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月刊『アンビグラム』参加作まとめ


こんにちは、Σです。今月の2022-12月号で約1年分の参加作がまとまったので、みんビグラムに続いて月刊アンビグラムの話もしようと思います。もう1年間も参加させていただいているんですね、ありがたいかぎりです。




2021-12月号(お題:時事)


「変異株」


記念すべき初参加回です。「路上飲み」「暁暁/蕾蕾」などの候補から「変異株」を選択しました。やりとりを見返したところ、題材探し含め2日で完成させていました。我ながらかなり信じがたいですね。
文字のアンビグラマビリティにまかせて対応解釈を決めることが多い作風ゆえに、片手で数えられそうなほどの作例しかなかったころから、文字にまかせるままに旋回式重畳型アンビグラムもよく描いていました。本作もなぜ旋回式重畳型にしたかといわれれば「変」/「株」に従ったのみという感じですが、「異」に月に1度の機会ならではの胆力が注がれていますね。90°旋回すると縦画は横画に、横画は縦画になるので、中心の文字は縦画と横画で総延長が同じくらいである必要がありますが、その点でも「変異株」は旋回式重畳型に向いた単語だったといえそうです。

そういうわけで中心の「異」は、縦横5本の線を対応させたところからごりごりと微調整に微調整を重ねていくかたちで仕上げました。

探したら当時のデータが出てきました。めちゃめちゃ試行錯誤していますね。絶対的にいい対応解釈にはなかなかたどりつけないことも多く、いろいろ試行錯誤したうえで相対的にいい対応解釈を選ぶことも、ときには重要そうです。



2022-1月号(お題:フリー)


「お題フリー」


お題が無いとあまりにも何を題材にしていいかわからず、「お題フリー」で描きました。2回目の参加でやること?
「お」/「フリー」といい「日」/「目」といい図地反転ビリティにあふれているので、思いついた以上は描かない手はないくらいの勢いでした。実際、納得感も高く満足のいく対応解釈に仕上がったと思います。「お」/「フリー」、「題」の上半分/「題」の上半分、「題」の下半分/「題」の下半分で対応させ、あとはそれがうまくはまるように組み直すというような手順で描きました。



2022-2月号(お題:天空)


「神の杖」


この回もなかなか題材が決まりませんでしたが、宇宙系のかっこいいワードから探して「神の杖」を選択しました。
ツイートとかで何度か言っている気がしますが、こういったのびやかな字影のアンビグラムはなかなか描けないので、かっこよくのびやかな作字にできてとても気に入っています。

いまだに線的な対応解釈を多用してしまいますが、本作は面的な対応解釈がなかなか生きていると思います。「申」の右端の形づくりかたとかが今見てもいい感じです。



2022-3月号(お題:電脳)


「譁?ュ怜喧縺」


月刊アンビグラムの題材を考えていたのと時を同じくして、たまにはアンビグラムでない作字をしようと題材を「譁?ュ怜喧縺」に決めて字面を観察していたところアンビグラマビリティの高さに気づき、偶然にも月刊アンビグラムのお題に沿っていたため寄稿作に転じさせました。ほかの候補に「電脳世界」など。

対応解釈は文面の先頭と末尾から考えることが多く、「譁」/「連」の組み合わせがぱっと見ではアンビグラマビリティに気づきがたいのが、全体のアンビグラマビリティに気づくにも観察を要した原因でしょうか。特に、文字のパーツの構造が対応させにくそうであることや、「譁」の「口」(閉じたパーツは文字の認識に重要なことが多い)の対応先が見えてきづらいことが、難しいポイントになっていたと思います。結果として完成形ではとてもばっちり対応させられたと思います。



2022-4月号(お題:マジック)


「杖/花」


「手品」「銀鳩」「読心術」などの候補から「杖/花」を選択しました。マジックという文脈がなかったら意味の遠い2文字をこの期に結びつけられたのもいい点に挙げたいです。対応解釈はいたってシンプルですね。絵の部分のほうが時間がかかってしまったおぼえがあります。



2022-5月号(お題:子供部屋)


「荷馬車の通過」


お題が狭くてもまたなかなか思いつけず難しかったです。「子供部屋」でいろいろ検索していて目に入った単語のうち「荷馬車の通過」が圧倒的にアンビグラマビリティが高かったので、妙な選語ではありつつも選択しました。難所「車の」によってアンビグラマビリティで篩い落とされることにならずに済んだのは、douseさんの作品「ピレネーの城」の「ーの」のアイデアが強く印象に残っていたおかげだと思います。
完成形では、「車」と「の」を重ねる、先例が心当たらない気がする解決策にたどりつきましたが、偶然にも同号のぺんぺん草さんの作品「TOY STORY2」も「TOY STORY」と「2」を重ねる似たアイデアになっていました。



2022-6月号(お題:世界史)


