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ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#1 キッカケ

「7年間、お世話になりました。」しばらく暖かい日が続いた4月上旬。玄関を出る前に部屋に向かって頭を下げた。ドタバタしてたけど、これからはじまる生活はいいものにしたい。——

私は亜厂 圭あかり けい。よく変わった名前だと言われる。私もそう思う。生まれてこの方同じ姓の人に会ったことがないから。

大学を卒業してからコンテンツライターとして、20人とちょっとで構成されている数年前に出来た企業、いわゆるスタートアップ企業に勤めているんだけど、訳あって3年務めたここを辞めて、フリーライターとして田舎暮らしをすることに決めた。

ちょうどあと半月後の話。

移住することに決めたのは、「3年務めたから転身だ!」というわけでもなくて。その理由は、まあ、そんなに気持ちのいいものでもないんだけど…。

実は、同じ部門の数人から疎まれていて、多分、いじめの対象になっている。まあ、気のせいかなとは思ったんだけど、それがはっきりしたのはつい最近のことだった。

私が同僚に仕事の相談をしようと近寄ったら、明らかに避けられた。それも1回じゃないし1人からじゃない、頻繁にいろんな人に。

どうしてなのか、自分で色々考えてみてもあんまり原因がわからない。一人で考えていても仕方がないので、相談してみることにした。

「なぁに?話って。」川が流れるように、自然に話を切り出しながら、温かいコーヒーを両手に持ってきてくれたのは宮野 綾みやの りょうさん。よくご飯に行ったり、相談に乗ってくれたりと良くしてもらっている3つ上の職場の先輩。

「そのー。最近、同僚とかから避けられてる気がするなーって思って。でも、いくら考えても原因がわからないんですよ。私、なんかまずいことしたのかな。」しりすぼみになりながら話始めた。

「あー。圭ちゃん成果も出してるし、外の人とかにも可愛がられてるから、みんな羨ましがってるんじゃない?」
優しい言葉で返してくれた。

「えぇ、羨ましいと避けたりするもんなんですか?」
ちょっと苦笑いしながら返した。

「ほら、芸能人とかインフルエンサーに付きまとうアンチとかとおんなじ心理なんじゃない?」

「あー確かにおんなじかもしれないですね。」
目が点になった。

「あぁ、その様子だとあんまり気にしてないのかもしれないけど、壊れる前にセーブしなよ?圭ちゃんみたいなタイプはある日突然動けなくなるんだから。」

「あははは。」見透かされてる。

「んーまあ、フリーになって田舎で暮らす、みたいな手もあるんじゃない?圭ちゃんなら一人でもやっていけるだけあるし。まあ、参考程度に。ゆっくり考えてみて。」と優しく助言をもらった。

じゃあ先に戻るね、と言って先輩がオフィスに戻っていった後も、しばらく先輩のくれた温かいコーヒーの入ったカップを両手で包んでいた。

それから一週間ぐらいが経った。
嫌がらせは減ることもなく、何ならちょっと雲行きが怪しい。

だから、先週先輩からもらった助言を思い出して、考える気力がなくなる前に、ある程度考えてみることにした。

と言っても、まだ仕事を辞めると決めたわけじゃないからゆるく、ある程度の輪郭だけでも決めておけばいいか。

ひとまず、もし仕事を辞めて田舎で暮らすなら、でどんなところがいいか条件を上げていくことにした。

まずは、今住んでいるここから電車とバスを乗り継げば行けるところがいいな。今でも大学の同級生と定期的に会っているから、あんまり遠すぎると会うのが難しくなっちゃう。

次は、できるだけ田舎がいいけど田舎すぎてもダメ。あんまり田舎すぎても生活に困りそうなので、少し足を伸ばせば都会に出られる方がありがたい。

実家は田舎だったけど、大学卒業後しばらくして両親は他界した。兄弟もいないし、家も手放してしまった。

あとは、あんまり家賃がかからないところがいいな。フリーとして生活していくなら、あまりおサイフ的にも負担が少ない方がいい。

「まあ、ざっとこんなもんかな。」
4分の1の大きさに裂いたA4の裏紙をメモの代わりにして書き起こしておいた。

スマホやPCのメモアプリに書いてもよかったけど、
寝る前にはあまり目に負担をかけたくない。

時計を見るともう23:47だった。明日も仕事があるから、今日のところはこの辺にしておかないと。

裏紙のメモは手帳に挟んでおいた。


さあ、新シリーズがスタートしました!
温かい目で見守っていただければ嬉しいです!

今回も最後まで読んでいただいてありがとうございます。
次回もお楽しみに!

梔子。

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