな抜け出しで2戦連発、リンクアップやコンビネーションプレーも見せ、かつて同じ背番号を背負った偉大なストライカーに近付ける存在がやって来たと、サポーターに期待の熱を持たせた。
 ところがリーグが開幕すると、確かに優れたところもあるが、度重なる決定機逸とカードの獲得で、評価は急落していく。実際にレススペースな展開は不慣れなようであって、守備などは精力的であったが、全体のパフォーマンスを高く評価できる試合は少なかった。
 前半戦はそれでも展開が向けば何とかハットトリックを達成してみたり、重要な得点を決めたり、左WGとして完成度の高いプレーを見せたりをするものの得点が遠い試合が続いたり、チームの負けがやや込んでいたりと安定せず、評価を大きく上げるには至らないまま年明けにはAFCONへと出発していった。
 ジャクソンの評価が上向き始めたのはセネガル代表チームが早期に敗退したため2月に入ってすぐ合流した頃からである。空中戦へのアプローチの向上などが見られ、左右に流れてボールを受け手からのドリブル突破で敵陣深くまで持ち上がるなど、ポジティブなプレーが増えていった。前半戦は曰くつきの7得点だったが、後半戦は内容も伴っての7得点を積み増している。
 チェルシーのCFとしては十分すぎるほどの結果を出しながら、替えの効かない選手として、チームの浮上に成功させている。

【ハイライトゲーム】PL第20節 Aルートン・タウン戦
 最もジャクソンが奮闘した試合であれば、FA杯準決勝のマンチェスター・シティ戦などが挙げられるかもしれないが、この試合の左WGとしてのプレーがあまりに印象的であった。
 この頃のチームはWGの守備が安定せず、ジャクソンが採用されたのは特にその面が見込まれてのことだったのだろう。本職CFの彼は試合開始早々から確かな帰陣でゾーンDFへの参加を行い、チャレンジに行く左SBの背中のカバーも怠らず、攻撃となれば長く使える足でボールを持ち運んでいった。
 その後すぐにAFCONへ行ってしまったことや選手の離脱に寄るチームの構造転換で継続的な採用には至らなかったが、多彩さを見せつけ、選手としてのプロフィールを更新したことに間違いはなかった。 

【採点】87点
 シーズンにおける貢献度の大きさがチームでもトップクラスなのはプレータイムを見れば一目瞭然だ。試合の展開に向き不向きがある選手だが、必ず訪れる守備の場面でも精力的に働ける選手であり、チームとして苦しい試合でも連続して突破口を築くこともできる選手であった。
 決定機逸があったとはいえ、今季の中ではプレーとしても上出来な選手の一人であり、前半戦に見せたパーソナリティの甘さやそれに伴う多少の守備、反応の遅れが無ければ90点を超える評価は与えられた選手である。

【来季の立ち位置】
 おそらくは彼をCFの一番手だと構想した上で、バックアップの補強が進むだろう。今季の出来で移籍にかかった€40mの価値は証明したようなものであるし、彼以上を望む補強は相当に難しい。
 選手としては中盤などでは今のプレーバリエーションを保って精度を上げながら、やはり重要なのはゴール前での武器をどれだけ作り出すことができるかだろう。特に苦手とする低いブロックを敷かれた展開で何ができるか、CFの選手であるからには逃げずに向き合っていかなければならない。

