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ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。

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💡ほっこりしたい時におすすめ! 会社で嫌がらせを受けている主人公が、仕事を辞めて田舎で暮らすことにした。1人で静かに暮らすイメージをしていたが、その予想はすぐにないものになる。ち…
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記事一覧

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#12 お風呂

* 家についてからはお風呂の栓と蓋をしてすぐにお風呂を沸かした。 お風呂が沸くまでの間、私はスマホで撮った写真を眺めていた。 「今日で120枚か。」 ちょっと撮りすぎちゃった気もするけど、思い出として残しておけるから、とつい撮ってしまう。私が写真の整理をしている横でごろうちゃんは持って帰ってきたタンポポの花をじっと眺めていた。 そう、行き道で出会ったタンポポ。帰り道も同じ道を通ったので、持って帰る?と提案したら嬉しそうにしていたから持って帰ってきた。コップに水を注いで

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#1 キッカケ

「7年間、お世話になりました。」しばらく暖かい日が続いた4月上旬。玄関を出る前に部屋に向かって頭を下げた。ドタバタしてたけど、これからはじまる生活はいいものにしたい。—— 私は亜厂 圭。よく変わった名前だと言われる。私もそう思う。生まれてこの方同じ姓の人に会ったことがないから。 大学を卒業してからコンテンツライターとして、20人とちょっとで構成されている数年前に出来た企業、いわゆるスタートアップ企業に勤めているんだけど、訳あって3年務めたここを辞めて、フリーライターとして

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#2ピンチ

* 今日は土曜日。仕事は休み。非常にまずい。 あれから5日しか経っていないのに、雲行きはさらに怪しくなっている。 何とかなるだろうとか思ってたけど、そう甘くはなかった。 朝職場に入ったら、まず挨拶するのが礼儀というか、ルーティンというか、『おはようございます』が飛び交うのを想像することは誰もが簡単なはず。 でも、私の後に入ってきた人と私が入ったととでは明らかに挨拶の数が少ない。目が合っているのに挨拶を返さない人がいた。さすがに、まずい。 この嫌がらせに気づいてから今

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#3

* あの後上司の厚意で、フリーになっても定期的に仕事を依頼してくれるという事にも決まっって、フリーになることへの不安がちょっとだけ解消された。 と同時に嫌がらせから離れることができると思うと、あと少しだけ、がんばれそうな気がした。 「あ、そうだ。先輩にも報告しておかないと。」 仕事終わりの帰り道、ダメもとで先輩に電話をかけてみた。 『もしもし?どうしたの?』 「あ、お疲れ様です。あの、ちょっと報告があって。」 『うん。』 「今日、上司と懇談したんです。それで、あった

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#4個別説明

* —ピピピピ…ピピピピ…ピピピピ…— アラームの音とともに体を起こした。 珍しくアラームよりも早く目が覚めていた。 今日は実際に名川町に行く日だ。 個別説明を申し込んだときに書かれていた流れは、名川町役場のまちづくり部で担当者から説明を受けた後、空き家をいくつか見て回ってから、気に入ったところがあれば条件なども含め相談の上、手続きをして引っ越しに移る。 特に普通の引っ越しと何ら変わりないけど、約7年ぶりの引っ越しともあってちょっと緊張している。7年前は親の付きそいが

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#5お別れ

* 4月6日。今日の夜は、フリーになることを先輩に報告の電話をした時に話していた食事の予定がある。 題して『圭ちゃん門出の会』、先輩が考えたらしい。 先輩はちょっとした小ボケが好きで、何かしら名前を付けることがよくある。先輩のデスクに置いてある小さいサボテンにも「うさちゃん」と名前が付けられているぐらいだ。 今日はそんなお茶目な宮野先輩と、面談をしてくれた私の上司の卜部と私で3人だけのお別れ会的な食事へ行く。 お別れ会をするという事は、もちろん家が決まったわけだけど

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#6思わぬ出会い?

* 10時半にチェックアウトを済ませて、少し大きめのリュックと手提げをもって改札を抜けた。山手口方面の電車に乗るのは、今日で3回目だ。 お昼前の電車に乗ったのもあって、席は空いていた。大きい荷物をもって腰を掛けた4人掛けの座席に座って、隣の席にリュックを置いて手提げは膝の上に置いた。 一番前の車両は乗客が少なく、のびのび座れることを知っている。 今日も小説を持ってきているけど、読む気にはなれなかったので窓の外を眺めて過ごすことにした。 4駅目で降りて、電車を乗り換えて

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#7ごろう

* 人の子どもを預かるような勢いで、人の言葉を話す”子熊”を預かってしまった。いつも落ち着いている中村さんが、どこか切羽詰まった様子だったので思わず引き受けてしまった。 「はぁ。今晩だけ、なんだけど。不安だなぁ。」 たとえ人の言葉を話すとは言え、相手は人じゃないから警戒しないわけにはいかない。だって、熊だもん。 よく人を襲ったとか、目撃情報とかがニュースでも上がってくるし、多少怖いよ、そりゃ。でも気になる事が色々ある。 「ごろうちゃん、か。誰が付けた名前なんだろ。何

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#8はじまり

* すっかり暖かくなった陽の光に照らされて、揺れる草木の匂いがする風が吹いた。それは桜のように、あるいはタンポポのように、暖かく少し甘い匂いだった。 目が覚めると、木でできた天井が広がっていた。 窓際の障子を開けたまま寝たから、朝日がまぶしくて起きた。 昨日からこっちに越してきたけど、ほぼ掃除で一日目が終わってしまった。掃除が終わって家から歩いて15分のコンビニにご飯を買いに行った後、あの子を預かった。私の横に敷いた銀マットの上で、ダウンベストとシェルジャケットに包まっ

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#9はじまり その2

* —フォークを器用に使いながら、お蕎麦を口に運ぶごろうちゃん。それを眺めながらお蕎麦を食べる私。前の職場であった嫌がらせなんて、もうどこにもない。こんな幸せな時間が続けばいいのにな。— これからは田舎で一人暮らしだって、ずっと思ってたけど、昨晩ごろうちゃんを預かってからその考えはちょっと揺らぎ始めていた。 ペット、とは言えないけど、こうして誰かと生活するのもいいかもしれない。いや、誰かと一緒に生活したい。そう思うようになってきた。 まだ引っ越してきて2日目の昼なのに。

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#10お花見の準備

* まだ少し薄暗く、日の光がまだ部屋に入らない朝6時。昨日の晩に作っておいた味噌汁と冷ご飯を温めながら、スマホで天気予報を見ていた。 当然、今日の天気と気温、降水確率とかが載ってるわけだけど、ちょっと下にスクロールすると他にも情報が出てくる。UV指数とか花粉指数とか、天気痛予報までいろんな情報が配信されている。 何気なく『桜の開花予報』チャンネルをタップした。 現在地を取得すると、大体の開花状況が表示される。この周辺は、『満開』の文字と桜の花のマークが表示されていた。

ちょっと変わった田舎暮らし、はじめます。#11 おさんぽ

* リュックの中にサンドイッチの入ったタッパーと、銀マットと、ボトルに入れた水を詰め込んだ。暖かいとはいえ風が冷たいので、薄手のシェルジャケットを羽織ってリュックを背負った。 ごろうちゃんにも何か着せてあげた方がいいのかな。 「ごろうちゃん何か着る?」 「あったかいの!」 多分、ダウンベストのことだろうけど、ごろうちゃんの背丈にしては長すぎるのでいったん却下にした。代わりに大きめのマフラーで上着っぽくアレンジして羽織らせてあげた。ごろうちゃんと玄関に向かって、靴を履い