「肥沃な三日月地帯」
「埃及/尼罗」
「ソンムの戦い」


いい具合の作品がいろいろ描けて、3作も寄稿してしまいました。やはり月に1度の機会とあらば大作を目指したいもので、ボツ候補も「それでも地球は回ってる」「老兵は死なず只消え去るのみ」と張り切った感じのものになっています。
「肥沃な三日月地帯」はこの長さの単語でこのアンビグラマビリティの高さですから、発見してしまえば文字たちにまかせるのみという感じです。「沃」/「地」がすこし悩みどころですが、「沃」の「氵」の3画の作法がきれいにそろう対応解釈に到達できて、とても気に入っています。
「埃及/尼羅」の「及」/「尼」のアンビグラマビリティが目に留まり、もしやと思い調べたら中国語でも「尼罗」と表記することがわかったところで、嬉々として制作しました。「罒」の角ウロコと土偏の対応づけや、「矢」の両ハライを「罗」ではいずれも飾りとして無視してもらうところなど気に入っています。
ちょうど特殊文字組み対応解釈の作品を意識的に制作していたころでしょうか。「ソンムの戦い」も一応そういう意図で取りかかった作品でしたが、結果として対応関係自体にはあまり文字組みの妙は効いていないですね。全体の文字組みの流れが気持ちいいのはこうした制作経路があってだと思います。



2022-7月号(お題:海洋)


「ラニーニャ現象」


本作も特殊文字組み対応解釈の作品です。かなり慣れてきたころで、単語を見たら難なくこの対応解釈を発想できました。「ー」と対応する「現」と「象」のリガチャ的処理もアクセントになっている気がします。



2022-8月号(お題:光る)


「檣頭電光」
「亜光速」


「夜空の青/街の明り」「歪曲収差」などの候補から「檣頭電光」「亜光速」の2単語を選択しました。
ちょうど文字組みについていろいろ考えていて、斜め鏡像型アンビグラムも文字組みが不自然になりがちであることが気になっていたころでした。「檣頭電光」の、「檣」/「光」、「頭」/「電」を対応させるのではなく、「檣」/「檣」、「頭」/「電」、「光」/「光」を対応させるアイデアに思い至るには、タイミングが非常によかったです。
「亜光速」も作字もかっこよく整っていて気に入っています。アンビグラマビリティは高いですが、「亜」と対応させるときの「速」は「亜」に、点対称の「光」は「米」に見えてしまいやすいという耐久性の問題はありました。それぞれ「亜」より「速」、「⺌」より「儿」を優先することでそれらしく見せられていると思います。

「⺌」と「儿」の間をとろうとすると「米」っぽくなる



2022-9月号(お題:武)


「武家諸法度」


「止」/「廿」や「豕」/「土」などの細部の処理にいかしたかったのと、単語との相性とで、めずらしく慣れない筆文字に挑戦しました。筆ペンで紙に描き、写真からIllustratorで画像トレースし、パペットワープツールなどで調整をしていくかたちで描きました。にじみやかすれなどの手書きのニュアンスを保つにはかなりいい方法を思いつけたと思います。

「家」1画目の点と「度」1画目の点がぴったりはまっているのがチャームポイントかなと思いますが、この筆画の共有によって、実ボディのサイズや縦横比の調整にやや苦労しました。



2022-10月号(お題:人名)


「田鎖綱紀」


人名で作品を描くとなると、伴う“文字遊び以上の意味”が大きくなってしまう気がして、なかなか題材選びに悩みました。意味に縛られないようにシンプルにアンビグラマビリティの高い人名を探そうと、「黒岩涙香」「暉峻康隆」「山本七平」「平塚雷鳥/奥村博史」「廉頗/藺相如」などいろいろ迷走した候補から、偶然にも文字にゆかりもある「田鎖綱紀」を選択しました。それだけのアンビグラマビリティの高さもあって、とてもきれいな対応解釈にできたと思います。
ちなみに、左下は田鎖76年式速記で「タクサリコーキ」と書いてあります。速記記号は筆画の微妙なニュアンスの違いですぐに別の文字になってしまうので、速記もアンビグラムにするのは断念してしまいました。



2022-12月号(お題:時事)


「地域的な包括的経済連携協定」
「令和の怪物」


「悪い円安」「レンサイ×ノ×サイカイ(ハンター文字)」などの候補から「地域的な包括的経済連携協定」「令和の怪物」の2単語を選択しました。
「地域的な包括的経済連携協定」は文字組みありきのパーツ共有を多くの箇所でおこなっていて、複雑でおもしろい対応解釈にできたと思います。

文字の密度があまりにもぴったりとはまるので「4文字+5文字+4文字」の文字組み自体には、自然と誘導されるようにたどりつけました。この文字組みが見えてしまえばどの組み合わせも奇跡的なアンビグラマビリティで、描いていてパズルを解くようなたのしさがありました。

「令和の怪物」は、「令」/「勿」や「の」/「又」の柔らかい対応解釈をそれらしくするために、また筆文字に挑戦しました。「武家諸法度」ではすこし苦労する工程数を踏む方法をとってしまいましたが、本作は既存の筆文字フォントをベースにすることで、きれいで読みやすいものにできたと思います。



月刊アンビグラム寄稿作では月に1度の機会ということで凝った作品を目指すことが多く、そのたびに自分の作品の幅を広げたり新しい技法を開拓したりすることができています。すてきな場に参加させていただけて感謝してもしきれません。
ほかの作家さんの作品もすばらしい作品ばかりなので、もしまだ見ていない号がありましたらぜひご覧ください。


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