20 Cole PALMER コール・パーマー

【パフォーマンスデータ】
 48試合3,613分 27G15A ※チェルシーでの出場に限る

【センテンス】
 選び、舞台に立ち、証明した。

【今季の経過】
 マンチェスター・シティの下部組織で育ち、丁寧に丁寧に磨かれてきた大きな才能は、しかしながら扱いに嫌気がさし、成熟を迎えているのだと宣言するように巣立ちを選んだ。
 彼が出場機会を求める中で、過保護な所属クラブを黙らせる大きなオファーを出したチェルシーというチームは、渡りに船に見えたのかもしれない。そして、それは確かだった。もしくは彼が確かにした。
 未完成で不揃いな原石たちが揃うチェルシーの中で、パーマーは特に美しい宝石として輝いた。右サイドを主戦場にしながら幾度となく中盤へ顔を出してのリンクアップ、相手の動きを止めながら広く細やかに空間を認識しているのがわかるチャンスメイク、折を見て繰り出す鋭い切り返しからの突破、そしていつでも振れるように準備をしている左足からのゴール関与。
 190㎝近い長身痩躯の身体は決してパワフルではなかったが、ゲームの如何なる局面でも活きる極上のスキルが宿り、リーグとチームのリズムに合ったダイナミズムも兼ね備えていた。
 持てるものを初年度からほとんど全て見せつけたパーマーは、加入数試合目から最終節まで決定的な選手として働き続け、誰にも文句を言わせない飛躍のシーズンを送った。
 
【ハイライトゲーム】PL第31節 Hマンチェスター・ユナイテッド戦
 ちょうどこの時期はチームとしてパーマーに頼り切りになっていた。3月のニューカッスル戦に勝利したあたりからである。
 チームとしてオープンな展開を望み、カウンター展開からチャンスメイク、再び顔を出したゴール前のフィニッシュ、ドリブラーが獲得したPKの成功までをパーマーが背負い、彼の生み出す決定機を一つでも増やすような時期だった。序盤や最終盤にはもっとテンションの低い試合も選んだポチェッティーノが、そちらの方が旨味は大きいと選んだ結果だろう。
 その試合運びのデメリットも存分に見せつけた90分であったが、結局、パーマーは監督からの信頼を背負いきり、最後は自らの閃きで重要なシックスポインターを制していった。

【採点】98点
 文句を付けるとしたら、もう少しだけWG然として振舞うべき試合で振舞ってくれたり、決定機に対応できるフィジカルがあればチームとして楽になったというところぐらいだろうか。あとたまに攻め急ぐところ。それから彼の存在が長く消えてしまった試合がなかったとは言い切れない。
 とはいえ、そんな程度である。本当に。リーグでの得点、アシストランキングは共に2位。大いに不完全だったチームの中で、個人にそれ以上の貢献を望むべくもなかった。

【来季の立ち位置】
 これからのパーマーに今季以上の活躍を望むべくもないかもしれない。そう考えさせられるほどに今季のパーマーは攻撃のほとんど全てを司っていた。むしろ今年のような仕事を任せ続ける方が不健全に思える。
 とはいえ守備もそう疎かにしない彼がチームとして絶対的な存在の一人として期待されるのは間違いなく、来季も右WGやトップ下を中心に主軸として計算されるだろう。与えられる役割によって見栄えの差は出てくるかもしれないが、必ずしも主役でなくとも輝くプレーの幅も彼は持ち合わせている。そして、まだ見ぬ新しい側面も顔を出すようになれば嬉しい誤算だ。

監督

Mauricio Pochettino マウリシオ・ポチェッティーノ

【今季の経過】
 チームの再建にあたり、野心を持って集められた若いスカッドを任せるのに適任だとして昨シーズン終了後すぐに就任が発表された。
 序盤は325に近い形で押し込む形での試合展開を。チュクエメカの怪我、エンクンクの離脱の長期化でプランが瓦解した後は244での誘引による疑似カウンターを。個別に対策された守備に手をこまねけば、カイセドをCB間に下げる343を。WGの守備貢献が足りなければジャクソンやチルウェルをWGに採用。パーマーの躍動する展開を作り出すためならば組織的な構築も放棄して、最後には躍動する組織も構築していた。
 また、HAいずれのシティ戦を筆頭に、対策を立てればどのチーム相手にも抵抗できるだけの熱量を試合に持たせ、激闘も演じてみせた。

【ハイライトゲーム】PL第28節 アストン・ヴィラ戦
 3月から1か月程度、ポチェッティーノはパーマーに全てを託すようなサッカーを選ぶことで、負けに等しい引き分けはあったが、負けはせずに勝ち星を掴んでいた。
 この日の前半、パーマーの復帰でポチェッティーノは再び同じサッカーを選んだが、前節アーセナル戦の大敗からチームは持ち直せずに前半で2失点。HTには新たなやり方を持ち出すこととなった。
 そこで選んだのが左SBに入るククレジャをボール保持時にはボランチとして振舞わせ、325の形を形成するサッカーだ。結局この手札をほとんど最後まで貫いて、この後の5連勝に繋げることとなる。
 付け焼刃でも限界まで我慢してから舵を切るのは、連敗後に迎えた17節シェフィールド・ユナイテッド戦などでも同じで、ポチェッティーノなりのチームマネジメントであったのだろう。

【採点】70点
 難しい役回りであったはずだが、6位に滑り込ませたのは彼の手腕も大きいだろう。選手の躍動も、結局のところは監督が采配しなければ始まらない部分もある。
 付け焼刃であっても手を変え品を変え、今あるチームでやれることをいくつも見せたのは、一貫性はなくとも安定しないチェルシーでは必要な要素にも思える。カップ戦での上位進出含めて若いチームを率いた最初のシーズンの合格点には達していたと評価したい。
 難しいシーズンではあったが、選手たちに熱を持たせ続けて確かなチームとして機能させ続けていた。

【最後に】
 まずは最低限望まれる仕事は果たしたプロフェッショナルぶりに感謝を述べたい。ありがとう、ポチェッティーノ。
 傍目から見ても難題を抱える特殊な仕事であったが、本人的にはどうであったか。シーズン終盤には随分と余裕も無くなっていたように見えた。
 結果としては解任に近い退任である。2年契約であったが、契約が切れる前に査定を行って、進退を決定させるのは既定路線だったのだろう。来年はともかく、おそらくリーグタイトルを争えるチームになる予定でいる再来年に相応しい監督であることは、今季の出来では証明もできなかった。
 ただそれでも、一年通して若い選手たちに向き合い続け、チームとしての結束力を生み出してくれたことがこれからのチェルシーに繋がっていくはずだ。誰がモチを食うことになるか、それがいつになるかは分からないが、順調に行ってポチェッティーノがついたものを食べる時がくれば、その時に改めて感謝をしたい。

あとがき

 チェルシーへの採点を行うなら63点です。勝ち点分だけ。予算規模なんかを考えれば、如何なる事情があろうとも常に勝ちを狙うクラブでもあるでしょうし、勝ち点100で100点満点です。
 とはいえ絶賛再建中、という名のほぼ新築を行っているチェルシーはそんなところから大きく外れた珍道中にあって、一昨季や昨季の開幕時からは変わり果てた姿になり、今季開幕前の予想のつかなさは随分なものでした。それを思い出しつつ、道中に繰り広げた激戦や選手たちの成長なんかを振り返ってみれば、今季をまずまずの及第点で終えられたことはポジティブな話だったのではないでしょうか。
 もちろん、選手があちこちを痛めたことや、一人ですっ転ぶ喜劇のような試合を忘れてはいけませんが。

 それから採点について、ずいぶん甘く付けた自覚があります。上記の理由から特に多くを求められないなという前提もあったからです。来季は、新監督を迎えるとはいえ、甘えたことを言ってられる余地が少なくなるでしょう。
 チームとしてのノルマは欧州への復帰ではなくCLへの復帰になるでしょうし、その中で周囲のチームから向けられる目も変わってきますし、ECLという重荷を背負うことも決まっています。今季のような不安定な出来や、今季を下回るようなことがあれば大変なことで、今のチェルシーはできる限り客観的に見ても、ファンとして主観的に見ても、一切油断していられないくらいの絶妙なレベルです。

 まあ、何はともあれ僕のやれることは一つだけで、ただただ彼らの勝利や幸せを願いながら、見守り、時に祈り、勝手な解釈をぶち上げたり、不平を言いながら楽しませてもらうことぐらいです。

 もう執筆は懲り懲りですが、また何か言いたいことが出来れば投稿することになると思いますので、その時はどうぞご贔屓に。

 駄文長文をお読みいただきありがとうございました。


 
 

 



 




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